隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった【第五章後編 ダブルデートと恋心の自覚】
第38話 姉(ブラコン)の襲来③ ~クールさんはいつお嫁に来るの?~
第38話 姉(ブラコン)の襲来③ ~クールさんはいつお嫁に来るの?~
【前書き】
現在、36~48話のストーリーを第三章の後に『if』という形で書き直しています。
これを書き直すにあたった理由としましては、美玖と葉月の行動が非常識すぎるという指摘を受けまして、私自身も読み返したところ確かにそうだと思いました。
今後、(おそらくですが)ifストーリーの方を本編へと組み替える予定ですのでそちらの方も読んでいただけると嬉しいです。
【本編】
新たな訪問者である二人のお茶をテーブルへと用意して、怜と桜彩の分もソファテーブルから移動させる。
そして怜と桜彩は対面に座る二人に対して説明を始める。
この状況に至った理由を包み隠さずに。
「……と言うわけ。だから俺と桜彩は付き合っているとかじゃなくて、さっき桜彩が言ったように友人で隣人というか……」
「は、はい、その通りです。怜さんは私の為に色々と教えて下さってくれているんです……」
ひとまず事実をありのままに説明する二人。
美玖と守仁はそれを黙って聞いていた
「……なるほどね」
先ほど怜が焼いたパウンドケーキを素手で一掴みして口に放り込んでむにむにと頬張る美玖。
正直なところ、そういったのを身内はともかく桜彩の前で見せるのはどうかと思うのだが。
「まあひとまず事情は分かったわ」
「そうだな」
納得したのかうんうんと頷く二人。
「…………二人共、信じてくれるの?」
意外そうな顔をして怜が尋ねる。
正直なところ、傍から聞けば信じられないような話なので、そんなに簡単に信じてもらえるとは思えなかった。
その怜の言葉に二人は呆れたような顔をして
「はあ……。あんまりあたしを見くびるんじゃないわよ。何年あんたのお姉様をやってると思ってるの。あんたが嘘をついてないことくらいは分かるわ」
「ああ。最初は驚いたけどな」
「姉さん、守ちゃん…ありがとう」
自分のことを本当に信頼してくれている二人に思わず怜の目頭が熱くなる。
そんな様子を横で見ている桜彩にも、三人の絆の強さが良く分かった。
「そ・れ・で」
そして再び美玖が桜彩の方に向き直る。
嫌な予感がする。
「桜彩ちゃんはいつこの愚弟のお嫁に来てくれるの?」
嫌な予感が的中した。
「……え? …………ええ!?」
「ちょっ、姉さん!? たった今理解してくれたんじゃないの!?」
いきなりの発言に桜彩と怜が驚いて声を上げる。
いったい何故この流れからそういった発想に至るのか。
「出会いと今の関係性は分かったわ。でもね、怜。それとこれとは話は別よ。あんたはあんまり自分から交友関係を広げるタイプじゃないんだから、こんなに仲の良い女の子が出来るなんてこの先はいつになるか分からないわよ?」
「余計なお世話だ!」
言っていることは正しいかもしれないが、だからといって男女交際に積極的にならなければいけない理由にもならない。
先ほどまでとは違って怜の口調もいつも通り敬語を使わなくなっていく。
「ねえねえ桜彩ちゃん。桜彩ちゃんは怜についてはどう思ってるの?」
「え、えっとそれは……」
「だから姉さん、余計なことを……うぷっ!」
「あんたはちょっと黙ってなさい」
身を乗り出して美玖の発言を止めようと立ち上がった怜の顔を、対面に座る美玖の右手がアイアンクローで押しとどめる。
視線だけで守仁へと助けを求めるが、守仁はゆっくりと首を横に振る。
どうやら助けてはもらえないようだ。
「姉の贔屓目も入っているけれど、怜はこれでも優良物件よ? 炊事、掃除、洗濯と家事は一通りこなせるし、頭も良いし、将来安泰よ。それにあたしの弟ってだけあって見た目も良いし」
「さりげなく自画自賛したよね、今」
アイアンクローされながら怜が抗議の声を上げる。
「当然でしょ。高校時代にミスコン三連覇した実力を舐めんじゃないわよ」
怜とは入れ替わりで領峰学園を卒業していった美玖は、在学中の全ての年の学園祭でミスコン優勝という結果を残している。
ちなみに大学一年目の昨年度は規定により参加出来なかったらしい。
二年目の今年に参加するのかはまだ決めていないとのことだが。
「それに怜は気に入った相手には本当に尽くしてくれるタイプよ。友人は本当に大切にするしね」
「はい。それは私も充分すぎるほどに理解しています」
現に初めての一人暮らしを支えてもらっている桜彩はそれをよく理解している。
怜が居なければ、普通の一人暮らしが出来ていたかは分からない。
「本当に怜さんにはお世話になりっぱなしで……。もし怜さんがいなかったら今の私はまともに生活出来てはいないので……」
「そうそう。結婚相手として優良物件だと思わない?」
「は、はい……。確かに怜さんと結婚出来る相手はとても幸せだと思います」
前に蕾華が怜のことを『友達としては最高、結婚相手としては優良物件』と評していたことを思い出す。
(やっぱり怜さんって側にいる人達からはそう思われるよね)
美玖も怜に対して蕾華と同じように考えていたことに納得してしまう。
「うんうん。だから桜彩ちゃん、早くお嫁に来なさいって。あ、もしかして怜に至らないところでもあるの? それなら安心して。あたしがすぐに矯正するから」
「ムグッ……(矯正ってなんだ! 何をさせる気だ!)」
アイアンクローされながら怜が文句を言おうとするが、言葉が出ない。
「い、いえ……怜さんは今のままで充分に魅力的だと思います……」
「わあ、嬉しい事言ってくれるじゃない。それで桜彩ちゃん、怜のことどう? お婿さんにしたくない?」
「え? ええと、確かに怜さんはとても素敵な人で、私も、もしそうなったら……その……」
「だーっ、もう姉さん、ストップストップ!」
桜彩の言葉にニコニコとしている美玖から力ずくでアイアンクローを引きはがす。
「そうだぞ美玖。ひとまずは落ち着けって」
ここまで黙っていた守仁も加勢してくれる。
こういった所が本当にありがたい常識人だ。
出来ればもう少し早く助けて欲しかったが。
「とにかくもう夜も遅い時間だし、いったんここまでにしないか?」
「そうだよ姉さん。これ以上は桜彩だって迷惑だし」
確かに先ほど美玖本人が言ったように、もう夜も遅くなっている。
明日は土曜日とはいえいつまでもだらだらと話しているわけにもいかない。
「そうね。それじゃあいったんここでお開きにしましょう」
その言葉で話はひとまず打ち切られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、そうだ二人共。今日はこの後どうするの?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
これまでも二人が怜の様子を見に来ることは何度かあったのだが、その時は事前に連絡を入れた上に午前中から来て夕方過ぎには帰っていた。
それがこんな時間に来てすぐに帰るというのはあまりにも慌ただしい。
「ああ、それなんだけど怜の家に泊めてもらおうと思ってな」
「ええ。陸翔君と蕾華ちゃんが泊まる時の為の布団、あるでしょ?」
「そりゃああるけどさ」
陸翔や蕾華はたまに怜の家に泊まっていくことがあるのでそういった時の為の布団が押し入れに入っている。
「まったく……だったらちゃんと連絡してくれっての」
「だから連絡したら抜き打ちにならないじゃないの」
「こっちにも都合ってものがあるでしょ。だいたい陸翔と蕾華が泊まりに来てたらどうするつもりだったの?」
「ああ、あの二人には事前に連絡してるわよ。ちゃんと今日は泊まりじゃないことも確認してるわ」
「なっ……」
どうやら親友の方には連絡していたらしい。
あの二人がそれを怜に話さなかったということは口止めまでしていたのだろう。
その用意周到さに怜は言葉を失ってしまう。
「……まあいいけどね。それじゃあ後で布団出すよ」
「あ、それでなんだけど桜彩ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
この時点で怜は今日何度目か分からない嫌な予感がした。
「は、はい。何でしょうか?」
「あたしだけ桜彩ちゃんの家に泊まってもいい?」
とんでもないことを言いだした。
桜彩は一瞬何を言われたのか分からずに頭の上に? を浮かべている。
怜と守仁もいきなりのことに言葉が出ない。
そして
「え……え……ええええええええええ!?」
リビングに桜彩の驚いた声が響き渡った。
「ちょっと姉さん、いったい何言ってるの!?」
慌てて怜が止めに入る。
この傍若無人で猪突猛進型の姉を桜彩の家に泊めたらいったい何をしでかすか分からない。
「何ってせっかく桜彩ちゃんと知り合えたんだからもっとお話ししたいじゃない。それで桜彩ちゃん、どう?」
「えっと……その……」
「ほら、桜彩も困ってるじゃん。桜彩、迷惑なら迷惑ってはっきり言って構わないよ。ていうか言ってやって……うぷっ!」
再びアイアンクローで怜を黙らせる美玖。
「あんたはちょっと黙ってなさい、怜。それで桜彩ちゃん、駄目? 本当に駄目ならここに泊まるけど」
「い、いえ、駄目というわけでは……」
勢いに押されて頷いてしまう桜彩。
その言葉に美玖はアイアンクローを離し、満面の笑みを浮かべて怜に向けて親指を立ててくる。
それを見て頭を抱える怜。
「ありがとう桜彩ちゃん。それじゃあ怜、布団を運んでね」
「だから姉さん、桜彩に迷惑を掛けるのは……」
「い、いえ、怜さんのお姉さんですし迷惑というわけではありませんよ」
慌てて桜彩が両手を振りながら訂正する。
その言葉に美玖は満足したように勝ち誇って
「ほら見なさい。あんたは心配しすぎなのよ。それじゃあ早くお願いね。さあ桜彩ちゃん、行こっか」
桜彩の手を引いて玄関の方へと向かっていく。
残された怜と守仁は、どちらからともなくお互いに顔を見合わせる。
「……守ちゃん」
「……なんというか、予想外だったな」
「本当にね。あの姉さんが迷惑掛けないと思う?」
「……………………」
「……………………」
二人の間に長い沈黙が流れる。
怜と守仁というストッパーが不在の状態で美玖の性格を考えるとろくでもないことが起きる気がしないでもない。
「とりあえずは何もないことを願っておくか」
「そうだね……」
諦めたように呟く二人。
そう言って頭を抱えた怜は、美玖が自重してくれることを祈りながら布団を隣へと運んだ。
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