第151話 プラネタリウム① ~プラネタリウムへ行こう~
「それじゃあ次はどこに行こうか」
コーヒーとクレープを食べ終えた桜彩が楽しそうに案内パンフレットに目を向ける。
わざわざ案内板まで行くのも面倒だし、ホームページからスマホで確認するには画面が小さいので先ほど貰ってきたものだ。
「とりあえずデザートは一旦終わりにするか。後は夕食の楽しみってことで」
「んーっ、そうだね。ちょっとまだ目移りしちゃうけど」
フードコートを取り囲むように配置されている店を見渡しながら未練がましく同意する桜彩。
まあ怜にもその気持ちは分からないわけでもない。
しかし弁当の後にスムージー、チュロス、団子、ベビーカステラ、クレープと色々と食べ過ぎている。
チラリと桜彩の身体へと視線を向ける怜。
(……いったいこの体のどこにそんなに入るんだろう)
怜や陸翔もよく食べる方なのだが、二人はそもそも男子の中でも体格が良い。
それに対して桜彩や蕾華は身長こそ女子の中では平均を越えてはいるものの、引き締まったプロポーションをしておりとても大食いとは思えない。
ちなみに以前似たようなことを姉の美玖に聞いたところ、『女性の秘密を知ろうとするんじゃない』と言われた為にそれ以上のことは分からない。
そんな怜の視線に気が付いた桜彩が頭に疑問符を浮かべる。
「怜?」
「あ、悪い」
「ううん、別に構わないんだけど、どうしたの?」
一般的に女性は体を見られることを良く思わないと思っているのだが、桜彩は全く嫌そうな感じを出さずに純粋に聞いてくる。
ジロジロと舐めまわすように見ていたわけではないのだが、さすがに女性の体を観続けるのも失礼だろう。
「いや、大したことじゃないって。たださ、その、アパートでも言ったけどやっぱり今日の桜彩、服装もあっていつもと雰囲気が違うなって。やっぱりこれってデートなんだなって再認識したっていうかさ」
「あ、うん。ありがとね。出かける時に私もこの服も素敵だって褒めてくれて嬉しかったよ」
照れてはにかんだような表情をする桜彩。
「でもね、それは怜もだよ。いつもの感じも好きなんだけど、今日みたいな感じも素敵だなって。うん。怜もデートだって認識してくれて嬉しいな」
「そ、そっか。ありがと。デート、か。デート、なんだよな、これ」
「う、うん。で、デート、だよね」
お互いにデートだということを認識した上で楽しんでいる。
それがやはり心地良い。
「それで話を戻すけど、次はどこに行こうか」
「そうだな。……うーん、こうしてみると遊べる所も多すぎて逆に選ぶのが大変だな」
「そうだよね。まあ選択肢が少ないよりは良いんだけどさ」
各フロアガイドを見ても、ボウリングやゲームセンターなど遊べる所やショッピング自体を楽しむところなど目移りしてしまう。
「うーん。デートなんだから……え、映画とか……?」
「映画、か。そもそも今は何をやってるんだ?」
「調べてみよっか」
スマホを操作して今上映中の映画を調べてみる。
怜も桜彩もそこまで映画好きというわけではないし、今やっている作品で特に観たいものがあるわけではなかった。
動物ものでもあればそれでも良かったのだが。
「なんかこれっていうのが無いんだよなあ」
「ど、どうしよっか。と、とりあえず映画館の方に行ってみる?」
「いや、止めとこう。そもそもさ、俺と桜彩の関係って『言葉で定義することは出来ない二人だけの特別な関係』だろ? だからさ、既存のデート方法について当てはめる必要もないと思うんだ。デートだからこうしよう、じゃなくてさ、二人が楽しむこと、二人が楽しめることをやっていきたいな。いや、もちろん桜彩と映画を観ても楽しめるとは思うんだけどさ」
「怜……そうだね。うん、怜の言う通りだと思う!」
下手に他人のデートを真似て微妙な感じになるよりも、二人が楽しめる方が良い。
桜彩もそれには同意見だ。
「とすると、どこがいいかなあ」
「うーん。まあさっきみたいに色々と歩いて回っても良いんだけど……あっ」
するとパンフレットの中の一つの項目を怜の目が捉えた。
そしてその呟きは桜彩の耳にも届く。
「どうかしたの? 何か面白そうなのあった?」
「面白そうっていうか、えっと……」
「なに? 言ってみて?」
言いよどんだ怜に対して桜彩が目を輝かせて詰め寄る。
少しバツが悪そうに目を逸らす怜
「いや、二人で楽しめるかって考えるとな……」
怜の目についた所は端的に言えば映画館と大差ない。
そう思って言いよどんだのだが桜彩が頬を膨らませる。
「む……。怜、そういうのは良くないよ。とりあえず教えてよ。もしも嫌ならちゃんと嫌だって言うからさ」
「……そうだな。ごめん、桜彩」
「うん」
確かに下手に気を遣い過ぎてもそれは相手に失礼だ。
それこそ信頼し合っている関係ならそういったところは遠慮せずに告げるべきだろう。
それを反省して頭を下げると、桜彩も笑って許してくれる。
「それで、怜の行きたい所ってどこ?」
「行きたい所っていうか目についたっていうか……。その、ここ、なんだけど……」
そう言って怜が指差した先を桜彩も目で追っていく。
そこには『プラネタリウム』と文字が書かれていた。
「プラネタリウム?」
いったいどんなものなのかと思ったら普通の場所を言われて拍子抜けする桜彩。
「ああ。まあ、少し興味があるっていうかさ」
「そうなんだ。それじゃあそこに行こっか」
「え? いや、桜彩は良いのか?」
「うん。私、プラネタリウムって行ったことがないから楽しみだなあ」
「本当に? 俺に合わせようと無理とかはしてないよな?」
「うん! 私、こういうの見たことないからさ。だから怜と一緒に体験出来るんなら嬉しいよ」
本当に楽しそうにワクワクとする桜彩。
一瞬無理をしているのかとも考えたのだが、そんなことはなさそうだ。
「そっか。ありがと」
「れーいっ! お礼を言うことじゃないよ。私だって本当にプラネタリウムに行ってみたいんだから。だからさ、私こそありがと。こんなに素敵な提案をしてくれて」
「桜彩……。ははっ、それじゃあお互いにありがとうってことで!」
「うんっ! お互いにありがとうだね!」
二人の顔に笑顔が戻る。
そして椅子から立ち上がり、クレープとコーヒーの空容器を片付けて目的地へと歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
プラネタリウムの会場前についてプログラムの時間を確認する。
さっそく液晶掲示板を見つけて興奮したように指を差す桜彩。
「あっ見て! 次の上映、後三十分後だって! これにしよっか!」
「そうだな。このプログラムにするか」
「うんっ! 楽しみだなあ」
いったいどのような感じなのだろうとまだ見ぬプラネタリウムへと想像を働かせる桜彩。
こんな感じで上映前から喜んでくれるのなら提案した怜としてもとても嬉しい。
「どんな内容なのかな~っ」
券売機の横に置かれているパンフレットを桜彩が手に取り、それを怜にも見せてくる。
「あっこれ見て! プラネタリウムでお花見だって!」
「ホントだ。と言われても想像つかないな。どんな感じなんだ?」
「えーっとね……」
パンフレットを確認してみると、どうやら上映の合間に満開の桜を映し出しているらしい。
辺り一面を桜に囲まれて盛大なお花見気分を味わうことが出来ると表記されている。
確かにこれなら天候や気温、花粉などの不安要素はなく花見が楽しめるだろう。
まあそれよりもやはり実物の桜の方が良い面もたくさんあるのだが。
「それにさ、このお花見を映してる時は写真も大丈夫だって! これならプラネタリウムで怜と一緒に写真を撮れるね!」
当然ながら大半のプラネタリウムの中では上映中の撮影が禁止されている。
しかしこのお花見はあくまでも上映の合間に映しているものということなので例外的に撮影が許可されていた。
「ふふっ。怜と一緒に写真を撮るの、楽しみだなあ」
「ああ。やばい、星空よりも楽しみになって来たかも」
「ふふっ。それじゃあ本末転倒だよ。……まあ私も楽しみなんだけどさ」
星を見に来たのに桜の方に興味が惹かれてしまう二人。
「それじゃあこのプログラムのチケットを買おっか!」
「だな! 早く中に入って観てみよう」
「うんっ。それじゃあ早く買いに行こう!」
そして二人はチケットを求めに券売機の元へと足早に歩いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます