第269話 デートの予習でイチャイチャと

 楽しそうに話す二人をテーブルを挟んだ向こう側から呆れながら眺める陸翔と蕾華。


「ホントにたのしそうだよねえ、あの二人」


「ああ。まあオレ達も楽しみなのは間違いないけどな」


 陸翔と蕾華にとっても怜と桜彩と共に遊ぶのはとても楽しい。

 先日のテニスの練習や、その前のバーベキュー。

 これまでにも事実上のダブルデートは経験していたのだが、それでもダブルデートと銘打っての行うのは初めてだ。


「あ、そうだ。ねえりっくん。前にれーくんにダブルデートしようって言った時の事覚えてるよね?」


「ああ。春先のアレだろ?」


「うん」


 まだ二人共桜彩のことをよく知らなかった時、怜にそのような事を冗談で言った。

 まあ二人共怜とその彼女とダブルデートをしたかったのは本音ではあるのだが、だからと言ってその為に怜に彼女を作ってほしいとも思ってはいなかった。

 あの時はまさか怜と桜彩がこのような関係になるとは当人たちを含めて誰一人として想像出来なかっただろう。


「あの時のれーくんの台詞、覚えてる?」


「ああ。もちろんだ」


 あの時、陸翔と蕾華の言葉に対して怜は


『やだよ。二人とも結構ベタベタといちゃつくじゃん。俺は別にそれを見ても微笑ましく思うだけだけどさ、もし、仮に俺に彼女が出来たとしてお前ら二人とダブルデートしたら、二人の甘さで彼女が砂糖吐き出すぞ』


『そもそも三人で遊ぶ時だって二人で結構いちゃついてるじゃん。もしもダブルデートなんてことになったら、二人が更にレベルアップするのが目に見えてるし』


 と答えていた。


「あの時のれーくんの台詞、今のれーくんに聞かせてあげたいよね。あ、いやれーくんのことだから自覚なさそうだけど」


「だよなあ。下手したらオレ達よりもイチャイチャしてるからな」


「うんうん。むしろ砂糖吐きそうになるのってアタシ達の方だよね」


「この前なんて授業中にこっそりと手を繋いでたしな」


「しかもまだ付き合ってないんだよねえ」


「完全に両想いなのにそれに気が付くそぶりもないしな」


 はあ、とため息を吐きながら怜と桜彩を眺める二人。

 その視線の先では怜と桜彩がスマホでキサラギパークのホームページを見て明日のデートの予習をしていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 とりあえずはアトラクションということで、アトラクションの一覧をクリックする。

 そこに表示されたジェットコースターやフリーフォール、バイキングやコーヒーカップなどのアトラクションを一つずつクリックして細かく説明を読んでいくと、その一つ一つに目を輝かせる二人。


「あ、これ面白そう。ここにも行きたいな!」


「そうだな。それにこのアトラクションも――」


「ホントだ。これも絶対だね。他には――」


「それ賛成。あ、これはどうだ? きっと桜彩にも似合うと思うぞ」


「そうだね。あ、でも怜にも似合うと思うよ。ふふっ。写真撮ろっか」


 各アトラクションごとの説明を読みながら、出てくる内容一つ一つに一喜一憂しながらデートへと思いを馳せる。

 どれも楽しそうで、どれから乗ろうか目移りしてしまう。

 そして二人が気にしているのはアトラクションだけではない。

 今度は飲食のページを開いて、そこに掲載されている飲食店の内容を確認していく。


「あっ、これ美味しそう。ねえ、このチュロスも食べようね」


 その中の一つ、チュロスの屋台を目に留まる。


「うーん。このクレープも美味しそう。どっちを食べようか……あっ、いっそのこと両方でもいいかも!」


「ははっ。やっぱり桜彩は食うルさんだよな……あっ!」


 各種スイーツへと想いを馳せる桜彩を見て、つい怜の口からそんな言葉が飛び出してしまった。

 慌てて口をつぐむ怜だが、桜彩がその失言を聞き逃すことはない。

 おそるおそる桜彩の方へと目を向けると、そこには先ほどまでの表情とは一転して桜彩が目を吊り上げている。


「れーいー!?」


「ご、ごめっ……」


 即座に謝るが、間髪入れずに桜彩が怜の両頬へと手を伸ばして思い切り引っ張る。


「お仕置きだ! お仕置きだ!」


「ひゃっ! ストッ……ストップ!」


「また! 私のこと! 食うルって! 言ったよね!」


 頬を両側に大きく伸ばされながらもなんだか楽しそうな怜。

 桜彩の方も怒りながらもその表情には笑顔が混じっている。

 いわゆるいつものスキンシップだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「だからもう完全に恋人だよね、あれ」


「そうだよなあ。まあ遊園地であの二人をもっと意識させるようにするか」


「だよね。あーあ、遊園地の雰囲気に流されて告ってくれないかなあ」


 ダメ元で呟く蕾華だが即座に陸翔が首を横に振る。


「さすがにそれは展開早すぎだろ。あの超弩級の恋愛音痴の二人だぞ」


 まあそれは言われるまでもなく蕾華にも分かっている。

 その雰囲気に流されて告白するのであればもうとっくにくっついているだろう。

 あくまでもダメ元で言ってみただけだ。


「やってることは恋愛上手なんだけどね。付き合ってないってところに目を瞑れば」


 目を輝かせて明日の予定を考える怜と桜彩を、陸翔と蕾華は呆れながら眺めていた。

 するとそこで二人のスマホが震えてメッセージが届いたことを知らせる。

 差出人は怜の姉である美玖。

 それに桜彩の姉である葉月。

 陸翔と蕾華、そしてこのシスターズ二人を加えた四人のグループメッセージへの投稿だ。

 ちなみにこの四人でグループを作っていることは、シスターズそれぞれの弟妹である怜と桜彩には内緒である。

 スマホを操作すると、そこには美玖から送られてきた『GOOD』と喜び親指を立てているコアラのスタンプが表示されていた。

 なぜそのようなスタンプが表示されているのか。

 それは先ほど蕾華が送信した美玖へのメッセージ内容が、感謝を伝えるわけではなく作戦の成功を伝えるものだったからだ。

 その作戦とは、数日前の夕方、四人の話し合いまで遡る。



【後書き】

 次回投稿は月曜日を予定しています

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