第39話 九条とサシで
九条に呼び出されたのは、学校の最寄り駅にあるチェーン店のカフェだった。
「話がしたいってことなのかな」
「そう。大事な話」
九条は制服のままだった。僕は楽な格好に着替えて向かっていたので、おしゃれとはいいがたい。
「今後のこと、かな」
「正解。私の思いを、改めて聞いてほしかったの」
九条から、さまざまな思いを吐露されることはあった。今回ここに呼んでいることから、これまでよりもグレードアップした思いがあるのだろうか。
「どうしてこの場所に呼んだか、わかるかな」
「近くて、ゆっくり話せる場所だからかな」
「それなら、若い男女にうってつけの場所を選ぶわ」
「いきなりガツンとくるね」
容赦はしないから、と九条は笑っていた。
「ここ、誠一郎君のホームグラウンドだから。相談するとき、使ってたでしょう」
「よくご存じで」
九条や琴海と出会う前のことだ。相談役として動くときは、ときたまこのコーヒーショップを利用していた。
「誠一郎君を知ったのも、ここがきっかけだから」
「相談の様子、見てたのか」
「他の子を調査していたときに、たまたま見かけたから」
委員長の活動のため、九条は各生徒について詳しく調べているといっていた。その一環なのだろうか。
「どう思ったのかな」
「面白い人だな、って。なぜでしょう」
「きょうは質問が好きみたいだね」
「気分。さっそく正解だけど、『なぜか輝いて見えた』から」
「輝いて見える、か」
そうやって評されるのはあまり経験がないので、すこし照れくさい。
「前にもいったけど、誠一郎くんは超絶イケメンではないし、クラスで幅をきかせるほどの
「だね」
「それでも、相談に乗っているときの誠一郎くんは、やっぱり違った。この場所が、君のためだけにあるみたいに」
「ロマンチストの口ぶりだね」
指摘しても、九条は相変わらず続けた。
「当時は笹本くんがいたから、抱いた感情を無視した。いま思うと、恋の芽生えだった」
「開花したのは」
「ちょうど、君をクリスマスに誘ったくらいになるかな。一度気になると、私は止まらないから」
あのときの九条は、勢いに満ちあふれていた。すべてを自分の手中に収めようという強い意思を感じた。
「結局、
「そんなことないよ」
「私の中では、すくなくともそうなの」
いわれてみると、当初ほどの勢いは薄れてしまったかもしれない。
「先日みたいに、みんなで一緒に戦おうと宣言したけどさ。本当はやっぱり、私だけを見てほしい。他の子に脇目をふらないでほしい」
「わかってる。だけど――」
「いいの。承知の上だから。大きなひとり言です」
九条にだって、願いがある。実現可能かはさておいて、願いの存在を認識した以上、決断を揺るがしうる要素となる。
「欲しいものを手に入れるように根回しを続けてきたわ。今回も、例に漏れず達成するつもり。過去最高難易度だけど」
「高々とした壁を、築き上げてしまったね」
「クリスマスのあの日は、まだ低いハードルだったのに……なんて、たらればをいっても仕方ないんだけどね」
好機というのは、不定期に巡ってくる。そんな好機をつかめるかどうかは、そのときの状態次第だ。
「はいっ! ねちっこい話はおしまい。存在感、たまにはこうやって発揮しないとね」
「心の声がダダ漏れだよ」
「あえて漏らしてるのっ。こうして誠一郎君の意識に私が刻まれるという算段」
「抜け目ないね」
「それが私、九条紗夜だから」
いいきったあと、九条は乾いた唇を舐めた。そして、ココアを一気にすすった。
「用件はこれだけでいいわ」
「まだ話したいとか、ないのかな」
「そりゃ、いろいろね。それは、今度おごってもらったときにたっぷりと」
「おごる?」
見ちゃったんだ、私。九条はいって、続けた。
「誠一郎君のおじさん、なにかおごってくれるんでしょう。そこに私、同席させてよ」
「いつの間に見られたのか」
「のぞき込む気はなかったの。でも、視界に入ったお得情報を見逃すわけにはいかないでしょう」
僕とおじさんとのサシというのは、予定変更だ。プラス九条という補足をつけて。
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