第232話 エピローグ① ~告白の結果は?~
「ふう……」
ため息を吐きながらボランティア部の部室の前に到着する。
別に自分が何かしたわけでもないのでやましいことなど一切ないのだが、なぜか扉を開けるのに緊張してしまう。
「…………よしッ!」
このままこうして突っ立っているわけにもいかないので、思い切って扉を開ける。
するとその音に反応したのか中の三人から視線が一斉に飛んで来た。
「よう。お疲れー」
「お疲れ様、れーくん」
陸翔と蕾華が怜の気持ちを軽くするかのように、にっこりと笑いながらそう声を掛けてくる。
そして残る一人の桜彩は――
「あ、えっと……その、お疲れ様……」
不安、心配、そう言った表情を浮かべながらおずおずと怜に声を掛ける。
正直なところ、桜彩自身も何と言っていいのか分からない。
「あ、ああ……」
そんな桜彩に対して怜もぎこちなく言葉を返す。
特に何かしたわけでもない、いつもと変わらない。
頭ではそう理解しているのだが、どうにも思考が働かない。
「……………………」
「……………………」
それきり言葉が続かずに固まってしまう。
そんな二人を見てしょうがないな、と親友二人は声を上げる。
「とりあえず入って来いって」
「うんうん。そこに立っててもしょうがないし」
二人の言葉で怜は今の状況を思い出した。
部室の扉を開けて挨拶を交わしたまま棒立ちの状態。
そんな自分の状態にも気が付けないほどに上の空となっている。
慌てて首を横に振って、ソファーの元へと歩いて行き腰を掛ける。
四人共ソファーに座り(もちろん怜と桜彩、陸翔と蕾華の組み合わせで横に座っている)これで話が出来るようになったのだが、いかんせんどう話を切り出して良いのか分からない。
なにしろ昨日美都から送られてきたメッセージには伝えたいことがある、としか書かれていなかった。
むろんそこから伝えたい話の内容は大体想像がつくのだが、かといってそう言うのも違う。
怜としても美都が勇気を出して伝えてきた内容を、いくら相手が信用出来る親友とはいえペラペラと話すわけにもいかない。
全員がどう話を切り出したら良いかと悩んでいると、ふいに怜のスマホが震えた。
確認すると美都から着信のようだ。
三人に目配せして部屋の隅へと移動し通話のボタンを押す。
『あの、すみません、光瀬先輩』
電話口から歯切れの悪い、申し訳なさそうな美都の声が響いて来る。
「どうかしたのか?」
三人に聞こえないように小声で答える怜。
先ほど別れた美都がこうも早く電話を掛けてくるとは思わなかった。
『えっと……その……友達が待っていてくれたんですけれど、その……結果はどうだったのかと言われまして……』
「…………ああ」
つまり美都の友人が、告白の結果について知りたいと言ってきたということだろう。
『そ、その、先輩に告白するとは言っていなかったのですが、どうも先日見られたメッセージからもう内容が想像出来てしまったようで……』
先ほど美都は 『先輩にメッセージを送ったの、友達にバレてしまったので』と言っていた。
メッセージの内容と美都の態度からバレてしまったのだろう。
「つまり結果を伝えても構わないかってことか?」
『は、はい……。申し訳ありません……』
「分かった。俺はまあ構わないが……」
『あ、ありがとうございます……。それで、その……光瀬先輩の方も、ボランティア部の方々にお話しされる分には構いませんので』
その美都の言葉に怜が驚く。
「良いのか? いや、確かにまあ三人にも内容はバレてるっぽいけど」
『は、はい……。むしろもう私の方から大きくバレてしまっていますので……』
美都の言葉に怜が首を傾げる。
これは怜も知らないことだが、昨日美都が怜にメッセージを送った時、美都のクラスにはまだ多くの人が残っていた。
その際、側にいた友人にメッセージを送ったのがバレて、そこからなし崩し的に多くの人に怜へメッセージが送ったのがバレてしまった。
人の口に戸は立てられぬ、という言葉もある通り、おそらくそこから広まってしまうだろう。
「分かった。それじゃあ」
『はい。失礼しますね』
そう言って通話が終わる。
そして怜はスマホをポケットへと仕舞って再び三人の下へと歩いて行きソファーに腰掛けた。
「何だったの?」
テーブルを挟んで蕾華が聞いてくる。
その問いに怜は一度息を大きく吐いてから返事を返す。
「佐伯から。さっきの用事についてだけど、まあ色々とあって皆に話しても良いって」
とりあえず詳しい説明が面倒な為、そう簡単に伝える。
当然ながらそう言われただけでは三人とも良く分からないので頭に疑問符が浮かぶことになるが、それでも重要な事だけは理解出来た。
それが分かって蕾華が身を乗り出して口を開く。
「……えっと、それじゃあれーくんに聞くね。れーくん、今彼女っている?」
その質問に怜の隣に座る桜彩の体がビクッと震える。
青ざめて不安そうな表情で怜の顔を見つめてくる。
「いないよ」
蕾華の問いに首を横に振ってしっかりと答える。
(そ、そっか、そうなんだ……! 良かったあ……!)
それを聞いて、強張った桜彩の顔が少しばかり緩む。
怜に付き合っている相手がいないということが分かり、緊張が少しずつ解けていく。
怜に向けていた顔を自らの両膝へと落とすと自然に笑みが浮かんでくる。
ドクン
怜が美都付き合うことはなかった。
その事実に安心した際に桜彩の胸が高鳴り、ふと胸元へと手を当てる。
その服の下にあるのは怜とのデート記念のネックレス。
(この気持ちは――)
「ふーっ、そっか」
蕾華も一安心したように大きく息を吐いてソファーへと背中を預ける。
その蕾華の一言により、桜彩の意識が現実へと戻される。
陸翔の方へと目を向けると、陸翔もうんうんとゆっくりと頷いている。
分かってはいたことだとはいえ、怜の口からそれが聞くことが出来て一安心だ。
「怜。ちなみになんだけどな、佐伯からの話は告白だったのか?」
「ああ。でも断った」
「……そっか。だよな」
「まあな。佐伯のことは人としては好きだけど、異性として好きとかそういう感情は持っていない」
「だな。そうだよな」
怜の言葉に陸翔が深く頷く。
怜が美都のことを気に入っていることは陸翔や蕾華も気が付いている。
そしてそれが恋愛感情とは結びついてはいないことも。
「二人の言葉を借りれば、俺は佐伯に対して『この人じゃなきゃ駄目』っていう感覚みたいのはないからな」
むしろそれがあるのは――
初デート時、高台で感じたあの感覚は――
そんな思いが頭に過り、ふと隣に座る桜彩の方へと視線を動かす。
ドクン
その横顔を見て胸の高鳴り、ふと胸元へと手を当てる。
その服の下にあるのは桜彩とのデート記念のネックレス。
(この気持ちは――)
「怜? どうかしたの?」
固まってしまった怜に桜彩がきょとんとして問いかけてくる。
「い、いや、なんでもないよ」
「そう? それなら良いんだけど」
そう言ってふっと微笑む桜彩。
ほぼ一日ぶりに見る桜彩の微笑。
美都からのメッセージが送られてきて以来、初めてだ。
なんだか本当に久しぶりに見たような気がする。
そんな桜彩に対して怜も自然と顔に笑みが浮かぶ。
「ふふっ。怜、どうしたの?」
「いや、なんだか桜彩が笑ってる顔を久しぶりに見たなって」
「え? 久しぶりって、私、そんなに笑ってなかった?」
「ああ。昨日、佐伯からメッセージが送られてきてからな」
「あ……うん、ごめんね」
どうやら思い当たることがあるのか桜彩が頭を下げる。
(そっか。私、怜が佐伯さんに告白されるって思ってから、ずっと笑ってなかったのか。でも、怜が佐伯さんの告白を断ったって聞いて、また笑えるように……)
「桜彩?」
「あ、ううん。なんでもないよ。それじゃあ帰ろっか」
桜彩の言葉に四人で立ち上がる。
そもそも三人がここで待っていたのは怜に話を聞く為だ。
まあ怜が素直に話すとは思っていなかったので、どちらかというと陸翔と蕾華としては桜彩の不安を少しでも和らげようと思っていたわけだが。
【後書き】
・次回投稿は月曜日を予定しています
・エピローグは2話構成であり、第四章はまだ続きます
・第四章についてですが、当初第193話~の美都についての話を中編として
この後の後編で怜と桜彩双方に好きという気持ちを自覚させる予定でした。
ただ私の管理の甘さから美都編が当初の予定よりもはるかに長くなってしまった為美都編を中、後編に分けて次話で第四章を終了させることとしました。
一応、美都編が長くなった言い訳をさせていただきますと、この話のテーマとして桜彩の恋敵を登場させて、怜と桜彩それぞれの気持ちを動かそうというのが目的でした。
その際に、美都には怜のことを外見や頭の良さだけではなく本質的な部分で好きになって欲しい、その為にはそれなりの理由が必要だろうと考えた結果、美都のイベントが多くなってここまで長くなってしまいました。
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