第241話 夕食の買い物と調理と勉強
「それじゃあねーっ」
「じゃな」
「また明日」
「うん。さようなら」
桜彩の買い物が終わって二人とは別れ、当初の目的通りに食品売り場へと向かい、入口に置いてある籠を持って二人で店内を歩きながら食材を吟味する。
普段使っているスーパーとは陳列も品揃えも違う為、二人にとっては色々と新鮮だ。
「今日は何を作る予定なの?」
「そうだな。まあ高タンパク低脂質が基本かな」
「でも怜って結構そういうの作るよね」
「まあそればっかりってわけじゃないけどな」
実際に桜彩と一緒に料理をするようになってからは揚げ物等油を使う料理もそこそこ作っている。
とはいえ元々怜はあまり油を使ったりする料理を作ることは少なく、基本的には高タンパク低脂質メニューを作ることが多いので特に問題は無い。
「有名どころだと鳥のむね肉?」
「そうだな。他には羊肉とかヒレ肉とかマグロとか。まあ色々あるぞ」
「そっか。あっ、あそこがお肉のコーナーだね。まずはお肉から見ていこっか」
「ああ、そうするか」
そして二人はいつも通り仲良く買い物を続けていった。
もっともいつものスーパーよりも買い物客が多く、周囲からの視線をいつも以上に集めることになったのだがそれに気が付くことはなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あっ、今日は鶏のむね肉がセール品だって!」
店内に掲示されているチラシを見た桜彩が笑顔で振り向き喜びの声を上げる。
「まさにちょうどじゃない?」
「だな。それじゃあ鶏むね肉をメインにするか」
「うんっ。何を作るの?」
「そうだな。調理法もあまり油とかを使わないとなると……」
いくら鶏むね肉の脂質が少ないとはいえ、調理法次第では台無しになってしまう。
頭の中でいくつかの調理法を考えながら、桜彩の要望を満たすメニューを思い浮かべていく。
少しすると、怜の頭にとある料理が思い浮かぶ。
(そうだな。そっち系は最近作って無かったしな)
「怜? どうしたの?」
「いや、どうもしないって。ただ今日のメニューを決めただけ」
そう言ってむね肉のパックを一つ選んで籠へと入れる。
「えっ? 何を作るの?」
「それは作るまでのお楽しみだな」
「ふふっ。楽しみ」
別に特に隠す必要も無いのだが、とはいえあまり一般家庭で作るメニューというわけでもない。
料理名を言ったところで桜彩に分かるとも思えないので、とりあえず夕食の準備のお楽しみということにする。
「それじゃあ後はレタスとキュウリと……」
「うんっ。それじゃあお野菜のコーナーだね」
二人揃って野菜のコーナーへと移動する。
「えっと……レタスは、これ?」
手に持ったレタスを見せながら、少しばかり自信なさそうにおずおずと桜彩が聞いてくる。
それを手に取って確認し、問題ないと頷く。
「ああ、それで良いぞ」
「ふふっ、良かった」
桜彩の選んだレタスは怜の目から見ても、他の者に比べて質が良い。
これも普段の買い物の時に色々と教えているからだろう。
「調理だけじゃなく、こういった目利きも良くなってきたよな」
「ふふっ、ありがと。いつも怜が教えてくれるおかげだよ」
「桜彩が頑張ってるからだって」
「ううん。私一人じゃ絶対に無理だったからさ。だからありがとね」
そう二人で笑い合って買い物を続けていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あの二人、同棲してるのかな?」
「いやー、制服ってことは高校生でしょ? 兄妹じゃない?」
「でもそれにしては距離が近すぎない?」
「もしかして彼氏にご飯作ってあげるとか?」
「でもなんか男の子の方が料理出来そうな感じじゃない?」
「ってことは彼女に料理作ってあげるのかな? いいなー、そーゆー彼氏」
二人の会話を身近で聞いていた他の客は、怜と桜彩の会話の内容と仲の良さにそんな感想を抱いていたのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいまー」
帰宅後、着替えた桜彩がれっくんと鞄を抱えて怜の部屋を訪れる。
鍵は開いていると言われていたのでそのまま入ると、既に怜がキッチンに立って夕食の準備を始めていた。
「おかえり。もう準備は始めてるから」
色々と買い物があった為、帰宅時刻はいつもに比べて随分と遅くなってしまった。
その為、怜は桜彩が来る前に夕食の支度を始めることとした。
すでにキッチンの一角で鶏ガラで出汁を取り始めている。
「ありがとね、私もすぐに支度するからさ」
そう言ってれっくんをりびんぐの椅子に座らせた後、誕生日プレゼントのエプロンを着用して怜の横へと桜彩が並ぶ。
「それじゃあ二合分のお米を研いでもらえるか?」
「うん。任せて」
指示通りに米櫃を開けてそこから二合分の米を取り出して楽しそうに洗っていく。
楽しそうに口ずさんでいる桜彩を横目で見ながらその横で怜も鶏むね肉の仕込みの方を進めていく。
「研いだよー」
「ありがと。こっちの準備もオッケーだ。それじゃあご飯炊いちゃおう」
「うんっ」
炊飯器に米を入れた後、普段はここで水を入れるのだが今回は水ではなく鶏ガラスープと各種調味料を入れる。
その上に処理した胸肉と長ネギを入れて準備は終了だ。
「それじゃあ炊いていくか」
「うんっ。楽しみだなー。もう完成が待てないよ」
桜彩が期待に満ちた目で炊飯器を眺める。
とはいえいくら眺めたところで炊き上がりが早くなるわけでもない。
「まあこれ以上今の俺達に出来ることはないからな。とりあえず炊き上がりを待ちながら今日の復習を先にやっておくか」
「うーん、確かにそうだね。それじゃあそうしよっか」
怜の言う通り、これ以上は手の出しようがない。
その為桜彩も怜の言葉に頷いて鞄から勉強用具を取り出してリビングのテーブルの上へと並べていく。
怜の方も自室へと戻り教科書やノートを持って来て椅子へと座る。
「まずは物理からだよね。えっと、波の複合でしょ?」
「そうそう。分からないとこはあったか?」
「ううん、大丈夫だよ。分からないところは昨日の時点で怜が教えてくれたからね」
昨夜、二人で予習した際に理解が難しい所は既に怜に教えて貰っている。
その為、授業内容に関してはほぼ問題ない。
怜の方は言わずもがなだ。
「とはいえ三角関数を使うのが多いからね。あれ、公式が多すぎて物理なのにむしろ数学の方が難しいよ」
「といっても授業で学んだ公式について、桜彩はちゃんと覚えてるだろ?」
「うん。それはそうなんだけどね」
三角関数の合成や乗算についての公式は桜彩も一通り理解している。
これはただ公式を覚えるのではなく、なぜこのような公式に繋がるのかを理解した上で覚えているからだ。
「まあ頑張るしかないよな」
「うん。それじゃあ取り掛かろっか」
『桜彩ちゃん。頑張ってニャ』
れっくんを抱えた怜が腹話術で桜彩を応援する。
そんな怜の行動に桜彩はクスッと笑って笑顔を向ける。
「ふふっ。怜とれっくんに応援されたらやる気が出てきたよ」
「ああ。それじゃあ頑張るか。俺の場合は世界史からだな。ぶっちゃけて暗記が多いから苦手なんだよな」
「そんなこと言ってテストは良かったじゃん」
「覚えるのが面倒なんだよ。まあ覚えるしかないんだけど。幸い今の範囲について、大まかな時代の流れは頭に入ってるから補完する程度で済むんだけど。えっと、まずは――」
「ふふっ。怜も頑張ってね」
『怜君も頑張るニャ』
怜の持っていたれっくんを手に取って、今度は桜彩が腹話術(と呼べる程の技術でもないが)で怜を応援する。
それを見て怜も先ほどの桜彩と同様に笑顔を返す。
「ははは、ありがとな」
そう言って二人は夕食のことを一旦頭の片隅へと移動させて、本日の授業の復習に取り掛かった。
【後書き】
次回投稿は月曜日を予定しています
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