第37話 if シスターズの共演② ~ブラコンとクールさん~

【前書き】2024.05.06

 これは第四章ではなく第一章の36~48話のifとなります。

 これを書くにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。


 一応、言い訳のようなことを言わせていただきますと、当初は

1.美玖と葉月が怜、桜彩の所へとやってくる。

2.四人で意気投合する。

3.怜と桜彩のトラウマについて告白

4.四人で桜彩の誕生日を祝う

 というプロットを組んで物語を書いていたのですが、小説家になろうの方へ投稿する直前に、桜彩の誕生日を四人ではなく怜と二人きりで祝いたい、と思って突貫作業で話を変更した結果、美玖と葉月の行動に充分な修正が効かずに現在のようになってしまいました。

 先述の通り、私自身も読み返して二人の行動にデリカシーが大きく欠如していると感じた為、当初のプロットに修正を加える形で36~47話を書き直してみようと思います。

 もしかしたら現在掲載している内容と入れ替えるかもしれません。

 修正に当たってのご意見、感想等あれば遠慮なくお願いいたします。


※書き直した美玖と葉月の行動全てにデリカシーが伴っているわけではありません。


 第四章は今週中には投稿開始出来るように頑張っていきますので引き続きよろしくお願いいたします。





【本文】


 内扉を開けて怜が玄関の方へと向かった。

 そしてリビングに一人残された桜彩は心配そうに扉の方を見ていたが、そこから聞こえて来た『姉さん』という声にひとまず安心する。

 どうやら玄関を開けたのは不審者などではなく、前に怜が話していた姉なのだろう。

 それはそれで良かったのだが、桜彩には別の問題が生まれてくる。

 今の自分と怜との関係。

 これを正しく他人に理解出来るように説明するのは難しいだろう。

 内扉の向こうから断片的に聞こえてくる会話の内容から考えるに、怜も同じように考えているらしい。


(うう……この状況ってどう考えても不自然だよね……)


 夜も遅い時間に一人暮らしの男性の家に入り込んで食事をご馳走になっている(正確にはもう食後のデザートだが)。

 それが同性ならともかく普通の異性の友人としてはどれだけ不自然なことなのかは桜彩にだって良く分かる。


(私と怜さんの関係って何て言えば良いんだろう)


 そう悩んでいると、いきなり怜の『痛ァッ!!』という声が聞こえて来た。

 そして何が起きているのか理解する前に開かれる扉。

 後ろから怜が何か叫んでいるが、その時には既に内扉が開かれて、その奥から女性の顔が現れていた。

 とても美人で同性の桜彩でさえ見とれてしまう相手。

 おそらく彼女が怜の言っていた姉なのだろう。

 性別の違いはあるものの、怜があれだけ整った容姿をしているのだからその姉がこれほどの美人であってもむしろ納得だ。

 目と目が合う。


(えっと、えっと……)


 この状況をどうしようかと考える桜彩。

 慌てて顔が赤くなってしまっており、まるで考えがまとまらない。

 しかしその時間はそう長くは無かった。

 桜彩の顔を見た相手の女性が顔を綻ばせて口を開いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 怜が止めるのも間に合わず、既に美玖は扉を開いてしまう。

 正面奥に広がる光景は、ソファテーブルの上のパウンドケーキとお茶のセットが二人分。

 そして視線を横にずらすとキッチンでオロオロとしている一人の美少女。

 それを視界に捉えた美玖の表情が瞬く間に変わっていく。


「あら? あらあらあらあら……」


(まずい、確実に勘違いされた……)


 嬉々とした声色に怜は頭を抱える。

 こんな時間に男の部屋でくつろいでいたであろう女子。

 それが二人が良く知る蕾華や瑠華(女子という年齢かは別として)であったのならば誤解されることはないだろう。

 しかし、今のこの状況では何を言っても信じてもらうことは難しい。

 おそらく怜が美玖の立場であっても誤解しないという自信はない。

 それほどまでにある意味完璧なシチュエーションだ。


「ほうほう。これはこれはとんでもないものを隠してたわね」


 うんうんと頷いた後、怜に向かってニマッと笑みを浮かべる美玖。

 間違いなく勘違いされている。


「姉さん、先に言っておくけど姉さんの考えてることは誤解だから」


 ダメ元で先手を打って言い訳をしておく。

 しかし美玖はそんな怜の言葉など聞いていないかのように満面の笑みを浮かべて怜の背中をバンバンと叩く。


「なによ怜、そういうことなのね! 男子高校生の隠している物と言えばエッチな物だと相場は決まっていると思ったけど、まさか彼女が来ていたとはね。しかもこんなに可愛い子が!」


「だからそれが誤解だって!」


 やはりというか、当然のごとく誤解した美玖の言葉を大声で否定する怜。

 しかしこの状況では当然ながら信じてはもらえない。

 美玖は『何言ってんだこいつ』というような目で怜を見ながら腰に両手を当てて怜に向き直る。


「なによ、何が誤解なのよ」


「だから姉さんが今考えていることじゃない! 俺達は彼氏彼女とかそういう関係じゃなくって……」


「何言い訳してんのよ。別に良いじゃない、高校二年生にもなったんなら彼女持ちでも良いと思うわよ。あたしだってそうだったし。まあこんな時間に部屋で二人きりってのはどうかとは思うけど」


「何度も言うけどそれは誤解だって!」


 必死に誤解を解こうとそう言うものの、美玖の方は聞く耳を持たない。

 ちなみにそういう美玖も怜と同じ高校時代には夜遅くまで幼馴染の彼氏の部屋に入り浸っていたのだが。


「誤解? あんたの部屋に年頃の女の子がいることのどこが誤解なのよ」


「だからそこの部分以外が誤解だって言ってるの!」


「はいはい、とりあえずもうあんたは黙ってなさい」


 もう言い訳を聞く気はない、というようにシッシッと怜に手を振りながら目を離すと今度は笑顔を作って桜彩の方を向く。


「あ、あの、あの……怜さんのお姉さんですよね。私は渡良瀬桜彩と申します……」


 桜彩もこの状況に完全にてんぱってあわあわとしながらなんとか言葉を返す。

 とはいえここは怜の住んでいる部屋なので、その姉が尋ねて来ることは不自然ではない。

 お邪魔している身としてまずは礼儀として名乗るべきだろう。


「これはご丁寧に。あたしは光瀬美玖。そこにいる怜の姉よ。よろしくね」


「は、はい……。よろしくお願いします……」


 桜彩の返事に美玖は満足そうに頷いて再び怜の方へと向き直る。


「うんうん。礼儀正しくて良い子じゃない」


「……それは否定しないけど。で、姉さん、話を戻すけど、俺と桜彩は別に恋人ってわけじゃない」


「あー、はいはい、分かった分かった。あんたの言い分は後で聞くから」


 美玖はめんどくさそうに手をひらひらと振りながらそう言って再び桜彩の方へと向き直る。

 それに対して再びびくっとする桜彩。

 完全に蛇に睨まれた蛙状態だ。

 美玖の視線から目を逸らし、その背後にいる怜の方へと目を向けて涙目で訴える。


(れ……怜さん、助けて下さい……)


 その目がそう訴えているように思えるが、むしろ怜の方が助けて欲しい。

 怜は基本的に他人に対してあまり強く出ることがないのだが、それは強く出ないだけであって強く出られないわけではない。

 とはいえ苦手な相手という者は存在する。

 この姉は根本的なところでは怜に優しいのだが、表面上はかなりの傍若無人かつ唯我独尊であり、怜にとって数少ない頭が上がらない人間だ。


「あ、あの、お姉さん……」


 怜が何とかしようと頭を働かせていると、勇気を振り絞った桜彩が美玖へ向き合う。


「お義姉さん……なに、もうそう呼んでくれるの?」


 桜彩の返答に美玖が目を輝かせる。


「あ、え、ええと、わ、私と怜さんの関係はそうではなくて……、その、友人というか隣人というか……」


「あら、お隣さんなの? 良かったじゃない怜。こんな可愛い子が隣に住んでいるなんて。運命の出会いってやつね」


「い、いえその……確かに私にとって怜さんがお隣さんというのは幸運でしたが……」


「へ~え、嬉しいこと言ってくれるじゃない」


 勇気を振り絞った桜彩だが完全に美玖にペースを掴まれてオロオロとしてしまう。

 そもそも桜彩は学内ではクール系美少女として通っているが、内面は決してそんなことはない。

 良い意味でも悪い意味でも。


「姉さん、桜彩が困ってるから」


 そんな怜の抗議を完全にシカトしてさらに桜彩へと詰め寄る美玖。

 顔が触れ合いそうな距離まで近づいて行き、その迫力に桜彩が壁際まで無意識に後退する。


「あらー、近くで見るとよりいっそう美人ねー。お人形さんみたい」


「え、ええっと、あの、あ、ありがとう、ございます?」


 もはや桜彩は何も考えることが出来ないくらいに慌ててしまう桜彩。


「いやー、本当に。写真で見た時も美人だと思ってたけど実際にこうして会ってみると良く分かるわ」


「いやだから話を聞いて…………写真で見た…………?」


 ハイテンションのまま勘違いした美玖に誤解を解こうと試みたが、その途中、なんだかおかしな言葉が聞こえた気がする。

 桜彩の方も怜と同じく美玖の言葉に首を傾げている。

 美玖の言葉を信じるなら美玖は桜彩の写真を見る機会があったということだ。

 可能性としては怜が送った写真に写り込んでいる、ということが考えられるのだが、少なくとも怜はここ一か月、美玖に写真を送った覚えはない。

 他の可能性として、怜と桜彩が隣同士で住んでいることを知っており美玖とも交流があるのは瑠華くらいだが、瑠華がそうする理由も思い浮かばない。


 ピピピピピ


 そんなことを考えているとリビングに電子音が鳴り響く。

 どうやら音の出どころは美玖の服のポケットのようで、そこから美玖がスマホを取り出す。


「あ、もしもし。どうかしたの?」


『あ、美玖!? あなたは無事に弟と会えた?』


「ええ。そっちはどうしたの? 何か焦ってるみたいだけど」


『それなんだけど、桜彩が留守にしてるようなのよ。こんな時間にどこへ行ったのやら……。コンビニ位なら良いんだけど、もし何か事件にでも巻き込まれてたらどうしよう……』


「ああ、桜彩ちゃんの事なら心配無いわよ。今、こっちの部屋にいるみたいだから。そんなわけであなたもこっちに来てちょうだい。ああ、玄関の鍵は確か開いてるからリビングまで勝手に上がってね」


「「え?」」


 怜と桜彩としては美玖の電話の相手が話す内容は良く分からないが、美玖が相手に桜彩がこちらの部屋にいる為にこちらに来いと言ったことは理解出来た。

 一体どういうことかと考えていると玄関のドアが乱暴に開く音が聞こえ、数秒後にリビングのドアも開かれる。

 そこから姿を現したのは怜や桜彩寄り少しばかり年上の美人。

 そしてどこか桜彩に面影の似た――


「は、葉月……?」


 ほぼ無意識に桜彩の口から発せられたそこにいる相手の名前。


「久しぶりねっ、桜彩っ!」


 桜彩の実の姉、渡良瀬葉月が息を切らせんばかりの勢いで桜彩へと抱きついた。

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