最終話:ごめんねカンちゃん。

次の朝、夢はベッドにいなかった。

昨日、絵里が来たことが原因で夢は俺の前からいなくなったに違いない。


俺は矢も楯もたまらず大学を休んで夢を探しにでかけた。

だけど、その日は朝から雨が降っていた。


「こんな雨の日に、なにも出ていかなくても・・・」


あいにくカッパなんて持ってないし、なにかのおまけについていたポンチョだけ

被って俺は雨の中、駅やスーパーコンビニ、近所廻りを・・・夢が行きそうな

場所を探し回った。

マウンテンバイクも汚れてドロドロ・・・。


夢は金なんか持ってないんだから遠くヘなんか行けないはず、かならず近所に

いると俺は思った。


夢は夢の中にはもう帰れないって言ってたけど、まじで夢の中に帰っちゃった

りなんかしてないだろうな?


雨は幸いなことに朝より小ぶりになってきた。

俺は、一息つきたくて公園にマウンテンバイクを止めてベンチに腰掛けて

タオルで顔を拭いてため息をついた。


そしたらホームレスのおっさんが俺の前を通りかかって言った。


「ニイちゃん・・・あんた今にも死にそうな顔してるぞ・・・」

「死んだりするなよ・・・生きてりゃいいことあるからな」


「傘、一個余分にあるからやるよ・・・風邪引くなよ」

「何があったか知らんけど、絶対死ぬなよ」


そう言ってホームレスのおっさんはとぼとぼ立ち去った。

くれた傘はそこらへんに捨ててあるような安っぽいコンビニの傘だった。


俺ってそんなに疲れきった顔してるかな・・・。

このくらいのことで死んだりなんかしねえよ・・・夢を見つけて誤解解く

まで死ねるか・・・。


しかたないので俺はとりあえずマンションに帰った。

そしたらマンションの入り口に一人の女がずぶ濡れで立っていた。


「夢?」

「夢・・・どこにに行ってたんだ・・・心配したんだぞ?」


俺はマウンテンバイクをほってすぐに夢のところまで駆け寄った。


「カンちゃん・・・」


「探したんだぞ・・・まったく心配させやがって・・・」


「ごめんね、カンちゃん・・・」


「いいから・・でも戻ってきてくれてたんだ・・・よかった、とりあえずよかった」

「そんなことより早く部屋の中に入ろう」


俺は夢を連れて部屋に戻った。

夢は捨てられた子犬のように震えていた。


雨に打たれて冷え切っていたので俺はすぐに夢を風呂に入れた。

夢が風呂から出て落ち着いたところで彼女に問いただした。


「なんで戻ってきたの?・・・怒ってたんじゃなかったの?」


「え?戻ってきちゃいけなかったの?」


「そんな訳ないだろ・・・」

「でも俺が許せなかったんだろ?」


「最初はそう思ってた・・・他の女の人となんて、許せないって」

「でも冷静になって考えてみたらカンちゃんは人を裏切るような人じゃ

ないって私知ってるもん・・・」

「夢の中でカンちゃんとずっと一緒にいたからね」


「それに私、子供だったよね・・・カンちゃんの言ったことは

言い訳じゃなく全部正しいかったのに、私が意固地になって勝手にスネて・・・」


「私、もう夢の中には帰れないし、どうしたらいいのか分かんなくて」


「で?雨に濡れて頭が冷えすぎたから帰ってきたって?」


夢はクスって笑った。


「当たってる・・・めちゃ寒かった」


「で?俺がなかなか迎えに来てくれないから自分で出てきたの?」


「うん・・・」


「そういうところがまだ子供なんだよ、夢は・・・」

「そうか・・・分かった・・・じゃ〜許してくれるだな?俺のこと」


「許すも許さないもカンちゃんはなにも悪くないよ」

「私がちょっと驚いてスネただけ・・・」


「ったく・・・一気に力が抜けたわ・・・」

「でも、よかった・・・ほんと・・・夢になにごともなくて」


「カンちゃん、ハグして・・・」


「はいはい・・・ほら、おいで」


そう言って俺は夢を抱きしめた。


「まったく心配させてくれるよ、俺の彼女は・・・」


「私をずっと探してくれてたんだよね?ごめんね心配かけて」


「当たり前だろ、夢をほったらかしたまま大学へ行ったりなんかしないよ」

「じゃ〜今夜は仲直りのエッチだな・・・」


「うん」


「あのさ、夢を探してる時さ、通りすがりのホームレスに言われたよ」

《ニイちゃん、死にそうな顔してるな》って・・・」


「カンちゃん、今も死にそうな顔してるよ」


「うそ?、まじで?」


「うそだよ・・・殺しても死にそうにないくらい憎たらしい顔してる」


「夢は意外とツンデレだな・・・」


「それもカンちゃんの夢の中の私のイメージでしょ」

「カンちゃんはきっとMなんだよ」


「いやいや俺はLだと思うな・・・」


「なにそれ?MじゃなきゃSじゃない?・・・なにLって?」


「ロリコンのL・・・俺の夢の中の理想の彼女がそうだから・・・」


「あ〜・・・それ分かるぅ〜」


自分の夢の中に理想の彼女を作った寛太は、現実の世界で夢の中の理想の

夢と暮らすことになった。

寛太にとっては夢は自分の理想の彼女・・・夢以上の子は他にいない訳で、

だからもう人間の彼女は作らないつもりらしい。


ちなみに寛太は思いついたまま彼女の名前を「夢」ってつけたけど、もし夢が

寛太の嫁さんになったら「夢野又 夢」(ゆめのまたゆめ)って名前になっ

ちゃうんだよね。


それって「夢の中で見る夢のように、はかないこと」って意味なんだけど・・・。

まあ、ぜひとも迷信乗り越えてお幸せに・・・。


おしまい。

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夢ちゃんは現実の世界で俺と恋する夢を見る。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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