2、3つのプレー 日本と世界の差

 それでは、実際の試合映像を見ながら話していきましょう。以下URLは、クラブワールドカップをリアルタイム配信した『FIFA+』というサイトです。幾つかあるアーカイブ動画の中の、浦和レッズ対マンCのフルマッチ映像になります。時間がある方は90分間全てご覧になって下さい。

www.plus.fifa.com/en/player/798acd1d-6418-4f56-9ace-489c3dc8a97f?gl=jp&catalogId=335365a9-2d43-45c0-9400-877d1a98ac68

※2023年末時点で視聴可能でした。但し、いつまで置いてあるかは不明です。


 立ち上がりの数分間は、浦和レッズが前線からのハイプレスを仕掛けて、マンCの選手が戸惑っていたという印象です。中でも、前半の1分30秒頃 (キックオフのちょうど10分前から中継が始まりましたので、動画の時間だと11分30秒頃) を見て頂くと、マンCのゴールキーパー、31番・エデルソン選手から繋いだところ、浦和レッズの3番・日本代表の伊藤敦樹選手が高い位置でボール奪取し、チャンスになりかけるシーンがあります。その流れから、19番・岩尾憲選手がサイドへパスを展開し、パスを受けた21番・大久保智明選手がクロスを上げました。この3つのプレーは、その後マンCの選手が試合中に出すパススピードと比べて、明らかに弱く、遅い! ここを比較して頂きたいのです。


 一つ一つ見ていきましょう。最初の伊藤選手ですが、素早い出足でボールを奪うところまでは素晴らしいプレーです。しかし、その直後に出すパスは、弱い上にコースもずれていて、マンCのミッドフィルダーに後ろから簡単に追い付かれてしまいました。マイナス気味のパスになってゴールから遠ざかり、受け手はシュートを打てません。伊藤選手の方がシュートチャンスでしたので、ここは自分で狙うべきでした。自分より体勢の良い選手にボールを預けて、味方にシュートを打たせるという選択肢は、状況次第では悪くありません。しかし、そのパスが遅くては、パスが届く前に相手ディフェンダーに距離を詰められてしまって、逆にチャンスを潰す結果になるわけです。試合の立ち上がりという時間帯も考えれば、ここは積極的に、伊藤選手自身がミドルシュートを打った方が良かったでしょう。仮に味方に託すのであれば、受けた選手がそのまま走り込んでダイレクトで打てるような、強く正確なパスでなければチャンスになりません。因みに、この立ち上がりのシュートチャンスを潰した浦和レッズは、後半になるまで1本のシュートも打てず、試合の主導権を握れませんでした。


 伊藤選手のパスを受けた岩尾選手は、後ろからチェックに来た相手選手を上手く交わし、中央からサイドへ斜めのパスを出しました。上手く交わした、と述べましたが、実際このシーンで、相手にとって一番嫌なのがシュートを打たれる事です。なので相手選手はシュートブロックのような形で前にあるコースを消しに来ており、シュートを打たないのであれば何も怖くありません。しかもパススピードが遅かったため、次の大久保選手が受けた時には相手ディフェンダーが2人も寄せて来てしまっています。サイドにパスを出すというのは、人数的に同数か数的優位に立てるからです。中央はディフェンスの枚数も多く、なかなか崩せないため、サイドから崩すという意味であり、そのサイドに出すパスが遅く相手に囲まれてしまうようでは、何の意味もありません。実際、映像を見て頂いても分かると思いますが、岩尾選手がパスを出す前、大久保選手は右サイドでフリーになっています。パスがもっと強く速ければ、大きなチャンスになっていたでしょう。しかし、このシーンもパスが遅かったために、単にゴールから遠ざかっただけ、寧ろマイナスの結果になりました。


 サイドで受けた大久保選手ですが、何とかボールをキープしながら、得意の左足でクロスを上げました。ペナルティエリアの角から中央の11番・ホセ・カンテ選手へ、または逆サイドから入ってきた金髪の8番・小泉佳穂選手へ。距離的には15メートル前後でしょうか。しかし、このクロスもまたスピードがなく、精度も欠いていました。この短い距離で、得意の利き足を使ったクロスでも、ピンポイントで合わせる事が出来ませんでした。クロスのスピードがなくとも、正確なクロスであればシュートチャンスになったかも知れません。逆に多少の精度を欠いても、クロスに勢いがあれば相手が対応を誤ったり、オウンゴールを誘発する可能性もあります。ちょうどマンCの1点目、前半終了間際のシーンがオウンゴールになりましたので、比較してみましょう。45分を経過してロスタイムに入るところ、動画の時間で55分頃です。マンCの27番・マテウス・ヌネス選手が右サイドで待っていた選手に一度ボールを預け、鋭いスルーパス、ワンツーで右サイドを抜け出して、中央へグラウンダーのクロスを送ると、浦和レッズの5番・マリウス・ホイブラーテン選手のオウンゴールを誘発しました。パスが速かったために中の準備が整わず、クロスも速かったためにクリアし切れなかったわけです。この2つのシーンを比較してみて下さい。これが、浦和レッズとマンCの違い、日本と世界との差なのです。

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