第四章前編 増えていくスキンシップ

第172話 デート翌日の朝① ~似た者同士の目覚め~

 午前五時半過ぎ、いつものように自室で目を覚ました怜は、そのままベッドの上で伸びをする。

 いつもであればこの後は眠い眼をこすりながらベッドから降り、支度をしてランニングへと向かうのが日課だ。

 しかしこの日ばかりはいつもとは違った。

 もちろん先日のように風邪を引いたわけでもない。

 徐々に覚醒してきた頭の中に浮かぶのは昨日の桜彩とのデート。

 その大切な思い出の一つ一つが脳内で再生されて幸せな気持ちで満ちていく――

 ――というわけではなく、そのまま半回転してうつ伏せになり枕に頭をうずめて悶えてしまう。


「ああああああああああああああああっ!!!」


 昨日のデートは間違いなく怜にとって楽しくて幸せな時間であった。

 それはそれで素晴らしいのだが、怜の脳内に再生されるのはいつもであれば絶対に言わないような台詞の数々。


『俺が、今、綺麗で可愛いって言ったのは、桜彩のことだ! その、いつもと違う桜彩を見て、ついそう思っちゃったんだ!』


 開口一番そんな歯の浮くような台詞から始まったデート。

 デートの締めに二人で高台から夜空を見ている時などは


『そして今の北極星のポラリスが桜彩なんだよ』


 なんて。

 他にも色々と思い返せば恥ずかしい台詞をたくさん桜彩へと告げていた。


(こ、後悔してるわけじゃないんだけど……)


 もちろんその言葉の全てに嘘はない。


 確かに昨日のデートで怜は『自分の気持ちを隠さずに桜彩に伝える』ということを意識していたのだが、それにしても今思い返すと本当に恥ずかしい。


(しかも、それだけじゃなく、色々と恥ずかしいこともしてたし……)


 昼食を食べる時は同じ箸を使って『あーん』で食べさせ合っていた。

 スムージーも同じストローを使って飲んでいたし、クレープを食べる時は桜彩に拭いてもらう為にわざと口元にクリームを付けた。

 プラネタリウムでは入場時に『恋人ですか?』との問いに『はい』と答えたし、桜彩と一緒にカップル席で隣同士で寝そべった。

 しかも理由もないのに手を握り合って。

 プラネタリウムの上映が終わったら、お揃いのネックレスをプレゼントし合って。

 福引ではお互いに手を添えて抽選機を回した。

 夕食のビュッフェでは当たり前のように『あーん』で食べさせ合った。

 そして最後は高台で手を繋ぎながら夜空を見上げて――


「――ッ!!」


 枕に顔をうずめたまま声にならない声を上げる。


(ううぅ……す、凄く、恥ずかしいことばかりしてたよな…………)


 枕から顔を離して顔を横に向ければ、目に映るのは壁に掛けられているフック。

 そしてそこに掛けられているキーホルダー付きの家の鍵と月を模したネックレス。

 二つとも桜彩からプレゼントされた大切な宝物だ。

 その二つが目に入り、再び怜の心臓をドクンと跳ねさせる。


(きょ、今日、桜彩の顔をまともに見れるのかな……?)


 かけがえのない大切な相手。

 そんな桜彩の笑顔を脳内に思い浮かべて、再び枕へと顔をうずめて悶えてしまう。 

 他の誰にも、家族である葉月や親友である陸翔や蕾華に向けるものとも違う種類の笑顔。

 自分だけに見せてくれる素敵な笑顔。

 今すぐにでも桜彩に会いたい、顔を見たい、自分に笑いかけて欲しい。


「うぅ……や、やばい……なんかもう、桜彩のことが頭から離れない……」


 そっとスマホに手を伸ばして、昨日撮った写真フォルダを開く。

 その中の一枚、プラネタリウムのカップルシートに寄り添って二人で並んで撮った写真。

 もう何度も二人で写真を撮ったことはあるのだが、それでも緊張からひきつった顔をして写っている。

 しかしこれもこれで良い思い出だ。

 むしろ桜彩がこのような表情を自分だけに見せてくれる、自分だけが知っているということがとても嬉しい。


「…………ってヤバい。時間が過ぎていく」


 時計を見ると、いつもの時間よりも十分以上が経過していた。

 顔を真っ赤にしながらベッドから降りた怜は、そのまま心あらずといった様子でいつもの日課へと移っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 午前六時過ぎ、いつものように自室で目を覚ました桜彩は、そのままベッドの上で伸びをする。

 いつもであればこの後は眠い目をこすりながらベッドから降り、支度をして怜の部屋へと向かうのが日課だ。

 しかしこの日ばかりはいつもとは違った。

 ふと枕元に目をやれば、横にはスマホが置かれている。

 普段であれば机の上で充電をしているのだが、昨日寝る前にデートで撮った写真を眺めて幸せを満喫しながら眠りに就いたことを思い出す。

 徐々に覚醒してきた頭の中に浮かぶのは昨日の怜とのデート。

 その大切な思い出の一つ一つが再び脳内で再生されて幸せな気持ちで満ちていく――

 ――というわけではなく、そのまま半回転してうつ伏せになり枕に頭をうずめて悶えてしまう。


「うううううううううううううぅぅっ!!!」


 昨日のデートは間違いなく桜彩にとって楽しくて幸せな時間であった。

 それはそれで素晴らしいのだが、桜彩の脳内に再生されるのはいつもであれば絶対に言わないような台詞の数々。


『あ、あのね……れ、怜も素敵だよ……。い、いつも素敵なのは間違いないんだけど……。ふ、服もそうだし、今日は普段とは違うっていうか、別の魅力があるっていうか……いつもとは違う怜を知れて嬉しい……』


 綺麗で可愛いと褒められて嬉しくなって、つい思ったことを怜に伝えてしまった。

 デートの締めに二人で高台から夜空を見ている時などは


『ふふっ。だからさ、私にとっての北極星は怜なんだよ』


 なんて。

 他にも色々と思い返せば恥ずかしい台詞をたくさん怜へと告げていた。


(こ、後悔してるわけじゃないんだけど……)


 もちろんその言葉の全てに嘘はない。


(で、でも、それだけじゃなく色々と恥ずかしいことも……)


 昼食を食べる時は同じ箸を使って『あーん』で食べさせ合っていた。

 スムージーも同じストローを使って飲んでいたし、クレープを食べる時に口元に付いたクリームを怜に拭いてもらった。

 しかも自分も同じようにしたいような雰囲気を出したら、それを察してくれた怜がわざと口元にクリームを付けてくれたりもした。

 プラネタリウムでは入場時に『恋人ですか?』との問いに『はい』と答えたし、怜と一緒にカップル席で隣同士で寝そべった。

 しかも理由もないのに手を握り合って。

 プラネタリウムの上映が終わったら、お揃いのネックレスをプレゼントし合って。

 福引ではお互いに手を添えて抽選機を回した。

 夕食のビュッフェでは当たり前のように『あーん』で食べさせ合った。

 そして最後は高台で手を繋ぎながら夜空を見上げて――


「――ッ!!」


 枕に顔をうずめたまま声にならない声を上げる。

 羞恥に震えてうつぶせのまままるでクロール時のバタ足のように足をベッドの上でバタバタと動かす。

 枕から顔を離して顔を机の上に向ければ、目に映るのはアクセサリースタンド。

 そしてそこに掛けられているキーホルダー付きの家の鍵と星を模したネックレス。

 二つとも怜からプレゼントされた大切な宝物だ。

 その二つが再び桜彩の心臓をドクンと跳ねさせる。


(きょ、今日、怜の顔をまともに見れるのかな……?)


 かけがえのない大切な相手。

 そんな怜の笑顔を脳内に思い浮かべて、再び枕へと顔をうずめて悶えてしまう。

 他の誰にも、家族である美玖や親友である陸翔や蕾華に向けるものとも違う種類の笑顔。

 自分だけに見せてくれる素敵な笑顔。

 今すぐにでも怜に会いたい、顔を見たい、自分に笑いかけて欲しい。


「うぅ……だ、ダメ……なんかもう、怜のことが頭から離れないよぅ……」


 そっとスマホに手を伸ばして、昨日撮った写真フォルダを開く。

 その中の一枚、プラネタリウムのカップルシートに寄り添って二人で並んで撮った写真。

 もう何度も二人で写真を撮ったことはあるのだが、それでも緊張からひきつった顔をして写っている。

 しかしこれもこれで良い思い出だ。

 むしろ怜がこのような表情を自分だけに見せてくれる、自分だけが知っているということがとても嬉しい。


「…………ってダメダメ! 早く支度しないと!」


 時計を見ると、いつもの時間よりも十分以上が経過していた。

 顔を真っ赤にしながらベッドから降りた桜彩は、そのまま心あらずといった様子でいつもの日課へと移っていった。



【後書き】

 ここから第四章の始まりです。

 これからもよろしくお願いいたします。


 次回投稿は月曜日を予定しています

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