第203話 怜の好きなタイプは?
「ぎゃはははははははははっ!!」
「わはははははははっ!」
「ひーっ、苦しい! 苦しい!」
「ざまあみろ武田ァ!!」
昼休み昼食を食べ終えて少ししたところで怜のクラス内に笑い声が次々と響き渡る。
「うるせえよっ!」
笑いの対象となっているのはクラスメイトの一人、武田だ。
その武田が他の皆の笑い声に対して怒るがそれでも笑うのを止める者はいない。
まあそれも当然だろう。
「いや、だってよお……!」
「五月の頭だろ? まだ二週間経ってねえじゃねえか! 記録更新しちまったなあ!」
「おい、あと数日粘っとけよ! カレーパンの賭けに負けたじゃねえか!」
「ごちそーさん。武田、ナイス失恋!」
「だからうるせええええええ!!」
ゴールデンウィークに彼女が出来た武田だが、悲しくも先日彼女に振られていたというニュースがクラス中に広まっていた。
いや、一部は他クラス、他学年にまで広まっているのだが。
昨年は二週間で振られたのだが今度はそれを上回る早さで振られていたという出来事は、彼女のいない男子達にとってこれ以上の明るいニュースはない。
そもそも武田本人が彼女が出来た時に、彼女がいない者達に対してマウントをとらなければここまで笑われることもなかったであろうが。
ちなみに陸翔は蕾華という彼女がいるし、怜としても別に武田や他の男子のように誰彼構わず彼女が欲しい、とは思っていない。
なので別に武田に対する恨みはないのだが、だが彼女が出来たと自慢していた時の態度から同情まではしていない。
「いやー、でもホント早かったよねー。十日位?」
「その程度だな。まあ前回を上回ったのは間違いないようだけど」
「上回ったってより下回ったって言うべきじゃね?」
「確かになあ。まあ早いうちに別れることは分かってたけど」
「だよねー」
噂を耳にした奏が側にいた怜へ話しかける。
「おい光瀬、うるせえぞ! 大体これまで彼女が出来たことがないお前に笑われる筋合いはねえ!」
怜の声が聞こえたのか武田が声を張り上げて抗議してくる。
とはいえそう言われたところで怜としては悔しくもない。
「いや、別に俺は誰彼構わず彼女が欲しいとか思ってないし」
「だよねー。てかさー、そもそもきょーかんの場合、武田と違ってちょいちょい告られてんじゃん? その気になればすぐに彼女出来るわけだしね」
怜の返事に奏も頷いて同意する。
(むっ……)
ちなみに隣の桜彩はその奏の発言に面白くなさそうな顔をしていたのだが、それに気が付いた者は誰一人としていない。
「そーだぞ武田。怜の場合はお前と違って彼女を作ろうと思えばすぐに出来るしな」
「うんうん。れーくんモテるし」
と親友二人も奏の言葉に同意する。
(まあ相手はさやっちのことだけど)
(サーヤならすぐに彼女になってくれると思うんだけどね)
怜と桜彩の関係を知っている二人は心の中でそう付け加える。
実際に傍から見ればもう付き合っているようなものだ。
むしろこれで付き合っていないのがおかしいだろう。
「そもそもお前が光瀬にマウント取れるわけねえだろ」
「そーそー。てかゴールデンウィーク前も告られてたよな」
「……なんで知ってるんだよ」
他のクラスメイトも奏の言葉に同意する。
とはいえなぜそれを本人以外の者が知っているのかは疑問だが。
少なくとも自分でそれを言いふらしたことはないはずだ。
「そもそも光瀬が彼女いないのがおかしいんだよな」
「別におかしくはないだろ」
彼女がいないだけでおかしいと言われてはたまらない。
そんな怜に対してクラスメイトの工藤はかぶりを振って
「いやおかしいって。お前それでも思春期の男子か?」
「それ以外に何に見えるんだよ」
「普通の男子なら彼女が欲しいってのが大半だからな」
「何度も言うが、別に俺は誰でも良いから付き合いたいとか思わないからな。まあ武田みたいな考え方をする奴を否定する気はないけど」
誰でも良いから付き合いたいという考えを悪いと否定することはない。
ただ考え方や価値観は人はそれぞれというだけだ。
「へー。んじゃさー、きょーかんが付き合いたいと思う人ってどんなタイプ?」
すると再び奏が口を挟んでくる。
「……付き合いたいと思うタイプ?」
「うんうん。言い換えれば好きなタイプ」
思わず聞かれたことを聞き返す怜に奏が興味深そうにコクコクと頷く。
「好きなタイプってなあ。てかなんでそんなこと聞く?」
「え? なんでって話の流れから。それにさ、ウチってきょーかんとこーゆー話したことないなーって」
「だからといって別に話さなきゃいけないことはないだろ? つーわけで答えん」
プイっとそっぽを向いて視線を外す怜。
だがそれで納得する奏ではない。
「えーっ!? つまんなーい!」
後ろに回り両肩を掴んで揺さぶってくる。
頭が前後に振られて少しばかり頭痛を感じてしまう。
「そーだぞ光瀬! 答えろっての!」
「ブー! ブー!」
不満そうに口をすぼませる奏に何人かのクラスメイトが同意する。
というか、好きなタイプを答えなかったくらいでなぜブーイングされなければならないのか。
するとそこで蕾華が何かを思いついたように怜の方へと顔を寄せてくる。
「…………でもそうだね。アタシやりっくんもれーくんとそーゆー話ってしたことなかったよね」
「まあそうだな」
「えっ、そーなん? なんか意外」
蕾華と陸翔の言葉に奏が驚きの声を上げる。
これまで陸翔と蕾華は怜に恋人が出来ればなとは思ってはいたが、だからといって怜の言う通り誰彼構わず彼女を作ってほしいとは思ってはいなかった。
怜の場合、過去のトラウマからあまり他人を信用出来ない事を含めて考えれば当然だろう。
適当な相手を彼女にして裏切られては目も当てられない。
まあ怜の性格上、適当な相手を彼女にすることは絶対に無いと言い切ることは出来るのだが。
「とゆーわけでれーくん、恋バナしよっ!」
怜の机の上に両手をついて身を乗り出してくる蕾華。
その目をキラキラと光らせて怜の顔を覗き込んでくる。
「……なんでそうなるんだよ、蕾華」
まさかの親友からの言葉に怜が驚く。
隣では陸翔も怜と同様に意外そうな顔をして蕾華の方を見つめていた。
「まあまあ。いーからいーから! てなわけでれーくん。好きなタイプは?」
「……好きなタイプってなあ。むしろ好きになった人がタイプってことじゃないのか? 二人だってそうだろ?」
「まあね」
「そーだな」
怜の言葉に蕾華と陸翔がニヤッと笑ってお互いの顔を見る。
隙あらばいちゃつくのはどうなのだろうかと周囲のクラスメイトも少々呆れて苦笑いをしている。
「それじゃあれーくん。れーくんって料理が好きだよね。付き合った相手はやっぱり小食気味の子より、たくさん食べる子の方が嬉しい?」
その質問を聞いて陸翔も蕾華の意図を察した。
これを機に怜と桜彩に少しでもお互いを意識させようということだろう。
「……そうだな。まあ作った料理を美味しく食べてもらえるのは嬉しいな」
「うんうん! だよねだよね!」
怜の返答に蕾華が嬉しそうに頷く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(そっか。怜ってそういう子の方が好みなんだ)
隣の席で会話を聞いている桜彩の顔に少しばかりの笑みが浮かぶ。
それに気が付いているのは蕾華と陸翔の二人だけだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ次の質問! おしとやかな子と賑やかな子、どっち?」
「……一緒にいて落ち着くのはおしとやかな方かな。賑やかな方も嫌いじゃないけど」
「うん! 付き合ったら一緒に家でゆっくり過ごすとかそういうのだよね。それでたまに二人っきりではしゃいじゃったりして」
これはいつもの怜と桜彩のことである。
普段は一緒にゆっくりと過ごしたり、たまにはしゃいでくすぐり合ったり。
「一応言っておくけど、好きな相手とだったらどこかに出かけてもそれはそれで楽しめると思うぞ」
「うんうん! 『好きな相手とだったらどこかに出かけても楽しめる』よね!」
まさにそれは先日の桜彩とのデートの事なのだが怜は気が付いている様子はない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(家でゆっくり過ごす、かあ)
桜彩としても怜と一緒に何気ない時間をゆっくりと過ごすのはとても心地が良い。
もはや欠かすことの出来ない大切な時間だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあ次! 付き合ってる相手と一緒に夕食とか作ってみたいとか、そういうのってある?」
「……まあ俺の趣味が料理ってのもあるし、好きな相手と一緒に料理するのは楽しいんじゃないか?」
「だよねだよね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(怜と一緒に料理するのって楽しいよね)
当初は怜の指示を聞いて四苦八苦するだけだったのだが、今ではもう基本的なことは問題なく出来るほどに腕前が上達している。
学校での出来事を振り返りながら怜と共に夕食の支度をするのが最近の楽しみの一つだ。
二人の関係は周囲には秘密である為に、学内で談笑することはほとんどない。
そんな鬱憤を晴らすかのように、料理を作りながら一日のあれこれについて語っている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それじゃあれーくん。次は――」
そんな感じで蕾華は怜の好みが桜彩の特徴と一致していることをさりげなく伝えて少しでも意識するように誘導していった。
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