第45話 if 「可愛い」って言ったのはエプロン? それとも……

【前書き】2024.05.09

 これは第四章ではなく第一章の36~48話のifとなります。

 これを書くにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。


 一応、言い訳のようなことを言わせていただきますと、当初は

1.美玖と葉月が怜、桜彩の所へとやってくる。

2.四人で意気投合する。

3.怜と桜彩のトラウマについて告白

4.四人で桜彩の誕生日を祝う

 というプロットを組んで物語を書いていたのですが、小説家になろうの方へ投稿する直前に、桜彩の誕生日を四人ではなく怜と二人きりで祝いたい、と思って突貫作業で話を変更した結果、美玖と葉月の行動に充分な修正が効かずに現在のようになってしまいました。

 先述の通り、私自身も読み返して二人の行動にデリカシーが大きく欠如していると感じた為、当初のプロットに修正を加える形で36~47話を書き直してみようと思います。

 もしかしたら現在掲載している内容と入れ替えるかもしれません。

 修正に当たってのご意見、感想等あれば遠慮なくお願いいたします。


※書き直した美玖と葉月の行動全てにデリカシーが伴っているわけではありません。


 第四章は今週中には投稿開始出来るように頑張っていきますので引き続きよろしくお願いいたします。 




【本編】


 三人が帰った後、怜と桜彩は自室の前まで戻って来る。


「えっと……姉さんがごめん……」


「い、いえ……私の方こそ葉月が……」


 お互いの姉の言動について頭を下げあう弟妹。


「そ、それじゃあお相子ってことで……」


「は、はい。それと怜さん、先ほどの誕生日のお祝い、本当にありがとうございました」


 気持ちを切り替えた桜彩が嬉しそうにお礼を告げる。


「そこまで喜んで貰えて良かったよ」


「はい。今日は本当に素晴らしい誕生日になりました」


 本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる桜彩。

 引っ越してきた当初はこのような感じで誕生日を迎えられるとは夢にも思っていなかっただろう。

 怜もその桜彩の笑顔を引き出すことが出来たのが自分であるという事実に誇らしい気持ちを持つ。

 桜彩と仲の良い蕾華や奏といった女子にすら見せることのない笑顔を見せてくれることに少し優越感を感じてしまう。


「怜さん?」


 その言葉で桜彩に見とれてしまっていたことに気が付いて現実に引き戻される。


「ああ、悪い。そうだ、少し待っていてくれないか?」


「は、はい。それは構いませんが……」


 そう怪訝そうな顔で頷いた桜彩を残して、怜は自室に置いておいた紙袋を持って来る。

 紙袋の中身の包みは丁寧にラッピングされており、誰が見ても一目でプレゼント用だと分かる。

 それを持って再び玄関の桜彩の下へと向かい、桜彩へと紙袋を差し出す。


「桜彩、誕生日おめでとう。貰ってくれると嬉しい」


「えっ? え、こ、これを私に……ですか?」


 顔を赤くして驚きに目を丸くする桜彩。

 先程ご馳走になった夕食だけでもとても幸せだったのに、その上プレゼントまで用意されているとは思わなかった。

 連続して訪れたサプライズに桜彩の頭は思考が追いついていかない。


「で、ですが、あんなに美味しい夕食をご馳走になったのに、その上更にプレゼントを頂くだなんて……」


「構わないぞ。別に高い買い物でもなかったしな。それに俺には使いようがないものだし、貰ってくれるか?」


「は、はい」


 頷いておずおずと怜から包みを受け取る。


「あ、あの、開けてみても構いませんか?」


 上目遣いで恐る恐る確認してくる。

 それに怜は緊張しながら努めて冷静を装って頷く。

 やはり自分が選んで渡した物を目の前で開けられるというのはかなり緊張する。

 好みを完全に把握している陸翔や蕾華なら話は別なのだが。


「ああ。開けてみてくれ」


「は、はい」


 桜彩が丁寧に包みを開けていくと、中からエプロンが出てくる。

 紫色を基調として、ワンポイントで猫の模様がプリントされている。


「…………エプロン?」


 中に入っていたのエプロンを見た桜彩が目を丸くして、そしてゆっくりと笑顔に変わっていく。


「桜彩はまだ持ってなかったからな」


 これまで料理する時にエプロンを着用する時は、いつも怜の物を借りていた。

 なのでそろそろ自分の物を持っても良いだろうと考えてのことだ。


「まあ、期待していた物と違うとか、つまらない物かもしれないけど……」


「ううん……素敵……とっても嬉しい……ありがとう、怜さん」


 怜の言葉に首を振って、目に涙を浮かべながら桜彩はエプロンを胸に抱きしめる。


(気に入ってくれて良かった……)


 嬉しそうにエプロンを抱きしめる桜彩の姿を見て、怜も安堵する。

 異性の友人として渡してもおかしくない範囲の物で、今の桜彩にとって間違いなく必要な物。

 買う時も開けた瞬間に微妙な顔をされたらどうしようかと本気で悩んだ。

 色々な種類の物を手に取って美玖に意見を求め、さんざん悩んだ末に手に取ったプレゼント。

 美玖は『桜彩ちゃんなら絶対気に入ってくれるわよ』と言っていたが、やはり本人に渡すまでは不安だった。

 だからこそ、桜彩が本当に喜んでくれている事を余計に嬉しく感じる。


「本当にありがとうございます。大切に、本当に大切に使いますね」


 そう嬉しそうに声を弾ませる桜彩に対して怜はゆっくりと首を横に振る。


「いや、むしろ積極的に汚しちゃってくれ。エプロンってのは汚さないように注意するよりもむしろ汚れてこそ意義がある物だから。油がハネたり水が掛かったり、そういうことから桜彩を守ってくれる為の物だからさ」


「怜さん……ふふっそうですね。それじゃあいっぱい汚して私も料理の腕を上達させますね」


「ああ。俺も協力するからな」


「ふふっ」


「ははっ」


 二人でお互いに笑い合う。


「そうだ。今少しだけ着てみても構いませんか?」


「ああ。俺も桜彩が着てるところを見てみたいからな」


「それでは写真も撮って下さいますか? 私も見てみたいです」


「分かった。写真は任せてくれ」


「ありがとうございます。それと一つ、お願いがあるのですが……。エプロン、怜さんが私に着けてくれませんか? 初めては自分ではなく怜さんに着けていただきたいんです」


「ん、いいぞ」


 そう答えた怜が、桜彩からエプロンを受け取ってゆっくりと着用させていく。

 そしてエプロンを着用した桜彩が怜の方へと向き直る。


「どう、ですか……? 似合いますか……?」


 赤い顔のまま目を潤ませて恐る恐る桜彩が聞いてくる。

 エプロンを着用した桜彩は、彼女自身の可愛らしさとの相乗効果もあり凄く可愛い。

 構えたスマホのシャッターボタンを押しながら桜彩の質問に対して


「ああ。凄く似合ってる。可愛い……」


 考えるよりも先に怜の口から素直な感想が漏れた。


「え? ……可愛い?」


「あっ……」


 怜の言葉に目を丸くして、先ほどよりも更に顔を赤くして戸惑ってしまう桜彩。

 その反応を見た怜も、今自分が何を言ったのか遅れて理解して顔を赤くしてしまう。


「………………………………」


「………………………………」


 お互いに恥ずかしさから相手の顔を見ることが出来ずに俯いてしまう。


「え、えっと、え、エプロンですよね! 確かにこのエプロン、可愛いですよね!」


 先に沈黙に耐えられなくなった桜彩が顔を上げてエプロンを摘まみながら真っ赤な顔で勢いよくまくしたてる。


「あ、ああ。エプロン、そう、エプロン! 可愛くていいよな! うん!」


「そ、そうですよね! エプロンのことですよね! わ、分かってます、分かってます!」


 怜も首を勢いよく縦に振って桜彩同様に勢いでごまかそうとする。

 その言葉を聞いた桜彩も怜に全力で同意して首をコクコクと縦に振る。


「あ、あはははははは……」


「あは、ははは……」


 お互いに何がおかしいのか笑い合って微妙な空気をごまかそうとする。 


「ははは、は………………」


「あは、はは………………」


 二人でひとしきり笑った後、怜と桜彩がお互いに赤い顔のまま相手の顔を見る。

 その時、怜の瞳に映る桜彩は少し残念そうな表情をしていた。


(…………うん、やっぱり正直言おう)


 桜彩のそんな表情を見て、やはりごまかすのは止めようと怜が決意を固める。


「そ、それでは怜さん、お休みなさい」


 頭を下げて別れの挨拶をする桜彩。

 そのまま自室へと戻ろうとする後ろ姿に向かって、決意を込めて怜は口を開く。


「さ、桜彩っ!」


「は、はいっ!」


 驚いて振り返る桜彩に、怜は自分が思ったことを口に出す。 


「さ、さっきのだけどさ……」


「え?」


「か……可愛いって言ったのは、エプロンだけじゃなく桜彩もだから」


 そう口にした後、恥ずかしさから桜彩から視線を外して斜め下を向いてしまう。

 自分の顔を直接見ることは出来ないので想像になってしまうが、間違いなく今日一の顔の赤さだろう。

 それを聞いた桜彩が驚いて目をパチパチとさせ、一瞬遅れて怜の言葉の意味を理解する。


「え……ええ!? れ、怜さん、そ、それって……」


 もうこれ以上ないほどに顔を赤くしてあわあわと慌ててしまう桜彩。


「そ、それだけだから! それじゃあお休み!」


 恥ずかしすぎて桜彩の顔をまともに見れない。

 まだ慌てている桜彩に対してそれだけ言って、視線を合わせずに急いで玄関のドアを閉める怜。

 閉めたとたんに怜の足から力が抜けてしまい、ドアの内側に背中を預けて何とか倒れないようにする。

 一回深呼吸をして、今の光景を頭の中で振り返る。


(き、緊張したあ……。ってか今、俺、何て言った……?)


 桜彩以上に顔を赤くしながら、言葉を発した口に手を当てる。

 心臓が爆発しそうなくらい、ドクドクと強い鼓動を刻んでいく。

 普段だったら絶対に言わないであろう言葉。

 もしも桜彩以外の女子が相手だったら、それこそ蕾華であってもそう思うだけで口にすることはなかっただろう。

 それを勢いもあってつい口にしてしまった。


(もう一回深呼吸をして落ち着こう……)


 深呼吸をして目を閉じれば先程のエプロンを着て嬉しそうにする桜彩の姿が浮かんでしまい、落ち着かせようとした心が再び爆ぜる。


(ヤバイ……どうしよう……本当に落ち着けない……)


 そのまましばらく怜は玄関のドアに背を預けたまま熱を持った頬を抑え続けていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(か、可愛いって…………)


 その一方で桜彩は怜から言われた台詞を頭の中で反芻していた。

 いきなりのことに体から力が抜けて怜の家のドアに背中を預ける。


(今、エプロンだけじゃなく私のことも可愛いって言ってくれたよね……)


 先程の怜の台詞が頭の中で繰り返し再生され、思わずにやけてしまう。


「私のこと、可愛いって……。え、えへへ、えへへへ」


 普段のクールフェイスからは全く想像が出来ないほど顔がにやけてしまう桜彩。


(こんな顔、怜さんには見せられないよね……)


 自分で自分の顔を見ることは出来ないが、それでも桜彩自身が今は人に見せられないほど表情が緩んでいることを自覚している。


(えへへ、怜さんに言ってもらっちゃった! エプロンも嬉しかったけど、なんかそれ以上に嬉しい! 思いがけずに二つ目のプレゼントまで貰っちゃった!)


 怜から可愛いと言ってもらったことに加え、貰ったプレゼントも本当に嬉しかった。

 高いものを選んだわけでも、世間一般的に女子に人気のある物を選んだわけでもなく、ちゃんと桜彩にとって必要な物を考えてくれた。

 それもただのエプロンというだけではなく、桜彩が大好きな猫のイラストまで入っている。

 怜がそれほどまでに自分を知ってくれているということをプレゼントを通して知ることが出来た。

 そのまま怜と桜彩は、二人でドア越しに背中を預け合って赤い顔を両手で覆い続けた。


【後書き】

 四人で桜彩の誕生日を祝う→怜と桜彩の二人だけで誕生会をする。

 これをやりたいがために美玖と葉月の性格が大きくデリカシーを欠くこととなってしまいました。

 今書いているifストーリーでは二人の誕生会を行うことは出来なかったものの、当初のプロットに無かった二人だけでプレゼントを贈ることが出来ました。

(突貫作業で修正するのではなく、もっと時間を掛けて考えるべきでした)

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