第38話 if シスターズの共演③ ~現れたシスコン~
【前書き】2024.05.06
これは第四章ではなく第一章の36~48話のifとなります。
これを書くにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。
一応、言い訳のようなことを言わせていただきますと、当初は
1.美玖と葉月が怜、桜彩の所へとやってくる。
2.四人で意気投合する。
3.怜と桜彩のトラウマについて告白
4.四人で桜彩の誕生日を祝う
というプロットを組んで物語を書いていたのですが、小説家になろうの方へ投稿する直前に、桜彩の誕生日を四人ではなく怜と二人きりで祝いたい、と思って突貫作業で話を変更した結果、美玖と葉月の行動に充分な修正が効かずに現在のようになってしまいました。
先述の通り、私自身も読み返して二人の行動にデリカシーが大きく欠如していると感じた為、当初のプロットに修正を加える形で36~47話を書き直してみようと思います。
もしかしたら現在掲載している内容と入れ替えるかもしれません。
修正に当たってのご意見、感想等あれば遠慮なくお願いいたします。
※書き直した美玖と葉月の行動全てにデリカシーが伴っているわけではありません。
第四章は今週中には投稿開始出来るように頑張っていきますので引き続きよろしくお願いいたします。
【本文】
新たにリビング現れて桜彩へと抱きついた女性。
流れからすると、おそらくこの女性が桜彩の言っていた姉なのだろう。
「桜彩! 会いたかったわ!」
「ちょっ、ちょっと葉月、苦しいって!」
「全くもう! あなたの部屋に誰もいなかったんで、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと……」
「わ、私は大丈夫だから! だから一度離して、葉月!」
抱きつかれて苦しそうにする桜彩の言葉を聞いて、葉月も落ち着いたのか一度桜彩を離す。
どうやら美玖の方は事情を知っているようだが、怜のみが状況に付いていけていない。
桜彩の言葉に一度離れた葉月がゴホンッと咳払いをして怜の方へと向き直る。
「初めまして。私は桜彩の姉の葉月と言います」
「初めまして。えっと……光瀬美玖の弟の怜です」
まあこの状況を鑑みると、葉月は美玖の友人といったところだろう。
そんなわけで怜も美玖の弟であると自己紹介する。
しかし改めてみると葉月も葉月で人目を引く美人だ。
こんな美人が桜彩の姉だと言われても、妹である桜彩が桜彩なのでまあそうですねと普通に納得してしまう。
というか、桜彩といい美玖といい葉月といい、この部屋の女性陣の顔面偏差値は高すぎだろう。
ちなみに女性に限らずとも怜の方も整った顔立ちをしており、決して引けを取らないのだが。
とはいえ男一人に女三人、もしこの状況を他の男子が見たら、確実に怜は嫉妬の嵐に呑まれるだろう。
一応、蕾華にしか目が行かない陸翔のような例外はいるかもしれないが。
「……姉さんが桜彩の写真を見たことがあるってのはそういうことか」
先ほど言っていた美玖の言葉の意味がようやく腑に落ちた。
友人に家族の写真を見せることはおかしくはないだろう。
「ええ。葉月とは大学で仲良くなったのよ。それで色々と話してみたら、どうやら妹である桜彩ちゃんがあんたの隣の部屋に住んでるっていうじゃない? じゃあこの連休を利用して一度ここに来ようって思ったのよ。まさか二人が既に知り合いだとは思わなかったけどね」
「そういうことよ。でもまさか、こんな時間に異性の部屋にいるなんて思ってもみなかったけどね」
少し含みの有るような言い方だ。
というか、美玖を含めて先ほどの誤解を訂正出来ていない気がする。
葉月としても美玖と同様に、夜遅くに妹が一人暮らしの異性の部屋を訪れているという状況から怜と桜彩の関係を誤解している可能性は充分にある。
「……とりあえず座りませんか?」
まず必要なのは話し合いだろう。
そう思った怜の提案に三人は頷いて席へと着いた。
新たな訪問者である二人のお茶をテーブルへと用意して、怜と桜彩の分もソファテーブルから移動させる。
そして怜と桜彩は対面に座る二人に対して説明を始める。
この状況に至った理由を包み隠さずに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……というわけ。だから俺と桜彩は付き合っているとかじゃなくて、さっき桜彩が言ったように友人で隣人というか……」
「は、はい、その通りです。怜さんは私の為に色々と教えて下さってくれているんです……」
ひとまず事実をありのままに説明する二人。
美玖と葉月はそれを黙って聞いていた
「……なるほどね」
先ほど怜が焼いたパウンドケーキを素手で一掴みして口に放り込んでむにむにと頬張る美玖。
正直なところ、そういったのを身内はともかく葉月と桜彩の渡良瀬姉妹の前で見せるのはどうかと思うのだが。
「まあひとまず事情は分かったわ」
「そうね」
納得したのかうんうんと頷く二人。
「…………姉さん、信じてくれるの?」
意外そうな顔をして怜が尋ねる。
正直なところ、傍から聞けば信じられないような話なのでそんなに簡単に信じてもらえるとは思えなかった。
その怜の言葉に美玖は呆れたような顔をして
「はあ……。あんまりあたしを見くびるんじゃないわよ。何年あんたのお姉様をやってると思ってるの。あんたが嘘をついてないことくらいは分かるわ」
とこともなげに口にする。
「あの、葉月……」
「私も同じよ。まさかあなたが他人を信用するなんてね。それも男の子を」
おずおずと問いかける桜彩に葉月は少しばかり苦笑して言葉を返す。
それぞれの姉の反応に怜と桜彩はひとまず安堵の息を吐く。
ひとまずすぐに納得してくれたので助かった。
そんなことを思っていると、葉月が怜の方を向く。
「とりあえず姉としてお礼を言わせて。ありがとう、怜。桜彩を助けてくれて」
「い、いえ……」
そう頭を下げた葉月が再び顔を上げて怜を見る。
だがその視線は先ほどとは違って怜に対して何か含むところがありそうな気がする。
「あの、何か……?」
葉月の醸し出す雰囲気を感じ取った怜が若干恐る恐るといった感じで問いかける。
「怜、一つ聞かせて貰えるかしら? あなたと共に生活するようになってから、桜彩はどうしているの?」
「どうしてる、とは?」
質問の内容が漠然とし過ぎていて葉月が何を問いたいのか分からない。
「桜彩、あなたは怜に生活の手助けをしてもらっていると言っていたわよね」
「う、うん……」
葉月の問いにぎこちなく答える桜彩。
その返事を聞いて葉月は再び怜へと視線を戻す。
「あなたに家事を押し付けるようなことになっていない? あなたに負担が増えているんじゃない?」
「大丈夫ですよ。正直に言えば確かに桜彩は一人暮らしの初心者ですが、それでも頑張って料理を覚えようとしています。それに対して負担が増えていないと言えば嘘になりますが、大切な友人の頑張りは俺としても応援したいと思っています。それにこの調子でいけばすぐに桜彩も人並み程度の腕まで上達すると思いますし」
そう答えた怜だが、頭の中に疑問が浮かぶ。
確かに今の葉月の質問は、言葉の内容だけを考えてみれば妹が怜に迷惑を掛けることを気にしている。
しかし今、目の前にいる葉月の雰囲気はとてもそうは思えない。
怜に申し訳なく思っているというよりも、何か怜に疑いを持っているような感じだ。
「そう。桜彩、あなたはどうなの? 怜に色々と押し付けるようなことになっていない?」
「え、うん……。あ、た、確かに私はまだ料理に慣れてないし、怜さんの負担になっているかもしれないけど……」
そこに関しては自覚があるのか少々申し訳なさそうに桜彩が俯いてしまう。
「葉月さん。少し待ってもらえますか?」
そんな桜彩を見て口を挟む怜。
確かに現状料理の成れていない桜彩は怜に負担をかけているかもしれない。
しかし決して桜彩はそれを良しとしていない。
将来的に自分が成長出来るように努力をしている最中だ。
一度席を外してノートを持って来る。
数日前から桜彩が作っている料理ノートだ。
「葉月さん。これを見て下さい」
「……これは?」
怜から渡されたノートを不思議そうにしながら受け取る葉月。
「桜彩が努力している証拠です」
「これが?」
「はい。桜彩の努力を言葉で説明するのは難しいかもしれません。ですが葉月さんと離れて生活するようになってから、桜彩がどれだけ頑張ってきたのか。その成果がこのノートの二ページ目以降に記されています。その目で確かめて下さい」
怜は自信をもって葉月に対してそう口にする。
「…………え? え?」
一方で突然の怜の提案に桜彩がポカンとして驚いてしまう。
そして少し遅れて怜が何を言ったのかを理解する。
「れ、怜さん……!?」
何を言っているのかと焦って怜の方を見る桜彩。
しかし怜はまるで心配していないと言った感じで自信をもって葉月を見返している。
「へえ、面白いじゃない。それじゃあ見せてもらいましょうか」
葉月の視線が先ほどまでの何かを疑うようなものから、興味深そうな視線へと変化する。
「え? え? ええええええええええええええええ!?」
一人だけ話に付いて行けていない桜彩が、二人に遅れて大声を上げて驚いた。
「ちょ、ちょっと待って下さい……。そ、そんな……私にはそんな自信なんてないですよ……」
「ああ、桜彩に自信がないのは当然かもしれない。だったら桜彩、俺を信じて」
「え?」
怜の言葉に桜彩が顔を上げて怜を見る。
「桜彩に自信がないのは分かる。だからさ、自分じゃなくて俺を信じてくれ。ここ数日、隣で桜彩を見ていた俺を。桜彩が一生懸命頑張っていたのは俺が良く知っている。その俺が保証する。それとも俺のことも信じられないか?」
「怜さん……」
「それと葉月さんを信じてくれ」
「……え?」
怜の言葉に桜彩が不思議そうな顔をする。
そんな桜彩に怜は優しく笑いかけて
「これまでずっと、桜彩の一番近くで桜彩のことを支えてきた葉月さんを信じてくれ。桜彩のことを本当に大切に想ってくれている葉月さんを」
「怜さん……」
「怜、あなた……」
「桜彩、俺と葉月さん、二人とも信じられないか?」
「怜さん……ううん、信じます。私のことを大切に想ってくれている二人のことを」
怜の言葉に一瞬言葉を詰まらせた桜彩だが、目を閉じてゆっくりと首を振る。
そして再び目を開いた桜彩の顔には、もう不安の色はなかった。
(まさか、あの桜彩があんな表情をするなんてね)
少し前までは信じられなかったその変化に驚きと、そして嬉しさがこみあげて表情に現れる。
「ふふっ。それじゃあ見せてもらおうかしら」
「うんっ! 葉月、これを見て! これまで私が怜さんに教わってきたことが書かれているから」
「ええ、読ませてもらうわね。桜彩、あなたのこれまでの頑張りを」
そして葉月は差し出されたノートの二ページ目から眺めていった。
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