第227話 衣替え③ ~制服姿の二人~
「はい、着替えたぞ」
男子の制服は女子よりも簡単なつくりとなっている為、すぐに制服へと着替えてリビングへと戻る。
そして先ほどの桜彩と同じように、両手を広げてアピールする。
「桜彩から見てどうだ? 変じゃないか?」
「ううん、似合ってる似合ってる! すっごく素敵だよ!」
『うん。桜彩ちゃんの言う通り、良く似合ってるニャ』
れっくんの言葉を嬉しそうに代弁してうんうんと頷く桜彩。
目を輝かせながられっくんと共に制服姿の怜の周囲をぐるぐると回って全身を確認していく。
「ふふっ。やっぱり素敵だな」
「う……あ、ありがと……」
「うんっ」
赤くなった顔を背けながら頬を掻く怜に、桜彩はにっこりと微笑みかける。
その顔が見れただけで、先ほどのある意味理不尽な多数決に負けたこともまあ良いかと思ってしまえそうだ。
「あっ、そうだ。せっかくだから写真撮ろっか」
「写真か……。うん、そうだな。撮るか」
「うん。ちょっと待ってね……。それじゃあはい、チーズ」
そう言ってスマホを取り出すと手早くカメラを起動して、制服姿の怜をスマホのカメラに収める桜彩。
そこに表示された笑顔の怜を見て嬉しそうにニコニコと笑う。
「それじゃあ次は桜彩だな。はい、チーズ」
「うんっ」
怜がスマホのカメラを向けるとれっくんを抱いた桜彩がにっこりと微笑む。
「ほら、良く撮れてるぞ」
「うん。ありがとね」
「それじゃあ次は二人揃って撮ろうか」
「あっ、それ賛成!」
そう言ってスマホのカメラをタイマー設定にしてテーブルへと立てかける。
そして二人は体を密着させてカメラに向かって顔を向ける。
パシャッ
少し遅れてカメラからシャッター音が響いたので、早速撮った写真を確認する二人。
「どれどれ?」
「えっと……うんっ! 大丈夫、ちゃんと撮れてるね!」
「ああ」
そこには飛び切りの笑顔を浮かべた制服姿の二人が並んで写っていた。
それを見て、お互いに顔を見合わせてふふっと笑い合う。
「ふふっ。ねえ怜。せっかくだしさ、今日はこのまま制服で過ごさない?」
「制服で?」
「うん。ほら、いつも怜の部屋だと私服でしょ? だからさ、こうして怜の部屋で制服を着てるのってなんだか新鮮だなって」
桜彩の提案を少し考えてみる。
確かに桜彩の言う通りこの部屋で過ごすときは二人とも私服姿だ。
朝も夜も二人で料理をする為に、エプロンをしていようと制服だと汚れる可能性がある。
それに加えてやはりラフな私服の方が色々と過ごしやす為、この部屋で制服を着て過ごすことはなかった。
「ねえ、ダメかな……?」
いつも通りに怜を見上げながらのおねだりに怜もふっ、と笑って頷く。
「そうだな。確かに桜彩の言う通り、そういう過ごし方も楽しいかもな」
「でしょ? ふふっ。こうして制服姿の怜と過ごすのって新鮮だな」
「確かにな。学校では二人とも制服だけど、そんなに話す機会もないし」
普段学内では制服で過ごしているが、二人の関係は親友である二人を除いて隠している為にこうして制服姿で話せることは少ない。
唯一話すことが出来るとしたら、ボランティア部の部室内だけだろう。
「それじゃあ今日は制服でお家デートだね」
「ああ。制服でお家デートだな」
そう言って二人で笑い合う。
いつものお家デートがそれだけでなんだか特別な物に思えてくる。
「そうだ。この写真、蕾華さんと陸翔さんにも見てもらおっか?」
「そうだな。それじゃあグループメッセージに投稿してくれ」
「うんっ!」
そう言って桜彩がスマホを操作すると、四人のグループメッセージに今撮ったばかりの写真が表示された。
『明日から夏服に変わるので、怜に確認してもったよ』
写真だけでは状況が伝わらないのでそう一文を添えておく。
数秒後に怜を含めた三人分の既読表示が付いた。
『サーヤもれーくんも夏服に合ってるね!』
早速蕾華がメッセージを送ってくる。
ついでにウキウキで万歳をしている猫のスタンプも追加で送られた。
『てかなんで怜まで制服着てるんだ?』
陸翔からは真っ当な指摘が送られてきた。
まあそれはそうだろう。
『俺は別に着なくても良いって言ったんだけどな 桜彩が着てくれって』
『だって私だけ着るのって不公平だもん それに怜が私の制服姿を凄く褒めてくれたから 私も怜の制服姿を見たかったの』
『え? れーくんサーヤの制服姿を見てなんて言ってたの?』
『凄く似合ってる 可愛いって言ってくれました!』
こちらもついでに桜彩が喜んでいる猫のスタンプを添えて送る。
『そっかそっか サーヤ、良かったね』
『うん それに怜の制服姿もとっても素敵だよね それと、いつも怜のお家では私服で過ごしてるから、今日は気分を変えてこのまま制服でお家デートを楽しむんだ』
『うんうん 二人共お似合いだよ』
『そうそう 蕾華の言う通り』
『ありがとうございます』
『ありがとな』
そしてくすりと笑って四人のメッセージのやり取りは終了した。
親友とのメッセージトークが終わって怜と桜彩はニコニコと笑いながらスマホを置く。
「あの二人もお似合いだって言ってくれたね」
「ああ」
もっとも蕾華と陸翔の『お似合い』という言葉は制服が似合っているというのもそうなのだが、怜と桜彩の二人がお似合いのカップルだという意味なのだが。
「あ、そうだ。ねえ怜、葉月にも送っていいかな?」
「葉月さんに?」
「うん。せっかくだから見せてあげようかなって」
「ああ。良いんじゃないか?」
「うん。それじゃあ送るね」
そう言って桜彩は再びスマホを手に取って葉月へと写真を送った。
ピピピピピピピピピ
すると十秒と掛からずに桜彩のスマホが着信を知らせる。
当然ながら電話をかけてきたのは桜彩の姉である葉月だ。
シスコンだけあって流石に早い。
「もしもし?」
『あ、桜彩? 制服似合ってるわね!』
桜彩が通話ボタンを押すと、スピーカーモードにしたスマホから興奮した葉月の声が聞こえてくる。
「ありがとう、葉月」
『それに怜も一緒なのね』
「うん! せっかくだからね」
先ほどと同じことを葉月にも伝えると、電話口の向こうから苦笑したような声が聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………なあ蕾華、どう思う?」
「…………どうもこうもねえ。お互いがお互いの制服見てテンション上がったってことでしょ?」
「せっかくだから制服でお家デートってなんだよ……」
「どれだけいちゃついてるのよ、二人共……」
「早く付き合っちゃえよ……」
「ホントだよ……。もうやってること完全に恋人じゃん……」
普通に考えればせっかく制服を着ているのでそのまま制服を着たまま室内でデートしようなどとは思わないだろう。
親友二人はスマホに表示されている先ほどのやり取りを眺めながら、呆れるようにため息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だって。どう思う、美玖?」
「どうもこうもないでしょ。はあ……我が弟ながら、何で好きだって気持ちに気が付かないのよ……」
「本当にそうよねえ。桜彩も怜も、どうしてこうなったんだか……」
「そもそも桜彩ちゃんが制服を着たのだって、怜に見せたかったからじゃないかしらね」
「間違いなくそうよね。本当に恋する乙女になっちゃって……」
わざわざ怜に見せる為に制服を着た桜彩。
それを受けて自分も制服に着替える怜。
何故ここまでしているのに、二人共相手に対する気持ちに気が付かないのか。
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