第251話 ダブルスをしよう
「それじゃあ今度は四人でラリーやってみるか」
そう言いながら桜彩と同じコートに入る怜。
それを見て桜彩が首を傾げる。
「あれ? 怜がこっちに入るの?」
球技大会では怜と陸翔、桜彩と蕾華がそれぞれダブルスを組むのだからそう思うのも当然だろう。
「まあな。まずは四人でラリーを楽しもう」
「うんっ、よろしくね、怜」
「ああ、こっちこそ」
笑顔で頷きながら左右へと別れる。
桜彩としても、もちろん蕾華と組むダブルスも楽しみではあるのだが、それ以上に怜と共にダブルスを組んでみたいという思いがある。
その為その提案は願ってもないことだ。
「えっと、ダブルスの注意点ってあるの?」
「まあ真ん中に来たボールはフォア側の人が打つってくらいかな。細かい事言えば他にもたくさんあるけど、まあまずは楽しむためのラリーだから」
「分かった。それじゃあやってみよっか」
話し終えたところでネットの向こう側の陸翔と蕾華がこちらの方へと向き直る。
「それじゃあ打っていくよーっ」
「オッケー!」
「うんっ!」
笑顔で答える二人。
それに対して蕾華は先ほどと同じく優しく山なりにボールを返す。
それを怜も山なりの打ちやすいボールで陸翔に向かって返球する。
「さやっち、いくぞーっ!」
「う、うんっ!」
陸翔から返された山なりのボールを桜彩が打ち返すと、それは蕾華の方へと返っていく。
「うんうん、上手上手!」
言いながら蕾華が怜ではなく桜彩に向かって返球する。
てっきり四人が順番に打っていくと思って油断していた桜彩。
「わっ!」
予想外の展開に慌てながらも何とかラケットに当てる桜彩。
とはいえボールはちゃんと相手のコートへと戻っていく。
「その調子だよーっ! それっ!」
「わっ、えいっ!」
少々きつい場所に蕾華がボールを落とすが、それでもその運動神経でボールに追いついた桜彩が何とか返球する。
「次行くぞ!」
「えっ!?」
「桜彩、任せて!」
今度は桜彩が取れない場所に陸翔が山なりにボールを返すが、それは怜がカバーする。
ここまでくるともはやラリーではなく単なる桜彩の特訓だ。
その後何回か交互に打ち合った所で桜彩の返球がネットに当たってやっと一息つくことが出来る。
思った以上にきついラリーが続いたので桜彩が肩で息をする。
「うんうん! 凄いよサーヤ!」
ネットの向こうで蕾華が桜彩に拍手を贈る。
まさかここまで出来るとは思ってもいなかったのだろう。
「はぁ……はぁ……疲れたあ…………」
ラリーの前から怜に色々と教わりながら動いていた身としては、やはり今のラリーは堪えたのだろう。
「てかさ、ラリーって言ってたよな? 途中から明らかにラリーの球筋じゃなかっただろ」
口を窄ませながら抗議する怜。
ふたりからの返球はラリーのように桜彩が打ちやすいようなボールではなく、ぎりぎりの所を攻めるようなボールだった。
「ん-、まあそうだったんだけどさ。思った以上にサーヤが良い動きするからつい、ね」
両手を合わせながら、ごめんね、と蕾華が頭を下げる。
まあ怜としても蕾華の言うことは分からないでもない。
実際に今の桜彩のプレーは未経験者とは思えないほど見事だった。
「でもさ、これはこれで楽しかったでしょ?」
「う、うん……。確かに面白かったよ」
少し肩で息をしながら答える桜彩。
実際に蕾華と陸翔が返してきたボールを返球するのは疲れはしたが、それはそれとしてテニスとしての充実感も感じた。
やはりラリーを続けるのも難しいボールを返球するのもそれぞれ楽しい。
「それじゃあもう少しこのまま続けるか」
「うん」
にっこりと笑って頷く桜彩。
桜彩がこういうのであれば怜としては頑なに否定するつもりもない。
むしろ球技大会に備えるという点ではラリーよりも良いかもしれない。
「分かった。それじゃあ続きやるか」
「うんっ! りっくん、二人に負けないように頑張ろっ!」
「おう! 怜、さやっち、覚悟しとけよ!」
「えっ……、ええっ!?」
「いやだから待てって! 桜彩は初心者なんだから、ちゃんと練習をだな……」
笑い合う二人に慌てて怜がツッコミを入れる。
まあ陸翔も蕾華も冗談で言っているのは分かるのだが。
「あははっ! それじゃあ行くよーっ! えいっ!」
「わわっ!」
言いながら厳しいコースに打たれたボールを桜彩が何とかラケットに当てる。
やはり桜彩の運動神経はかなり良い。
そんなことを考えていると、陸翔が思い切りボールを打ってくる。
「おい怜! よそ見すんなよ!」
「だからもう少し甘いボールを……」
そんな感じで四人はテニスを楽しんでいった。
一応、陸翔も蕾華も桜彩の練習になりそうな球筋で打ってきてくれたのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあそろそろ桜彩と蕾華で組んでみるか」
そもそもこのテニスの目的は、来週行われる球技大会の練習だ。
ダブルスで出場する以上、桜彩と蕾華の連携を深める必要がある。
「うんっ。それじゃあサーヤ、よろしくね!」
「うん。よろしくね、蕾華さん!」
そう笑いながら桜彩と陸翔がコートを移動して入れ替わる。
すると蕾華は同じコートに立った桜彩の耳にそっと口を近づけて
「れーくんと離れちゃったけど寂しい?」
そう口にする。
「えっ!?」
予想外の問いに一瞬で顔を真っ赤にする桜彩。
桜彩としては怜と組むダブルスも楽しかったのだが、だからといって蕾華とのダブルスが嫌というわけではない。
むしろそれはそれとして楽しみではある。
「あ、べ、別に……」
「へー。れーくんと離れても寂しくないんだ」
「そ、そういうわけじゃ……」
蕾華がクスクスと笑いながら桜彩をからかう。
もちろん桜彩としてもっと怜と一緒のチームでテニスをやりたかったという思いもある。
その為どう答えて良いか分からずにあわあわと慌ててしまう。
そんな桜彩の姿を楽しそうに眺める蕾華。
やはりこうして親友の色恋をからかいながら応援するのは楽しい。
これを機にもっと意識するようになってほしいのだが。
「えへへっ! サーヤ、可愛い!」
「も、もう、蕾華さんっ!」
「ごめんごめん」
そんな桜彩を可愛く思った蕾華がいきなり桜彩を抱きしめて頭を撫でまわす。
それに対して桜彩は困ったような照れたような、そんな微妙な表情を浮かべて撫でられるがままとなっていた。
一方、ネットを挟んでその光景を見ている怜と陸翔。
「む……」
微妙な顔をした怜からふとそんな声が漏れる。
桜彩と蕾華の仲が良いのは怜にとっても良いことなのだが、それはそれとして桜彩に抱きついて撫でまわす蕾華に釈然としない。
それを見て陸翔も
(……分かり易いなあ)
などとと思ってしまう。
桜彩に抱きつく蕾華にこうまで分かり易く嫉妬するとは。
するとそんな怜の姿にふと陸翔の中にもイタズラ心が芽生えてくる。
「どーした怜? オレもお前に蕾華みたいにしてやろうか?」
「え……?」
隣から聞こえてきた言葉にふと怜が顔を横に向けると、その目には何かを企んでいるような陸翔の顔が映る。
どういうことかと聞こうとするが、その前に陸翔が動き怜に抱きついて頭を撫でまわす。
「っておいコラ!」
「遠慮すんなって! ほら、蕾華みたくオレが頭撫でてやるから」
「頼んでねえ!」
「いいじゃねーか!」
「だからやめろっての!」
怜に抱きつき頭を撫でまわす陸翔と嫌そうに引きはがしにかかる怜。
「むぅ……」
二人の姿を蕾華に抱きつかれたままネットの向こう側から桜彩が不満げに見つめる。
(こっちも分かり易いよね)
嫉妬する桜彩を可愛らしく思いながら、蕾華は桜彩を愛で続けた。
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