第209話 お弁当作り③ ~同棲バレRTA~
「……そろそろ本題の方に戻るぞ。誰かさんのせいで佐伯が呆れてるだろうが。誰かさんってか宮前のせいだが」
話が大幅に脱線してしまった為、本来の目的である弁当作り、その卵焼きの方へと話を戻す。
「それ、最初に誰かさんって言う必要あった?」
怜の言葉に不満そうに口をすぼませながら抗議する奏。
それを無視して怜は手にした皿に卵焼きを載せる。
「さてと、話を元に戻すが、皆のを食べ比べてみるか。自分で言うのもなんだが、ちゃんと出来た物と食べ比べるのも勉強になるからな」
自画自賛になるかもしれないが、怜としてはこの二人よりは美味しく出来たと自負している。
まあ自惚れとは言われないだろう。
そう言って怜はまず自分で作った方の卵焼きを六等分に切り分ける。
そしてその全てに爪楊枝を刺して、隣で作業を覗き込んでいた桜彩へと差し出す。
「ほら」
「ん……」
目の前に差し出されたたそれを、何の迷いもなく桜彩が口に含み、ゆっくりと嚥下した。
「えっ…………!?」
それを見た奏の口から驚きの声が上がる。
その隣では美都も口を開けて驚いていた。
少し離れた所では陸翔と蕾華が顔を青くして驚いている。
「今、きょーかん、クーちゃんにあーんってやった……?」
「「えっ!?」」
奏の指摘によりついいつもの癖であーんとやってしまったことに気が付く。
怜も桜彩も顔面蒼白だ。
「……あ、悪い。つい……。陸翔や蕾華が家に来た時に味見してもらってるから……」
「おいおい。ダメだぞ怜。癖とはいえそんな簡単にあーんってやっちゃ」
怜の意図を察した陸翔が即座にフォローを入れてくれる。
こうしたところの察しの良さは本当にありがたい。
「わ、悪いな渡良瀬」
「い、いえ……。私もその……ついそのまま食べてしまいましたし……」
「うんうん。二人共気を付けないとね。アタシとかりっくんなら良いけどさ」
「そ、そうだな。うん、今度から気を付ける」
「は、はい」
慌てて早口で答える怜と桜彩。
「ふーん。なるほどー……」
それを聞いた奏が良いことを聞いたとばかり口元をニヤッと歪ませて
「あ、そうだ。それならきょーかん。ウチにもあーんって食べさせて!」
「ッ!?」
突拍子もない提案が奏の口から出てきた。
それを聞いた桜彩が先ほどとは別の意味で顔を青くして隣の奏の方へとゆっくりと首を向ける。
(み……宮前さん!? あ、あーんって食べさせてって……。い、いったい何で…………!?)
そんな桜彩の様子に気が付かずに奏は怜をからかい続ける。
「ほらほら、きょーかん。早く早く」
口を大きく開けて怜の方へと向ける奏。
一方で桜彩の顔はもう真っ青だ。
「……なぜそうなるんだ、宮前」
「えー、なんか面白そうだから。あ、そうだ。美都ちゃんもあーんってやってもらう?」
「えっ!? 私もですか!?」
黙って成り行きを見守っていた美都も話を振られて驚きの声を上げる。
「うんうん。蕾華と
「え、えっと……」
おどおどと慌てる美都と、青い顔のまま硬直してしまう桜彩。
「いい加減にしなさいっての」
見かねた蕾華が奏の頭をパシッと叩く。
「いったあーっ。ちょっと蕾華ーっ!」
「全くもう。ほられーくん。話が進まないから奏は放っておいて」
「あ、ひどー……」
「そうだな。そうするか」
奏の抗議を無視して怜が蕾華に同意する。
正直これ以上付き合っていてはバレたくないことまでバレてしまうかもしれない。
ここは強引にこの話題を打ち切ることが先決だ。
「で、だ。渡良瀬、味はどうだ?」
「え、あ、そうですね……」
やっと硬直が解けた桜彩が先ほどの味を思い出す。
そしていつものクールモードとは違って笑みを浮かべて
「いつもと同じで美味しいです」
そう感想を口にした。
実際に怜が普段作る卵焼きと同じでとても美味しい。
「そっか。ありがとな」
怜もそうお礼の言葉を口にする。
が、その言葉を聞いた残りの四人はその場で固まってしまう。
「え……? いつもと同じで?」
いち早く復帰した奏が桜彩の口から出た言葉を繰り返す。
それでやっと桜彩も自分の失言に気が付いた。
「え? いつもと同じってどういうこと? クーちゃん、きょーかんの料理、いつも食べてるの?」
「え、あ、えっと……」
「何言ってるの、奏。奏だってこの前食べたじゃん。あれは卵焼きっていうかだし巻きだけどさ」
桜彩が転入してきて二日目、怜が弁当のだし巻きを三人におすそ分けした。
「そうそう。あとゴールデンウィーク明けの昼休み、昼休みに四人で部活の反省会をやったからな。その時に怜が弁当を作って来てくれたんだよ」
蕾華に続いて陸翔もそうフォローを入れてくれる。
「あ、そっか。そーゆーこと」
二人の言葉に納得したように頷く奏。
怜や桜彩としては冷や汗ものだったが、なんとかごまかすことが出来たようだ。
この親友二人がいなかったら本当にまずいことになっていたが。
「いやー、でも驚いたよ。ねえ美都ちゃん?」
「そうですね。普段から光瀬先輩が渡良瀬先輩のご飯を作っているように聞こえましたから」
奏の言葉にクスッと笑みを浮かべながらそう答える美都。
美都としては奏の言葉は完全に冗談だと認識している。
「あ、あはは……」
奏の言葉に同意する美都とは対照的に桜彩の口からは乾いた笑いが漏れる。
というか美都の言葉自体は間違ってはいないどころか大正解なのだが(正確には二人で作っているが)。
「だってさ。クーちゃん、言葉に気を付けないと誤解されちゃうよー」
「は、はい。こ、今後は気を付けるようにしますね」
背中をポンポンと叩いてくる奏に対して桜彩は目を逸らしながら早口でそう言いながら頭を下げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「危ねえなあ……」
「全くだよね……危機一髪だったよ」
「あれか? バレたいのか?」
「同棲バレ
と親友二人はごまかせたことに安堵しつつ、迂闊な発言をした二人を呆れたように眺めていた。
【後書き】
奏の陸翔に対する呼び方は『ミカ』(御門→みかど→ミカ)です
すみません
体調不良により数日更新出来ないかもしれません
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます