あいさつ
「昨日のマジで神回だろ」
「分かる。あの作画の力の入れようはヤバすぎる」
「いやー、マンガで分かりにくいところが完全に補完されてたよな!!」
一時間目の前、始業のチャイムが鳴る前に僕らは昨日のアニメについて話していた。
五月中旬というシーズンの折り返し。
今季の品定めが終わり、厳選されたものを深夜にリアタイしている。
夜遅くまで起きているので眠たいはずなのだが、意外とそんなことはない。
それは、この生活リズムに慣れたというのもあるが、高校生だからというのが大きい気がする。
不健康だとは分かっているものの、期待を上回る面白さがあるのでリアタイを始めた日から毎晩、アニメを見てから眠るようになってしまった。
それまでの時間は勉強なり、ゲームなりで時間を潰して有効活用している。
「やべー、今から鬱すぎる」
「テスト?」
「そう、今から益野なんだよ。普通に赤点あるんだよなぁ……」
吉野は机の上に寝そべり、はぁーと溜め息を吐く。
隣の席の松田も自信が無い様子で浮かない顔をしている。
今から数学か……大変だな……
「まぁ、鬱だよなー」
「お前には言われたくない」
「どうせ、高得点だろ。何点だった?」
「一応、九割」
「うっぜー、一応ってなんだよ」
「ドヤ顔すんなよな」
自慢するつもりは無かったのだが、表情に出てしまっていたらしい。
僕としてはかなりの高得点が取れたので嬉しかったのだが、これからテストが返ってくる人にとっては高みの見物をしているように感じられてムカついたのだろう。
申し訳ないと思うが、それよりも友達が意気消沈している姿を見ているとついつい笑いが込み上げてくる。
「人の不幸は蜜の味ってか?」
「ははっ、そうかもね。それじゃあ、もう鳴るから戻るわ」
「おー、じゃあなー」
吉野と松田に別れを告げて、僕は教室を出た。
同じクラスだったらよかったのになぁ……
僕と吉野たちは教室が違う。
一年生の頃、同じゲームをやっていたことをきっかけに、加藤を含めた四人でよく遊んでいた。
それは二年生になった今でも健在で、休み時間に集まっては話をしたり、一緒に昼ご飯を食べたり、夜にゲームをしながらオンライン通話をしたりとほぼ毎日関わっている。
彼らがいなければ、ぼっちとして時間を消費していくだけの高校生活を送っていたかもしれない。
そう考えると、彼らには感謝しきれないし、自分にできることがあれば手伝いたいと思う。
それで定期考査の度に集まってテスト勉強をするのだが……うーん、もう教えたくないかも。
あいつら集まったときは勉強するけど、僕がテスト期間だからと夜に勉強している間に三人でゲームしてるせいで当然のように点数低いんだよな……
そうなってくると、やる気が湧かないというか……でも、友達だからなぁ……
隣の教室の前を歩いていると、タイミングよくチャイムが鳴る。
前方には自分の教室に入っていく先生の姿。
僕も慌てて教室に入ると、僕の席は空いていた。
よし、座れるな。
それを確認して席に向かう。
今日も話しかけられるかなと少しだけ期待しながら。
昨日の数学で話してから、一時間目以降の授業でも八重島さんが話しかけてくるようになった。
話しかけてくるようになったといっても、「何点だった?」とか「ここの答えなに~?」とかテストに関係した質問ばかりだった。
それにテスト応じての点数を見せ合ったり、答えを教えたりした。
僕も分からないときは「え、前川でも分からないの!?」と驚いていたが、僕より賢い人がいる中でその反応はやめてほしいと思う一方で、賢いと思われていることが照れ臭かった。
今日も一時間目はテスト返しだろうし、また話せるかな……
「おはよー」
僕が席に座った直後に、八重島さんが誰かに挨拶をする。
だが、挨拶をした相手と思われる人の返答はない。
聞こえなかったのか、それとも無視したのか。
あれ? でも、八重島さんの友達は自分の席に戻っているような……それじゃあ、誰に……
「んじゃ、日直さ~ん」
「起立! ……礼!」
確認のために右隣を見ると、そこには誰もいない。
というか、八重島さんが僕のことを見ている。
……まさか?
自分に向けて人差し指を立てる。
すると、八重島さんは不思議そうに頷いた。
僕への挨拶だったとは……
「お、おはよう」
「うん、おはよう♪」
うわぁ、いい朝だなぁ。
【あとがき】
筆者は声が聞こえてくると、主人公とは逆で「自分かな」とすぐに振り返って、気まずい思いをよくします。
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