第36~48話 if (本編ではなく第一章の36~48話の書き直しとなります)
第36話 if シスターズの共演① ~現れたブラコン~
【前書き】2024.05.06
これは第四章ではなく第一章の36~48話のifとなります。
これを書くにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。
一応、言い訳のようなことを言わせていただきますと、当初は
1.美玖と葉月が怜、桜彩の所へとやってくる。
2.四人で意気投合する。
3.怜と桜彩のトラウマについて告白
4.四人で桜彩の誕生日を祝う
というプロットを組んで物語を書いていたのですが、小説家になろうの方へ投稿する直前に、桜彩の誕生日を四人ではなく怜と二人きりで祝いたい、と思って突貫作業で話を変更した結果、美玖と葉月の行動に充分な修正が効かずに現在のようになってしまいました。
先述の通り、私自身も読み返して二人の行動にデリカシーが大きく欠如していると感じた為、当初のプロットに修正を加える形で36~47話を書き直してみようと思います。
もしかしたら現在掲載している内容と入れ替えるかもしれません。
修正に当たってのご意見、感想等あれば遠慮なくお願いいたします。
※書き直した美玖と葉月の行動全てにデリカシーが伴っているわけではありません。
第四章は今週中には投稿開始出来るように頑張っていきますので引き続きよろしくお願いいたします。
【本文】
二人でお茶を飲んでいると、怜の耳が異音を捉えた。
「ん……?」
その瞬間、怜の表情が変わる。
普段は見せない少し怖い表情であり、もちろん桜彩も初めて見る。
そのただならぬ雰囲気に桜彩が狼狽える。
「えっと、怜さん……? もしかして私、何か失礼なことしてしまいました?」
恐る恐るそう聞いてくる桜彩だが、怜は自らの唇に人差し指を当てて静かにするようなジェスチャーで指示を出す。
(今の音は玄関か……? 鍵の掛け忘れ……?)
自分しか住んでいない家に無断で入り込んでくる相手に怜が警戒心を露わにする。
桜彩にキッチンの方へと隠れているように手振りだけで指示を出し、怜はリビングにある木刀を持って内扉の方へと向かう。
姉に『一人暮らしなんだからちゃんと用心しなさい』と送られた木刀は玄関だけではなくいざという時の為に各部屋に場所に置いてあるのだが、まさか役に立つとは。
侵入者の心当たりとして真っ先に思いつくのは怜の親友である陸翔と蕾華の二人だが、あの二人は家主に無断で入ってくるということはまずしない。
瑠華ならば入った瞬間からうるさくしてくる為にこんな静かということはあり得ない。
(もし本当に不審者が相手なら、先手必勝か……)
リビングのドアの向こうは狭い廊下であり、一度に襲ってこられる間取りではない。
それにその辺りの一般人が相手であれば、怜はたとえ相手が二、三人でもどうにかするだけの自信はある。
それに何よりこの部屋には桜彩がいるのだ。
この大切な友人に万一のことがあってはならない。
そう考えた怜は相手が内扉に近づいたところでこちらから扉を開ける。
「きゃっ……!」
「動くな!」
そのまま相手の喉元へと木刀を突き付けて内扉を閉める。
だが不審者を確認しようと顔へ視線を向けると、そこには怜の良く知った、ここにはいるはずのない、しかしいてもおかしくない相手が立っていた。
相手を認識した直後、怜の顔が驚きで染まる。
そしてその相手は突き付けられた木刀に一瞬驚いたものの、すぐにそれを片手でどかして怜のことを非難するように睨んでくる。
「ちょっと怜! いったい誰に対してこんな物を向けているの!?」
そう不満げに怒鳴ってくる相手の女性。
整った顔立ちは可愛いというよりは綺麗系であり、桜彩よりもより大人びている。
というか、実際に学年で考えると三学年上である。
「姉さん!?」
そこに立っていたのは怜の実の姉、今は大学に通う為に遠方で二人暮らしをしている光瀬
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「姉さん、なぜここに!?」
いるはずのない相手を目の前にして、怜が珍しく本気で狼狽えている。
「とりあえずあんたはそれをどけなさい」
怜の質問に答えずに、美玖は手でどかした木刀へと視線を向ける。
その言葉に怜が木刀を床に置く。
不審者ではないと分かった以上、さすがにいつまでもこうしているわけにもいかない。
「それで、いったいどうしたの? こっちに来るなんて連絡してなかったよね?」
記憶に寄れば美玖がこちらを尋ねて来るという連絡はなかったはずだ。
これまでにも何度か美玖は怜の生活の様子を見に来ることがあったのだが、その時は毎回事前に連絡を入れていたのだが。
抜き打ち出来てもしも怜が留守にしていたとしても、美玖はこの部屋の合鍵を持っているので中に入って待っていることも可能だが。
「連絡なんて入れたらあんたがちゃんと生活出来てるか分からないじゃないの。普段連絡入れといて、たまに抜き打ちで来るからこそ意味があるのよ」
普段であれば、たとえ抜き打ちで確認に来られたとて見られて困ることなどない。
しかし今は桜彩が中にいる為に、美玖にはすぐに帰ってもらわないといけないと考えを巡らせる。
そんな怜の心中を知らずに、美玖は廊下の状況を軽く眺めて確認する。
「ふうん。とりあえずこの辺りはちゃんと綺麗にしてるわね」
「なるほど、事情は理解しました。俺は元気でやってますよ、お姉様。はい、以上。それではお帰り下さい。玄関はあちらです」
そう言って美玖の肩を掴んで百八十度回して背中を押して追い返そうとする怜だが、当然そうは問屋が卸さない。
「ええ、玄関があっちなのは分かってるわ。でもね、あたしが用事があるのはそっちの方なのよ」
再び百八十度振り返って内扉、その奥にあるリビングの方へと視線を移す美玖。
そんな姉の反応に怜も、まあそうだろうな、と思いつつも今のこの状況は怜にとって何一つやましいことはないのだが、確実に勘違いされることは間違いない。
その結果どういったことになるのかは想像がつかないが、怜にとって面白くないことになるのは間違いがないだろう。
「リビングはお姉様に用事がないと言っています。それではまた今度」
「用事がないかはあたしが直々にリビングに聞くわ。ついでにあんたの部屋にもね。さあ、そこをどきなさい」
「嫌です」
「ど・き・な・さ・い」
「……嫌です」
笑顔を作って同じ言葉を繰り返す美玖。
確かに表情は笑顔なのだがプレッシャーが強い。
対してプレッシャーに負けないように必死で無表情を作りつつ同じ言葉を繰り返す怜。
「どけ」
「…………嫌です」
笑顔を消してドスの利いた声を出しながら怜を睨みつける美玖。
背中に冷や汗を流しつつ、それでも無表情を保ったまま同じ言葉を繰り返す怜。
怜を強引に押しのけて通ろうとする美玖に対し、怜は体を内扉の前に置いて一歩たりとも通さない意思を示す。
力では怜の方が圧倒的に上だが、なんだかんだいって大切な姉である美玖に対して本気で実力行使は出来ない。
そんな押し問答に埒が明かないと見たのか美玖が一歩引いて頭を抱える。
「……怜、あんたいったい何を隠しているの?」
「姉さん、俺、高校二年生の男子。姉さんに対して隠してる物の一つや二つはあるでしょう」
「このお姉様に対して隠し事とはねえ……。怜、あなたも成長したのね」
一見すれば優しい口調と優しそうな笑顔、その裏で更にプレッシャーを掛ける美玖。
「……弟として成長した姿を親愛なる大切なお姉様に見せることが出来た幸せで胸が張り裂けそうですよ」
「……ふうん、しばらく見ない間にあんたもいっちょ前になったわね」
「ご理解いただけたようで何よりです」
訝しむような目で怜を見上げる美玖に対して、背中を冷や汗で濡らしながらなんとか答える怜。
桜彩や親友の女子である蕾華もちょくちょくこの部屋に訪れるし瑠華に至っては勝手に家探しまでしてくる為、別にそういった物は一切持ってはいないのだがさすがに桜彩の存在をそのまま伝えるわけにもいかない。
多少の恥を被ってでもこの場をごまかす方が優先だ。
その言葉に美玖は深くため息をついて
「はあ、しょうがないわね。ならあたしは一度コンビニまで出かけるから、その間に見られたくない物を箱にでもしまっておきなさい。部屋が片付いてるのならそのくらいの時間があれば充分でしょ? 言っとくけどそれがあたしが今出来る最大の譲歩よ」
美玖としては怜がちゃんと部屋の掃除をしていることを確認さえ出来れば良いのだろう。
怜が美玖を部屋に入れたくない理由を美玖は勘違いしているが、怜にとってはとりあえずそれで構わない。
美玖のコンビニまでの往復の間、桜彩を自室に帰らせて痕跡を抹消するなどたやすいことだ。
「了解」
「あ、言っとくけどあたしが戻って来た時にチェーンロック掛けて閉め出すなんてことはするんじゃないわよ」
「……分かってるって」
「そう。それじゃあ十分程度で帰ってくるからね」
そう言って踵を返して三たび百八十度回って玄関の方へと歩き出す美玖。
その姿に安堵した怜は、とりあえず床に置いた木刀を拾おうと腰を屈めて――
「……と油断させておいてー!」
その瞬間、四たび百八十度の方向転換を行った美玖が、怜の虚を衝いてリビングに突入しようとする。
いきなりのその行動に怜はただ固まったままそれを止める術など一切ない――
――わけがなかった。
「させるかあ!」
この姉がそんな素直に退くはずがない、ということを長年の付き合いから怜は充分すぎるほどに理解していた。
予想通りに一旦安心させた後、即座に反転してリビングを強襲するつもりだったのだろうがこちらも即座に反応した怜が美玖の両腕を取って押しとどめる。
「あら、やるわね怜」
「姉さんがそんな素直な性格してるだなんて思ってないから」
その言葉に美玖が目を丸くする。
「そう、さすがね。でもね……」
ビリッ
「痛ァッ!!」
そう美玖が告げた瞬間、怜の身体がまるで電気が走ったように弾かれる。
というか、本当に電気が走った。
美玖の右手に持たれた電気ショックペンによって。
どっきりで使われるそれはスタンガンのように相手を無力化する物ではないのだが、怜が一瞬手を離すには充分だった。
というか、怜が抵抗した時の為にそんな物を準備しているとは用意が良すぎだろう。
怜が怯んだ一瞬の隙を突いて美玖がリビングのドアノブに手を掛けて勢いよく開く。
「さあ、観念しなさい! 見せてもらうわよ!」
「ちょっ……! 姉さんストップ!」
慌てて怜が後を追うが、もう遅い。
美玖の目は椅子からキッチンで驚いた表情をしている美少女――桜彩の姿を捉えていた。
【後書き】
この話はあまり変わっていません。
守仁が一緒に来ないくらいですね。
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