隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】

第204話 訪ねてきた後輩

「ふんふん。つまりきょーかんの好みはそーゆー感じなんだね」

　一通り蕾華の質問が終わったところで興味深そうに奏が呟く。

　その言葉に怜は奏の方へと顔を向けて

「好みって言えるのかは分からん。話が戻るが、結局のところ好きになった相手がどういったタイプであろうとそれで良いと思うぞ。そもそも俺は友情と恋愛の違いってのが分からないからな」

　苦笑しながら答える怜。

　とはいえそれが事実なのだから仕方がない。

「いやいや、色々とあるじゃん。付き合ったら何をしたいとかさ」

「それが俺には分からないっての。例えば一般的なデートとして遊園地に行くってのがあるけどさ。そもそも俺は陸翔や蕾華と一緒に行っても普通に楽しめるからな」

　結局のところ怜にとってはそれが大きい。

　陸翔や蕾華といった強い絆を持つ親友が隣にいるのだから、それと同様の結びつきかつそれとは違う種類の関係というものが良く分からない。

「いやでも他にも色々とあるだろ？」

「何がだよ」

　ダメージから復帰した武田が問いかけてくるが、何を言いたいのか分からない。

「ほら、男女がすることって言ったらアレだよアレ！」

「あれ？」

　そう言われても怜には武田の言いたいことが分からない。

　が、それを聞いていた何人かはその意味がわかったのか微妙な表情を向ける。

「つまりはせーよくってこと？」

「おいおい、ストレートに言うなって。せっかくぼかしたのに」

　奏の指摘に武田が笑いながら答える。

「……アホか」

　呆れた顔でため息を吐く怜。

　何を言い出すのかと思えば予想の斜め下の回答がきた。

「いやいや、アホってひどくね？　ぶっちゃけた話、最終的にそうなるだろ？」

「お前みたいに女なら誰でも良いって奴ならそうかもしれないがな。少なくとも俺にとっては順序が逆だ。そういうことをしたいから彼女が欲しいんじゃなく、本当に好きな相手と以外はそういうことをしたいとは思わないぞ」

「おいおい、お前それでも男か？」

「男だ。ていうか、猥談には付き合わんぞ」

　このままでは話の方向性が変な方へと向きそうだったので先手を打って忠告していく。

　怜はクラスの男子とは色々と話をする方だが、猥談に関しては基本的には嫌っている。

　少なくとも教室内という衆人環視の状況で話すべき内容ではないだろう。

「じゃあお前にとって友情と恋愛の違いってなんなんだよ」

「だから俺がそれを聞いてるんだよ……。しょうがない、こうなったらアレに聞いてみるか」

「アレ？」

　怜の言葉に武田が不思議そうな顔をするが、それに答えずに怜はスマホを起動する。

　そしてAIを起動してそこに質問を入力していく。

『教えて欲しいことがある』

『もちろんです。何について教えて欲しいですか？』

　質問を打ち込むと、すぐにAIから返事が返ってきた。

『友情と恋愛の違いとは何』

『友情と恋愛の違いはいくつかあります。まず、友情はお互いの間に深い信頼や共感があり、互いを支え合う関係です。友情は愛情や情熱よりも、お互いの成長や幸せを願う気持ちに基づいています。一方、恋愛はロマンチックな感情や情熱に基づいた関係です。恋愛には身体的な魅力や性的な要素が含まれることがありますが、友情にはそれらがない場合が一般的です。また、恋愛にはパートナー同士のロマンチックな関係性が含まれる一方、友情は純粋に友人同士の関係性です』

　怜の質問にAIが返答する。

　しかしそれはつまるところ性欲の有無しかないのではないか。

「ほら見ろ！　つまりはそういうことなんだよ！」

「チッ……。やっぱりこのAIは使えん」

　怜の使う学習AIはたまにピントのズレた答えや間違いだとすぐに分かる答えを返してくることがある。

　勝ち誇った武田に対し、今回もその類だろうと考えて嫌そうな顔でスマホを終了させてポケットへと片付ける怜。

「……しょうがない。陸翔、蕾華。友情と恋愛の違いってなんだ？」

　この二人であれば多少はマシな答えが返ってくるだろう。

　なにしろこの二人はその辺りのカップルとは違って本物の絆というものを持っている。

　であればこの質問にも明確な回答をくれるかもしれない。

「……って言われてもなあ。なんていうか、理屈じゃねえんだよなあ。オレの場合、もう蕾華しかいないっていうか」

「うんうん。アタシの場合なんていうかさ、もうりっくんじゃないとダメっていうか。そういう感覚的なところだからね」

「感覚か……」

　二人の答えに怜が呟く。

　隣では桜彩もなにやら納得したような感じで小さく頷いていた。

　明確な答えが返ってこなかったが、まあそういうものなのだろう。

　少なくとも怜も桜彩も、今まで誰にもそういった感覚を抱いたことは――

（…………感覚、か。あの時、高台で星を見てる時に胸を襲ったあれは……）

（…………この前のデートの最後、あの時に感じたのは……）

　ふと二人の頭に先日のデートのことが思い出される。

　無意識の内に制服の中に隠して着用しているネックレスへと手が伸びる。

　あの時胸に抱いた気持ちは――

（桜彩は俺にとって大切な相手であることに間違いはない……）

（怜は私にとって本当に大切な相手。それはそうなんだけど……）

　これが友情なのか、それともまた別の感情なのか。

　そんなことを思っていると

「あれ？」

　奏が不思議そうな声を上げた。

　その声で怜と桜彩の意識が現実へと戻って来る。

「どうした？」

「あ、今ちょっと廊下にね……」

　それだけ言って廊下の方へと歩いて行く奏。

　知り合いでも来たのかもしれない。

「でもよ、光瀬はもうちょっと自分が恵まれてることに気が付いた方が良いって」

「なんだよ、恵まれてるって」

　いきなりそんなことを言われても何を言いたいのか良く分からない。

　そんな怜に武田はかぶりを振って

「だってお前、モテるじゃん。それに部活は家庭科部って男子はお前だけだろ？　実質的により取り見取りじゃん」

「馬鹿か。より取り見取りって、そもそも相手がどう思ってるかが考慮されてないだろうが」

　そもそもいくら怜がモテたとしても、女子が全員怜のことをそういった目で見ているわけではない。

　怜が相手に好意を持っていたとしても相手にその気がなければどうしようもない。

「いや、お前が告れば大抵の相手は了承すると思うんだけどな」

「そうそう。まあそこで試しに誰かと付き合ってみようって気が起きないのが光瀬だけどな」

「まあそれが怜の良いところでもあるだろ」

「まあな」

　陸翔の言葉に皆で少し笑い合う。

　すると恩田が突然話題を変える。

「あ、そうそう。家庭科部で思い出したけどよ、家庭科部に凄え可愛い子が入ったって話、あったよな？」

「なんだそれ？」

　そういった話題に興味がない怜としてはそんな話は初耳だ。

　話があったと言われてもそもそも聞いたことがない。

「あ、俺も聞いたことがある。あれだろ？　今年の主席入学者！」

　その外塚の言葉で誰のことを指しているのかを怜も理解する。

　今年首席で入学した生徒、佐伯美都。

　怜から見ても容姿が整っており充分に可愛いという形容詞を付けても良いと思っている。

　だからといってそれが恋愛感情に結びつくわけでもないのだが。

「そうそう。あの子彼氏いるのかな？　どうなんだ、光瀬？」

「知らん。知ってたとしてもプライベートなことだから教えん。そもそもお前と佐伯は接点がないだろうが」

「そこはほら、お前を通じてだな――」

「きょーかーん！　お客さんだよー！」

　恩田が何かを言いかけたところで廊下から奏の声が聞こえてくる。

　怜としてもこの話題が嫌というわけでもないが、だからといって別に楽しい話題というわけでもないのでそれを理由に話を打ち切ることにする。

「ってか客？　誰だろ？」

　奏の言葉は教室中に響いた為に、そちらの方を向いたのは怜だけではない。

　そしてその怜を訪ねて来た客を見て、何人かのクラスメイトが再び怜の方へと振り返る。

「おい光瀬！　いったいどういうことだよ！」

　どういうことといわれてもそれは怜にも分からない。

　廊下では奏の横で、今しがた話題に上がっていた佐伯美都が少しばかり居心地悪そうにして怜の方を見つめていた。

【後書き】

次回投稿は月曜日を予定しています