隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】
第69話 怜の彼女の正体は?② ~「れーくんの彼女ってお隣さんの事だったりして」~
第69話 怜の彼女の正体は?② ~「れーくんの彼女ってお隣さんの事だったりして」~
「お帰り」
「お帰りさん」
「二人共ただいまー」
実家のような挨拶を交わす三人。
陸翔も蕾華も怜の部屋は実家のような安心感がある。
「ゲームしてたの?」
ソファーの前のテーブルのコントローラーを見て蕾華が聞いてくる。
「ああ。まあ一段落したところだけどな」
「そうなんだ。あ、今から何かする予定だった?」
「いや、ただのティータイム。蕾華もベストタイミングだったな」
怜も台所に戻ってコーヒーの準備をしながら答える。
「そっか、良かった」
ピンポーン
蕾華の分を含めたコーヒーの準備をしていると再びインターホンが鳴る。
「なんだ? 来客か?」
「あ、もしかしてあの年上彼女が来たの? まさかアタシ達って邪魔?」
「だから彼女なんかいないっての。陸翔と同じこと言うなって」
「えっ、りっくんも同じこと言ったの? やった、お揃いだ!」
「おう、お揃いだな!」
そんな他愛のないことを嬉しそうに思う二人。
そのまま陸翔に抱きつく蕾華と抱きしめ返す陸翔。
隙あらばいちゃつく二人を微笑ましく思いつつ、インターホンへと向かう怜。
「多分宅配便だと思うよ。母さんが送るって言ってたから」
彼女が来たのか、という台詞は二人の表情から冗談で言っているのは分かる。
インターホンで相手を確認すると、エントランスに現れたのは怜の予想通り宅配便だった。
「もしもし」
『宅配便でーす』
「分かりました」
そう言ってエントランスを開けて二人に向き直る。
「やっぱ宅配便だった。また玄関行って来る」
「おう、分かった」
「あ、じゃあアタシ達でコーヒーの準備進めちゃうね」
「サンキュー」
しっかりとお互いを堪能した二人が離れ、勝手知ったる他人の家、といった感じでキッチンへと向かう。
怜もコーヒーの準備を二人に任せて玄関へと向かった。
しばらくすると宅配便がやって来る。
送り先を確認するとやはり差出人は母だった。
渡された段ボールを部屋の中に入れて玄関を閉めようとすると、ちょうどそこへ宅配業者と入れ違いで足音が聞こえてくる。
なんとなくそちらを見ると、ちょうど桜彩が帰って来たところだった。
おそらく怜のメッセージの後すぐに戻って来たのだろう。
桜彩も怜の姿を見て笑いかける。
「こんにちは、怜」
「桜彩。楽しんできた?」
「うん。とっても楽しかったよ」
笑いながらそう告げてくる。
桜彩が楽しいのは結構なのだが、それを嬉しそうに語る桜彩に対して怜は自分でも分からないうちに少しモヤっとした感情を抱いてしまう。
「でも今は竜崎さんと御門さんがいるんだよね。もっと怜と話していたいけど、バレたら悪いしまた今度ね」
「ああ。それじゃあな」
もっと話していたいという桜彩の言葉に胸が温かくなる。
すると、ドアを閉めようとしたところで内扉を隔てたリビングの方から蕾華の声が聞こえてきた。
「あ、このカップ凄い可愛い! れーくん、この猫のカップ使っても良い!?」
嬉しそうな蕾華の声。
その言葉に怜と桜彩がビクッとする。
蕾華の言うところの猫のカップとは、間違いなく先日二人で購入したお揃いのカップの事だろう。
「ちょ、ちょ、ちょっと待った! ダメ! それダメ! 絶対ダメ!!」
慌てて怜が扉越しにリビングに向かって大声で叫ぶ。
桜彩も声こそ出さなかったが少し顔が青ざめている。
二人共蕾華のことは好意的に思っているが、それでも二人のお揃いのカップは自分達以外の人には使わせたくはない。
「え? れーくん?」
「怜?」
いきなり大声を出した怜にリビングの二人から怪訝な声が返ってくる。
怜は桜彩とお互いの顔を見合わせて、それじゃあ、とだけ言って玄関を閉める。
間一髪、怜がドアを閉めたところで部屋の内扉が開いて陸翔が顔を覗かせた。
「なんかあったのか? そんなに焦って」
「い、いや、何でもない、何でもないから!」
そう言いつつ早歩きでリビングの方へと戻る怜。
キッチンの方を見ると、そこでは予想通りお揃いのカップを持った蕾華が居た。
「れーくん? どうしたの?」
焦ってリビングへと戻って来た怜に対し、蕾華も陸翔同様に驚いている。
普段落ち着いている怜がここまで慌てるのは相当珍しい。
「ちょっと蕾華、ストップ! そのカップだけはダメだから!」
「え?」
怜の言葉にカップを持ったまま蕾華が固まり、猫の描かれたカップへと視線を移す。
「これ?」
「そう、それ! ほんっとうに悪いんだけど、そのカップだけは使わないでくれないか?」
「う、うん……。れーくんがそう言うんなら別に構わないけど……」
「ありがと、蕾華」
そう言いながら怜は胸を撫で下ろす。
一方でそんな怜の様子に二人は怪訝な顔をする。
ここまで慌てる怜は仲の良い二人でもあまり見たことはない。
「あれっ、てかさ、れーくん。よく考えたらこれってお揃いのカップだよね」
二つのカップを見比べながら蕾華がそう指摘する。
デザインこそ少し違うが、同じようなタッチで猫が描かれていることに変わりはない。
「本当だな」
陸翔も蕾華の言葉に頷いてカップを見る。
そして二人で何かを察したような温かい目を怜に向ける。
「な、なんだ……?」
ニヤニヤとした目でこちらを見てくる二人に思わず後ずさってしまう。
「れーくん。カップが二つあるけどさあ、れーくんが一人で使ってるわけじゃないよね」
「…………」
否定する言葉を失ってしまう。
ヘタな言い訳をしようものなら即座に言葉尻を捉えられて反撃を食らうだろう。
「お揃いのカップ。それもアタシ達他の人には絶対に使ってほしくない、かあ」
「じゃあ誰なら使って良いんだろうなあ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる二人。
するとそこで陸翔の視線が食器置き場に向いた。
「おい待て。よく見たら二人分の食器が洗ってあるよな」
(しまった……)
陸翔が向けた視線の先には桜彩と食べた朝食の食器が食器置き場に置かれている。
朝食は米食であった為、ご飯茶碗も味噌汁茶碗も二人前だ。
「おいおいおいおい。怜、これはいったいどういう事だ?」
「そうだよね~。れーくん、これっていったい誰の食器?」
「いや、それは両方とも俺が……」
「ま~さ~か~、普段からしっかりしているれーくんが、前日の食器を洗わずに新しい食器を出してご飯を食べる、なんてことはないよねえ」
昨日食べた食器を片付けるのが面倒で今日の朝に新しいものを用意した、と言い訳しようとしたのだが、普段の生活が裏目に出て即座に逃げ道を潰されてしまう。
そのまま蕾華は畳みかけるように問いかけてくる。
「しかもさ~、れーくんって相当仲の良い相手じゃないと自宅に上げないよね」
「だよな。普通の友達ですら、去年一年間でここに来た相手はいないよな」
二人の言う通り、怜は友人は多いとはいえ陸翔と蕾華、それに(二人は知らないが)桜彩を除いては基本的に一線を引いて接している。
怜がこのアパートに住んでいることを知っている者すらほとんどいない。
それこそ生徒に限ればこの二人と桜彩だけだ。
二人の指摘に怜の背中に冷や汗が湧く。
そしてこの後に二人の口から出る言葉はおそらく怜の予想を外れないだろう。
「ま・さ・か~、例の年上彼女の分?」
「だよなー。それしか考えられねーよなー」
ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ。
怜の予想通りの言葉が親友二人の口から出る。
「……だから俺に彼女なんていないっての」
「へー、そー、ふーん。それじゃあこれは誰の分なのかなあ? れーくんの分じゃないってのは分かってるからね」
「そーだぞー。怜、諦めて白状しちまえよ」
「…………」
怜の言葉を信じていない二人に対してとっさの言い訳が出てこない。
怜は基本的に二人に嘘はつかないが、絶対につかないわけではない。
そして二人共そのことは良く知っている。
まあ本当に嘘ではないのだが。
すると蕾華が何かを思いついた、というように目を見開いて早口で聞いてくる。
「ってかさ、れーくん今日は午前中からりっくんと一緒にいたんでしょ?」
「ああ。ずっと一緒だったぞ」
「ってことはさー、朝ご飯一緒に食べた後、その人とすぐに別れたってことだよね。朝ご飯食べる為だけにわざわざれーくんのとこに来て、食べてすぐに帰るってのはちょっとありえないと思うし……はっ、まさか、泊まったの!?」
「なにっ!? 怜、お前、まさかもうそういう関係か!?」
「へ…………泊まっ…………! ちっ……違う、違うから! 誰も泊まってなんかない!!」
慌てて勢いよく首を横に振って否定する。
状況証拠から斜め上の発想が出てきた。
確かに二人の言う通り、恋人であっても、朝怜の家を訪れてご飯を食べてはいさようならは不自然だ。
お泊まりを疑ってもおかしくはない、というか怜の家に泊まったと考える方が自然だろう。
しかしそれは間違っている。
「ホントかよ。蕾華の言う通り不自然だぞ?」
「ほ、本当だ! 疑うんなら布団を確認してくれ! 今日は午前中から陸翔と一緒にいたんだから、来客用の布団を干したり綺麗にしたりする暇なんてなかったから!」
二人の言う通り、誰かが怜の部屋に泊まって布団に寝たのであれば、痕跡が間違いなく残っているはずだ。
しかし現在来客用の布団は綺麗に畳まれており、シーツも綺麗な状態で押し入れに収納されている。
それを見ればこの二人も納得してくれるだろう。
「ふーん、まあれーくんがそこまで言うんなら本当に布団は使ってないんだろうね。……ってまさか!」
「……まだ何かあるのか?」
驚く蕾華に問いかける怜。
それに対する蕾華の答えは怜の想像の更に斜め上だった。
「れ、れーくん……。れーくんのベッドって、確か、ダブルサイズだったよね。二人で寝ても問題ないくらいの」
「…………はあっ!?」
蕾華の指摘に素っ頓狂な声を上げてしまう。
確かに怜のベッドは一人で寝るには大きいダブルサイズベッドだが。
「れ、怜……。お前、まさか……」
「れーくん……」
二人の表情が驚きに染まる。
これはもう間違いなく怜のベッドで二人一緒に寝たと思われているだろう。
「ち、ち、違う、違うから! ほ、本当に誰も泊まってない!」
「…………怪しい」
「怪しいな」
「ほ、本当だって! 誓って嘘じゃない! 俺の部屋には誰も泊まってない!」
真剣な表情で二人を見る怜。
その表情に、二人は怜が嘘を言っていないことがなんとなく理解出来た。
「ふーん。まあれーくんがそこまで言うならそれは信じるけどさあ」
「だな。そこまで言うなら嘘じゃねえよな」
「分かってくれて助かる……」
こういうところ、付き合いが長くお互いのことを良く分かっている親友というのはありがたい。
怜はほっと胸を撫で下ろす。
まだ疑わしいところはあるだろうが、ひとまず追及は終わるだろう。
「じゃあ俺は宅配便の荷物をこっちに持って来るから」
そう言って届いた段ボールを取りに玄関へと向かう怜。
その背中に蕾華から声が掛けられる。
「あ、そういえばさあ、さっきの宅配便、妙に時間かかってたよね。まさかあのタイミングで彼女でも来たの? あ、もしかしてアタシ達、邪魔だった?」
からかうように言う蕾華。
昨夜、怜の部屋に彼女(と思われている相手)が泊まっていないということは信じてくれたようだが、怜に彼女がいないということまではまだ信じてもらえていないようだ。
とはいえ蕾華の口調から、これは単に怜をからかっているだけだということは分かる。
しかしなぜこうも勘が良いのか。
彼女かどうかは別として、二人が疑っている相手、桜彩と話していたのは間違いない。
「違うよ。邪魔なんてことはない。宅配便が帰る時にちょうど隣の部屋の人が通ったから軽く挨拶してただけ」
嘘ではない。
その隣の相手が二人の良く知っている相手だとは言っていないだけで。
「ふーん。あ、もしかして、れーくんの彼女ってそのお隣さんの事だったりして」
笑いながらの蕾華の指摘に思わず怜の体が震える。
というか勘が良すぎだろう。
「あ、なるほどな。それなら夜は自分の部屋に泊まって朝は怜の家でご飯を食べて、それで一旦別れたって考えてもおかしくはないか」
蕾華の指摘に陸翔も笑って同意する。
「なーんちゃって、さすがにれーくんの年上彼女がお隣さんだなんて、そんなことってない……よ……ね……?」
「ははは、まさかそんなことなんてあるわけがないって……」
「……………………」
二人としてはもちろん怜をからかう為の冗談を言ったのだが、怜は思わず動揺を表に出してしまった。
その一瞬を親友であるこの二人が見逃すことはない。
即座に怜の反応に気付いて思わず顔を見合わせる。
そしてゆっくりと怜に向き直って蕾華が一言。
「あれ? もしかして……本当に……?」
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