第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚
第268話 遊園地でダブルデートしよう
夕食後、宅配業者が怜の部屋を訪ねて来た。
荷物を受け取り宛名を確認すると、発送者は怜の姉である美玖の名前が書かれている。
特に何かを送ると言われていたわけではないので中身が何なのか想像もつかないが、ひとまず伝票にサインをし受け取った箱をリビングまで持って行く。
「何だったの?」
キッチンでハニージンジャーミルクを作っていた桜彩が、手を動かしながら視線だけこちらへ問いかけてくる。
「姉さんから宅配便。何だろう」
リビングの床にそれを置きながら答える怜。
先述の通り美玖からは特に何かを送ったという電話やメッセージが届いていたわけではないので怜にも中身は何か分からない。
とはいえ宛名の筆跡は間違いなく美玖の物であるため、不審物というわけではなさそうだ。
「まあとりあえず開けてみれば分かるか」
そう言ってペーパーナイフを持って来てテープを切って箱を開く。
そこには封筒と何冊かの参考書が入っていた。
「……ああ、これか」
中身を見て納得する。
先日、美玖に参考書について電話で話す機会があったので、探して送って来てくれたのだろう。
「となると、後はこれか」
残っている封筒の封を開けて、中に入っていた紙を取り出す。
そこには
『怜
あなたが欲しいって言ってた参考書を送るからね。
それと少し早いけどお誕生日おめでとう。
遊園地のチケットを同封するから。
勉強ばかりしてないで、たまには桜彩ちゃんや蕾華ちゃん、陸翔君達と遊びに行きなさい。
それじゃあね 体に気を付けてね』
と手紙が入っていた。
どうやら数日後の怜の誕生日のプレゼントということらしい。
なんだかんだ言って優しい姉からの気遣いをありがたく思いつつ、怜はその手紙に書かれていた遊園地のチケット、という単語に注目する。
封筒の中を覗き込んでみれば、手紙の他にチケットが入っているのが分かった。
「キサラギパーク?」
確認すると手紙の通り遊園地のチケット。
怜のアパートからさほど遠くないところにある大きめの遊園地でアトラクションの数も多く、そこそこの知名度と人気を誇っている。
休日は人で溢れており、県外から訪れる人も多いらしい。
その遊園地のチケットが四人分も入っていた。
しかもただのチケットではなく優先券である。
遊園地自体が人気がある為に基本的に混雑しており人気のアトラクションに乗るのも一苦労すると聞いたことがあるが、これがあれば待機列を気にすることなくアトラクションを楽しむことが出来る。
はっきり言って高校生である怜にとっては手が届かない存在だ。
いや、買おうと思えば買うことは出来るのだが、さすがにそれはまともな金銭感覚を持っている怜としては選択肢として選べない。
「怜、それ何?」
チケットを手に取って眺めていると、肩口から不思議そうな顔を桜彩が覗かせる。
振り返ると桜彩が二人分のハニージンジャーミルクをテーブルへと置きながら、怜の手に持ったチケットを興味深そうに眺めている。
(…………そうだな。どうせ今週の土曜は俺の誕生日で四人で遊ぶ約束をしてるし。何をするかはまだ決めてないからちょうどいいかもな)
怜の誕生日が今週末であることは当然桜彩も知っている。
陸翔と蕾華を含めた四人で遊ぼうと決めていたのだが、まだ具体的な案は無かったのでちょうど良い。
「怜?」
考え事をしていると、再度桜彩が不思議そうな顔をして問いかけてくる。
きょとんとした桜彩に向き直って簡単に説明をする。
「ああ、悪い。姉さんから色々と届いてな」
「そうなんだ」
答えながら二人でソファーに座ってハニージンジャーミルクの入ったコップに口をつけると適度な甘さが口中に広がっていく。
いつも通り桜彩の作ってくれたこれは本当に美味しい。
「なあ、桜彩。今週の土曜日の事なんだけど」
「え? それって怜の誕生日?」
「そう。桜彩、四人でここに行かないか?」
そうチケットを差し出しながら、今週末の予定を提案した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼休み
「え? 遊園地? それもキサラギパーク?」
「ああ。どうだ?」
「行く行く行く行く絶対行く! りっくんも良いよね!?」
「ああ! それじゃあ土曜日の行先は遊園地ってことで!」
翌日の昼休み、ボランティア部の部室で昼食を食べながら陸翔と蕾華にそのことを伝えると二人共二つ返事で賛成してくれた。
桜彩を含めて誰一人として反対意見が出なかった為、これで土曜日の予定はキサラギパークで決定となった。
「そっかあ。美玖さんから貰ったんだ。お礼言っとくね」
「そうだな。メッセ送っとくか」
美玖からの手紙についても伝えると、二人共美玖に感謝しながらスマホを操作する。
画面は見えないがおそらくお礼を伝えているのだろう。
「キサラギパークかあ。アタシ行ったこと無いから楽しみだなあ」
「だよな。ここから遠いってわけでもないけどそこまで近いってわけでもないし」
「うんうん。行ってみたいとは思ってたんだけどね」
加えてチケットの値段についての問題もある。
キサラギパークは例え平日であっても来園者は多く、通常のフリーパスでは人気のアトラクションは諦めざるを得ない。
優先券であれば待ち時間を気にせずに楽しむことが出来るのだが当然ながら高額であり、どうしても訪れるのは躊躇してしまう。
その為、今回の美玖からのプレゼントは本当に嬉しい。
「それじゃあ土曜日は初めてのダブルデートだね!」
「「えっ?」」
蕾華の言葉に怜と桜彩の動きが止まる。
「そうだな。ダブルデートだな」
「うんっ! 楽しみだなあ!」
「……そっか。確かにダブルデートか」
「……だね」
怜と桜彩が蕾華の言葉に頷く。
そんな二人に陸翔と蕾華は一瞬驚いて
「うんうん。二人共デートってのをもう普通に受け入れてるよね」
「そうだな。最初の時はあんなにテンパってたのに」
「う……」
「そ、それは……」
二人でピクニックに行くと話した時、怜も桜彩もそれをデートだと指摘されて大層驚いた。
それが今では普通に受け入れることが出来ている。
「あはは。れーくんもサーヤも進歩したよね」
「ま、まあな」
「う、うん」
蕾華の言葉に当時のことを思い出しながら怜と桜彩が顔を真っ赤にしながら頷く。
「でもさ、二人には感謝してるんだよ。あれ以来、俺も桜彩も二人で過ごす時にデートだって意識すること多いし」
「雨の日に下校デートをしたよね」
「手芸店で放課後デートをしたこともあったよな」
「うんっ。それにさ、怜の部屋で一緒にぬいぐるみ作ったり勉強したりするのもお部屋デートって言えるしね」
「そうだな。もう学外ではいつもデートしてるようなものだけど」
初デート以来、二人で過ごしたデートを思い出しながら楽しそうに話す。
学外では登下校を除いてほとんど二人で過ごしている。
陸翔や蕾華の言葉を引用すれば、これもデートと言うことだろう。
「へー…………」
「そーなんだぁ…………」
一方でそんな風に変わってしまった二人をなんとも言えない表情で陸翔と蕾華が眺めている。
「ふふっ。初めてのダブルデート、楽しみだなあ」
「そうだな。楽しみだ」
初めてのダブルデート。
もう楽しいことは約束されているも同然だ。
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