隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】
第46話 姉(シスコン)の襲来⑤ ~ハッピーバースデー(2回目)~
第46話 姉(シスコン)の襲来⑤ ~ハッピーバースデー(2回目)~
【前書き】
現在、36~48話のストーリーを第三章の後に『if』という形で書き直しています。
これを書き直すにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。
今後、(おそらくですが)ifストーリーの方を本編へと組み替える予定ですのでそちらの方も読んでいただけると嬉しいです。
【本編】
「怜、お茶を淹れ直してもらえるかしら?」
「はい、分かりました」
「それと私は一度桜彩の部屋へと戻るわね」
「あ、それなら私も」
「あなたは良いわよ。すぐに戻ってくるから」
そう言って葉月は一度桜彩の部屋へと戻って行く。
後に残されたのは怜と桜彩。
「はあ…………緊張した……」
お湯を沸かしながら力を抜いて壁へと倒れかかる。
今になって体から力が抜けてきた。
「はい……緊張しました。それと怜さん、本当にごめんなさい……」
「え? 俺が桜彩に謝られることなんてないと思うけど」
頭を下げる桜彩の言葉に怜が考えてみるが、別に桜彩に迷惑を掛けられたわけではない。
「その、姉が大変にご迷惑を……」
「いや、さっきも言ったけど俺は気にしてないからさ」
あれは姉として妹を大切にするあまりのことであり、そのことに対して怜は責めるつもりは全くない。
「あの……それと……先ほど怜さんを思い切り抱きしめてしまって……」
「あっ……」
その場の勢いで忘れかけていたが、後になって振り返ればあれは確かに大事だ。
頭を思いっきり掴まれてそのまま胸に押し付けられて……。
ということは、つまり怜の顔は桜彩の胸に埋まっていたというわけで……。
その事実を思い出した怜の顔が瞬間的に赤くなってしまい俯いてしまう。
「ほんとよねえ。まさか男に対して免疫のなかった桜彩があんなに積極的にアプローチするなんて思わなかったわ」
「わっ!!」
「きゃあっ!!」
いきなり響いたその声に怜と桜彩が肩を震わせて驚く。
声の方を見るとリビングの入口に呆れた顔をした葉月が手に箱を持って立っていた。
「あ……アプローチって何!?」
「何ってあんた、さっき自分の胸に怜の顔を押し付けてたじゃないの」
「えっ!!」
葉月の言葉に桜彩は先ほど自分が何をしたのかをようやく理解した。
慌てて怜の方を向いて弁解する。
「ち、違いますからね、怜さん! あ、あれは葉月が怜さんに酷いことをすると思ったから思わず守ろうとしただけで……!!」
「わ、分かってる! 分かってるから落ち着いて! 葉月さんにからかわれてるだけだから!」
「ふぇ……?」
顔を真っ赤にして慌てて否定する桜彩だったが、怜の言葉により葉月にからかわれたことを理解する。
「は……葉月ーっ!!」
「あははははははは! 本当にいいリアクションするわね、桜彩」
「う~っ!!」
からかわれた桜彩が唸りながら机に突っ伏して顔を隠す。
先日、家庭科部で奏にからかわれた時もそうだったが、桜彩はこういったことに弱いのだろう。
そんなリアクションもやはり可愛いな、などと考えながら怜はお茶を淹れる。
「あはは、ごめんね、桜彩」
「……ふんっ!」
桜彩はまだ根に持っているのか顔を上げたが葉月の方を見ようともしない。
「ごめんって。ほら、これでも食べて機嫌直して」
そう言って葉月が桜彩に持っていた箱を差し出す。
その箱はそもそもリュミエールで使用している物で、ということは中に入っているのは間違いなく……。
「誕生日おめでとう、桜彩」
「葉月……」
中に入っていたのはケーキが二つ。
その内片方には『HAPPY BIRTHDAY』のプレートが乗っている。
「桜彩と食べようと思って買って来たんだけどね。怜、片方はあなたが食べて」
「え……?」
ケーキが二つということは、間違いなく葉月は大切な妹の誕生日を二人で祝う予定だったはずだ。
そのケーキを怜が食べるのはさすがに申し訳なく思ってしまう。
「でもそれは……」
「あなたへの謝罪と、それと感謝も込めてよ。本当に桜彩のことを大切にしてくれているあなたに食べて欲しいのよ」
「……でしたらいただきます。ですが、半分ですよ」
そこまで言われてはさすがに断るのも難しい為、折衷案としてそう提案する。
葉月が頷いて了承したために、怜は元々葉月の分のケーキを半分へとカットして皿に乗せる。
「それじゃあいただきましょうか。桜彩、誕生日おめでとう」
「おめでとう、桜彩」
「二人共……本当にありがとう」
三人で一緒にケーキを食べながら怜と桜彩のこれまでについてを話していく。
二人の話を葉月は微笑み、時々驚きながら聞いていく。
話が終わると葉月は優しく桜彩を抱きしめた。
「本当に仲が良いのね。良かったじゃない、桜彩」
「うん。本当に良かったよ」
「それにしても、桜彩を守る為に一晩中一緒にいたとはね。よくもそこまで桜彩があなたを信用したものね」
一週間前、葉月が桜彩の様子を見に来た時に不審者だと勘違いして怜に頼った事件。
それがあったからこそ怜と桜彩の仲はお隣さんのクラスメイトから友人へと変わった。
ある意味葉月が二人が仲良くなるきっかけを作ったとも言える。
「それにしても、怜。あなたよく桜彩に手を出さなかったわね。姉という贔屓目を引いても桜彩は美人でしょ? そんな子が寝ている横でよく誠実でいられたわね。それとも本当は少しくらい手を出したの?」
「ごほっ!」
「ちょっ!」
葉月の言葉に怜と桜彩の二人がせき込んでしまう。
期待通りのリアクションに葉月は笑って
「あら、本当に手を出したの?」
「出してませんよ!」
「そ、そうよ! 怜さんは誠実な人なんだから!」
二人共顔を赤くして否定する。
このシスコンの姉に対して妹に手を出したなんて言ったらどうなるか分からない。
いやまあ本当に手を出してはいないのだが。
「え? 何? あなた、桜彩に魅力を感じないっての?」
「……女性として魅力的な存在であることは否定しませんよ」
「ふぇ…‥?」
その言葉に桜彩が目を丸くして怜の方を見る。
「へぇ……?」
一方で葉月は怜の顔を探る様に覗き込んでくる。
それに対して怜はコホンと咳払いをして言葉を続ける。
「だからと言ってそれだけで俺は女性に対して手を出したい、なんて思うような人間じゃないんですよ。それにもしそう思ったとしても、相手の同意がないのにそんなことは絶対にしません」
「そ、そうよ葉月! 怜さんはそういう人なんだから。あの時だって、自分が変なことをしないようにスマホで録画するべきだ、なんて言ってくれたんだし」
もしも本当にそのような邪なことを考える人間ならそのような提案はしないだろう。
二人の言葉に葉月は少し考えこむような仕草をする。
「ふーん。あ、勘違いしないように言っとくけどね。桜彩が同意するんならあなたが桜彩に手を出しても構わないわよ。ただちゃんと責任だけ取ってくれれば文句は言わないわ」
「…………え!?」
「…………ちょ、ちょっと葉月!?」
葉月の言葉の意味を理解した二人が驚いて声を上げる。
「もう二人共高校生なんだから、別に私がどうこう言う事なんてないわよ。妹の恋愛に口なんて挟まないわ」
「だ、だから葉月……!」
「……というか、さっきとキャラ変わってませんか?」
つい先ほどまで桜彩を心配して怜に対して怒っていた人間と同一人物とは思えないほどの変わりようだ。
すると葉月は少し笑いながら
「実はね、私が怜を疑っていたのは事実なんだけど、そこまで強く疑ってはいなかったわよ。どちらかというと、本当に桜彩のことを大切にしてくれているか確認したかっただけね」
「え……?」
間の抜けた顔をする怜に対して苦笑する葉月。
「桜彩はあの件からあまり人を信じないようになったのよ。そんな桜彩が短期間で信頼するなんてよほどの事でしょ? 少なくとも口先だけで騙そうとする人間なんてそう簡単に信用しないわ。まあそれでも念の為に試したんだけど」
「な……」
「葉月!?」
そのカミングアウトに怜も桜彩も言葉を失う。
まさかあれが本当は演技だったとは。
「でも随分と危険なことをしましたね。自分で言うのもなんですが、俺以外の相手だったら本気で怒ってもおかしくない事やってますよ。それこそせっかく桜彩に出来た友人を、今度はあなた自身の手で遠ざけてしまうことになりかねないようなレベルで」
葉月の行ったことを客観的に考えてみると、桜彩を支えてくれていた相手に対して一方的に罵倒したようなものだ。
相手によってはそれがきっかけで桜彩に対して悪い感情を抱く可能性も大きい。
「ええ、それは理解しているわ。でも、あなたなら多分そんなことにはならないと思ったのよ。まあそれとあなたを信じた理由はもう一つ理由があるんだけどね。それについては明日帰る時に教えるわ」
そう付け加えながらウインクをしてくる。
「ごめんなさいね。でも、私はそれほど桜彩のことが心配だったの」
「ええ。それは分かりますよ」
「ちょっと葉月!」
「怒らないでよ桜彩。あ~、このケーキ美味しいわね~」
「だから葉月ーッ!!」
怒る桜彩を華麗に受け流しながら葉月はケーキを食べていく。
その態度にますます腹を立てる桜彩。
そんな二人を見て、怜は良い姉妹仲だな、と自然に頬が緩んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます