第254話 球技大会開始
球技大会当日。
領峰学園のグラウンドや体育館、各部活のコートにて多くの生徒が汗を流して動いている。
当然ながらその中の一つであるテニスコートもその例に漏れることはない。
複数あるコートのうちの一つでは、ちょうど桜彩と蕾華のペアが試合をしている最中だ。
「えいっ!」
トレーニングウェアではなく領峰学園の体操着を着用した(下はジャージ)桜彩が思い切りラケットを振る。
相手が苦し紛れに返してきた、ネット際にゆるく上がったボールはその一振りにより思い切り相手のコートへと突き刺さる。
インであることは明白ながらそれでもコートの隅に入ったボールに相手は当然返球など出来るわけもなく、桜彩と蕾華のペアにポイントが入った。
「7ー3! 終わりでーす!」
審判役でもあるテニス部女子により桜彩と蕾華ペアの勝利が宣告されると相手を含めてネット前に並び互いに頭を下げる。
「「「「ありがとうございました」」」」
一礼してコートから出た所で蕾華が桜彩に対して片手を上げると、桜彩もそれにハイタッチして勝利を喜び合う。
「やった! ナイスサーヤ!」
「蕾華さんのおかげだよ!」
人前であっても敬語の取れた口調で桜彩が謙遜する。
先日、徐々に怜(と陸翔)とも皆の前でも普通に話せるようにする為の試みの一つとして、せっかくだから皆がいる前でもいつも通りの口調で話そうと蕾華から提案があったからだ。
その為蕾華に対してだけは桜彩もいつも通りにですます調ではなく普通の友人同士のように話すようにしている。
「そんなことないって! サーヤの方が多くポイント決めてるじゃん!」
「そ、それはそうだけど、でも相手のボールを拾ってるのは蕾華さんじゃない」
そこについては桜彩の言う通りである。
昨日、一昨日に怜と陸翔と共にテニスの練習をした際に、簡単に作戦というか決めごとについても考えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うーん。本番まであんまり時間もないし、作戦というよりも決めごとにした方がいいかもな」
当然ながらテニスのダブルスというのは相手とのコンビネーションが求められる(テニスに限らずだが)。
とはいえいくら練習しようと所詮は二日足らず。
テニス部のような阿吽の呼吸というのは無理だろう。
現に怜と陸翔を相手にした練習では基本的なところは出来てはいるが、それでも二人にとって遠い所のボールを取りに行く時などに二人同時に同じ方向へ走ってしまったり等々。
それでもまあ二人共運動神経は良いわけだし(特に蕾華)普通の相手には勝てるだろうが、もし相手が中学時代等に経験していた者が相手だと負けることもありうる。
球技大会自体は言ってしまえばお遊びではあるのだが、蕾華も桜彩もやるからには勝ちたいという思いは持っている。
とはいえいくら運動神経が良いとはいえ桜彩はこれまで未経験であるわけだし、本格的にダブルスの動きを体で覚えるのは不可能だろう。
そんなわけで怜はとある提案をすることにした。
「とりあえず前衛と後衛に分けちゃったほうが良いんじゃないか? 後ろのボールは基本的に全部蕾華が拾って桜彩はチャンスボール待ちってことで」
下手に二人共同じ事をやろうとするから戸惑うのであって、それなら完全に役割を分担した方がいい。
体力のある蕾華が相手の返球を徹底的に拾って、桜彩がチャンスを確実に決めるという作戦だ。
それで練習してみたところかなり良い感じに呼吸が合うようになった為、実戦でもその役割で行こうと決めた。
現に今の相手も動きからして片方は経験者であったのだが、それでも余裕をもって勝つことが出来た。
もちろん相手が二人共経験者であった場合は難しいことは予想されるのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ナイス、二人共」
「おめでと」
数分前に既に試合を終えている怜と陸翔が二人に寄って行ってそう言葉を掛ける。
「ありがとね」
「ありがとうございます」
桜彩がいつものクールモード、というわけでもなく顔に少しばかりの笑みを浮かべてそう言葉を返す。
このまま行けば、皆の前でも普段通りに接することが出来る日も近いかもしれない。
「りっくんもれーくんもおめでと!」
「おめでとうございます」
「サンキュ」
「ありがと」
当然ながら怜と陸翔も勝利した。
桜彩達はまだ試合中だったのだが、さすがに隣のコートで行われている試合の結果だけは分かったようだ。
「次はフットサルだよね。時間大丈夫なの?」
「ああ。十五分くらいしたらだな。まあそろそろ向かう予定。蕾華は?」
「アタシは二十分くらいしたらバレーボール」
桜彩はテニスにしかエントリーしていないが他の三人は複数種目に出場することになっている。
もっとも運動神経の良い桜彩も、クラスメイトが出場する種目の時間が被った場合に助っ人を頼まれているのだが。
「それじゃあな。渡良瀬、俺達の分まで蕾華の応援を頼む」
「よろしくな、クーさん」
「はい。任せて下さい。それとお二人も頑張って下さいね」
「りっくんもれーくんも頑張ってね!」
「ああ、お互いにな」
「それじゃな」
お互いに言葉を掛け合った後、軽く拳を合わせてテニスコートを離れる。
それぞれ応援したいのはやまやまなのだが、それでも競技の時間が被ってしまう以上は仕方がない。
まあさすがに毎試合時間が被るということはないだろうし、その時に応援すれば良い。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふーっ。疲れたあ」
「あれ、残念だったよねー」
「卓球って結果どうだった?」
「二勝して終わり。その次はぼろ負け。まあ二つ勝てたのは良かったよ。そっちは?」
昼休み、教室にそのような声が響き渡る。
当然ながら大半の話題は午前中の球技大会についてだ。
「お疲れさん。光瀬の方は?」
「今のとこフットサルとテニスは勝ち残ってる。一ノ瀬は残念だったな」
「しょうがないって」
例に漏れず、怜もクラスメイトとそのような会話を広げていく。
「これで点呼終えたら帰れるからなー」
球技大会の日は朝と昼の点呼さえ出席すれば、後は何をしていようが問題は無い。
実際にこのクラスメイト、一ノ瀬は自分の出場するドッヂボールで敗退した後、教室に戻ってスマホのゲームをプレイしていた。
もちろんそれ自体は別に咎められることでも無い。
「昼飯は食って行かないのか?」
「どうすっか考え中。学食で食ってから帰っても良いんだけど、さっき三枝にラーメンでも食いに行かないかって誘われてさ」
「そっか」
「光瀬は弁当か?」
「ああ。当然持って来てる」
「はは。だよな」
この日も怜はお手製の弁当を作って持ってきた。
この後、ボランティア部の部室に移動して四人で食べる予定だ。
そんな雑談をしていると教室前方の扉が開き、担任の瑠華が入ってくる。
「はいみんなー、お疲れさまー」
「「「お疲れさまーっ!!」」」
瑠華の言葉に怜を含めた何人ものクラスメイトが言葉を返す。
なんだかんだ言って生徒に慕われているのが瑠華だ。
「うんうん。みんな頑張ってたよねー。まあ早く帰りたい人も多いだろうし、さっさと点呼終わらせちゃうねー。うんうん、みんなちゃんといるよねー」
そう言って瑠華は教室中に視線を走らせる。
既に皆が自分の席に座っている為に、全員が教室へと戻っていることは瑠華にも直ぐに確認出来た。
「はいオッケー。それじゃあ点呼しゅーりょー。みんな午後も頑張ってねー。それと競技が終わった人はまだ残ってる人を応援するなり勉強するなり帰るなり自由にして良いからねー。それじゃあ解散!」
それだけ言って瑠華が教室を出て行くと、大して間を置かず先ほどの一ノ瀬をはじめとした何人かが帰宅の為に教室を出て行った。
残った者は弁当を広げたり学食へと移動したり、購買へパンを買いに行ったりとそれぞれ自由気ままに昼休みを過ごしていく。
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