第169話 エピローグ③ ~星座を作ろう~

「でもさ、星座ってその形に見えない物ばっかりだよな」


 春の星座を追いながら、ふと怜が気になったことを口にする。


「こぐま座とか絶対熊なんかに見えないだろ」


「うん。昔の人は何であれが小熊とかに見えたんだろうね」


 怜の言葉に桜彩も同意する。

 夜空に星座は数あれど、星座を知らない人がこれが何に見えるかと問われたらその星座の名前を当てるのは難しいだろう。


「そういえば、俺も昔に星座を作ったな」


 ふと天文にはまっていた時のことを思い出す怜。

 そんな怜の言葉に桜彩が興味深そうなそぶりを見せる。


「星座を作った? え、何を作ったの?」


「そうだな。例えばほら、あれとあれ、ああやって繋いで……」


 怜が左手で夜空を指差しながら桜彩へと自作の星座の形を説明する。

 もちろん怜の右手は桜彩の左手と繋がれたままだ。


「あれで『ギョー座』なんてな。まあ定番だよな」


 当時の星座を再現してははっ、と笑う怜。

 そんな怜につられるように桜彩も笑顔を浮かべる。


「クスッ。なあに、それ。ただの半円じゃない」


「まあ星座なんてそんなもんだって。ほら、雲を見て、あの雲ソフトクリームに似てる、なんて思ったことあるだろ?」


「それはあるけどさ。でもさすがに似てないんじゃないの?」


「む……。それじゃあ桜彩も作ってみるか?」


 桜彩の言葉に笑いながら、今度は桜彩に作るように促す怜。

 絵心に恵まれた桜彩ならば分かり易い星座を作ってくれるのかもしれない。


「それじゃあ私も作ってみるね。あれとあれとあれを繋いで……何だと思う?」


 桜彩の右手が指し示す星を目で追って頭の中で形を描く。

 しかしそれが何なのか皆目見当もつかない。


「いや、分からないな」


 おどけた様に降参するようなポーズを示す怜。

 そんな怜に桜彩はクスッと笑って答えを口にする。


「ふふっ肉巻き座だよ」


 それこそギョー座以上に分からないだろう。

 どうやら星座を作るセンスと絵心は比例しないらしい。


「いや、肉巻き座って。それはさすがに分からないって」


「えーっ、そうかなあ?」


「そうだって」


 二人でくすくすと笑い合う。

 そしてまた夜空へと視線を移し、片手を伸ばして


「それじゃあまた私が作るね。あれとあれで――なんだと思う?」


「いや、分からないな」


 桜彩の示した星をつなげていくが、先ほどと同じように形からは全く想像が出来ない。


「あれはね、エビフライ座」


「いやいや、エビフライ座って」


 怜としては単なる長方形にしか見えない。

 それをエビフライだと当てるのは流石に難しいだろう。


「それじゃあ次は俺の番だな。あれとあれとあれを繋いで――さあなんだ?」


「え? 今度は最初と最後が繋がってないよね?」


「答えはギザギ座」


「えーっ、それはちょっとずるくない?」


 笑いながら頬を膨らませる桜彩。


「まあいいじゃん。それじゃあ桜彩の番な」


「うん。あれとあれで――なーんだ?」


「いや、分からないな」


「あれはね、ピ座」


「いや、ピ座って……」


 思わず苦笑が漏れてしまう。

 桜彩の作ったそれはただの円形にすぎないのだからもはや何でもありだろう。


「肉巻きにエビフライにピザって。さっきから桜彩の作る星座は食べ物ばっかりだな」


「むー、良いじゃない、別に」


「別に悪いとは思ってないぞ。むしろ桜彩らしいなって思ってる」


「え? 私らしいって……あーっ、また食うルなんて思ったでしょ!」


 怜の答えに頬を膨らませる桜彩。

 空いている右手で怜の胸をポカポカと叩いてくる。

 正直それは桜彩の深読みなのだが。


「いや、そこまで考えてなかったって! それは桜彩の考えすぎだから!」


「えーっ、ホントに?」


「ホントホント」


 本当にそこまでは考えていなかった。


「たださ、今の桜彩の言葉でやっぱり桜彩は食うルだなって再認識はしたな」


「あーっ、やっぱり食うルって言った!」


「いや待って! 今のは桜彩が悪いと思うぞ!」


 実際に今のは桜彩の自爆だろう。

 それで怒られてはたまったものではない。

 いや、怜が口に出さなければ良かったのかもしれないが。


「それじゃあ今度エビフライ作るからさ」


「むーっ。食べ物で釣ろうだなんて。なんだかやっぱり食うルって思われてる気がする」


「それじゃあエビフライは作らなくても良いのか?」


「……作って」


 少し恥ずかしそうに口を尖らせながら桜彩がそう要求する。

 やはり食欲には勝てないのだろう。


「エビフライだけじゃ味気ないし、この前みたいにミックスフライにでもするか。いや、ハンバーグのエビフライセットってのも有りだな。ファミレスでよくあるやつ」


「ハンバーグ! 今日のミニハンバーグも美味しかったし期待しちゃうね!」


「ああ。付け合わせはポテトフライかな。ああ、ハンバーグにチーズをのせても良いかも」


「目玉焼きも良いんじゃない?」


「オッケー。目玉焼きも追加だな」


「ふふっ。やった!」


 そう言って二人で笑い合う。

 なんだかんだ言って、二人共食べるのは大好きだ。


「それじゃあね、あれとあれとあれと――分かるかな?」


「んーっ、いや、分からないな」


「それじゃあヒントね。今度は食べ物じゃないよ」


 悩む怜に桜彩がふふっ、と笑いかけながらヒントを出す。


「食べ物じゃないのか。それじゃあ……猫座?」


「うんっ。大正解!」


 半分あてずっぽうだったのだが当たったようだ。

 やはり桜彩といったら『食うル』と『絵』、それに『猫』だろう。


「それじゃあ俺も作るかな」


「うん。私も次のを作るね」


 そして二人で握り合っていない方の手で夜空の星をなぞっていく。



【後書き】

第三章はまだ続きます

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