第24話 雫は幼馴染の意地を見せたい【雫side】
自分の好きなことをを貫き通す。それこそ、野上雫の本望である。座右の銘である。
生まれてこの方、自分は異端であるという認識が抜けたことはない。
別に、私が厨二病の痛いやつだからとか、そういうわけではない。私をどう呼ぼうとその人の勝手だが、異端という認識は、思い込みではなく確信なのだ。
言葉遣いがおかしいのは承知の上だ。そのせいもあって、人間関係は広がらない。それ以外にも多々の原因があって近寄りがたいのは知っている。
除け者扱いにも慣れている。私が相手の立場だったら、すぐさま追い出してやりたい気持ちは重々承知だ。
そうやって強がってはいるが、当然つらいときだってある。
たとえば、なんだろうか……うむ……。
そう!
ユーリア様の中の人が体調不良を起こし、しばらく活動を休止したときとか!
絶対に学校を病欠する自信がある。私にとって、ユーリア様は生きる意味のひとつだからな。
こういうわけで、つまるところ私はメンタル強者なのだろう。周りに流されず、自分の行きたい道をいく。
そうすることがなにより幸せで、周りに多大な迷惑をかけない限りはいいと思っている。いまのところ、前よりは自重できていると信じている。信じているだけではないといいのだがね。
私の話はこんなところか。
そう思い、私はノートを見返す。
「やはり、自分史は作りたいものだよなぁ」
ふと、自分史を作りたくなったのである。
というのも、この冬休み。
せいくんに会って以来、あまり運気がまわっている気がしないのだ。
なぜか九条紗夜などという女にリードを取られているばかりで、私が出遅れている気がしてならない。
私は! せいくんと! およそ四年の付き合いがある女だぞ!
ふざけないでくれよ九条紗夜!
大大吉を引いたのが嘘のようだ。神は私を嘲笑っているのだろうか。
気持ちは厄年の女といったところ。アンハッピー路線を特急電車で通過しているようなもので、終点まではなかなか止まりそうにないような気がする。
つまるところ、運が回っていない気がするのだ。
このままだと、私の身に何が起こるかわからない。よって、万が一に備えて自分史でも書いてみようとなったわけ。終活かな?
そうそう、次は安田誠一郎の章。
なんだかんだ、私の方向性をいい意味で歪ませたナイスガイだと思っている。
明確な恋心が芽生えたのはつい最近のことだ。これまでの、せいくんに対する熱い友情やら胸のざわめきとかを改めて振り返ると、恋ではないかと思ったのだ。
いままでは、ユーリア様とその声優、
人間、わからないものだ。
一度目覚めてしまった恋心を止めることはできない。
中学二年生の頃、チョコ菓子の両端食べ競争でキスをしてしまった。あの出来事が、私の頭の中を何度もループしている。
いまのところ、九条には負けている。
しかしながら、結局過去のあの瞬間でいえば、私は勝利しているのだ! そうだ! 長い付き合いである以上、私は勝利したことがあるのだ。
と、頭の中で無理やりポジティブ思考に至ることで、悔しさをもろに隠そうとしているわけだ。
ぽっと出の女の子に、せいくんを取られるのは悔しいものだ。これから、さらなる子がライバルになる可能性だってゼロではないのだ!
なぜならせいくんは相談役で、多くの女の子と関わる機会があるのだから。なかには、ちょっとしたことで惚れてしまうような、ちょろちょろのジョウロ未満のちょろガールだっているはず。
そんな子がいたら、せいくんに惚れてしまう線を否定できないというわけなのだ。これが新時代の常識である。
「あぁ、なんであのキスがいまじゃなかったんだろうか。私は激しく悔いている。後悔の涙で、私の部屋を水浸しにしてしまうほどに……」
せいくんとキスをしたときは、ふざけるなこの野郎と思った。なんで亜雄ではなくせいくんなんだと。
いまは違う。
なんて奇跡を与えてくれたのだろう、と。そしてなぜ私はもっとガツガツいかなかったのだと苛まれる。
仮にだ。
あそこで恋心にはっきり気づいて、熱烈なアプローチをかけていたら。
私は、正真正銘・せいくんの彼女の座についていたわけなのだ。いまのような、複雑な恋人候補レースに参戦することもなかったのだ。
運命の悪戯とはこのことだろうか。
だが、この状況が好機に発展する可能性はゼロじゃない。手に入れるのに苦労したものは、ありがたみが何百倍にも増すというではないか。
これは、神が私に与えてくれた最良の試練なのではないか。そう思うことで、私はきょうも乗り切れている。
すこし気になるのが、ここ連日、くしゃみが止まらないことだ。別に花粉やアレルギーでもない。どこかで誰かが私の噂でもしているのだろうか。悪い噂ではないことを祈りたい。
「そして、これからの戦略についても考えようか……」
自分史を書くつもりが、いつの間にか現在と未来のことがメインになりつつある。
かまわない。このノートは、私の厨二病ノートの何冊目かである。要するに自由帳で、自分史だけを書く必要もない。
これからの未来の話をしたって問題はないのだ。
私に必要なのは、せいくんへのアピールだ。他にも魅力的な子がいるなかで、私がアピールできることはなんだろうか。
それは、これまでに積み重ねてきた出来事の数々である。
キス事件なんかは、私から触れることはないと断言してしまったらしい。これは、過去の厨二病ノートを最近漁ったときに、日記として残っていたメッセージで思い出した。
呪いのような制約を交わしていたらしい。絶対に忘れるな、そして一生かけて償えと。我ながら重すぎである。時代が違えば生き霊とかが生まれそうな勢いだ。
この話題に触れたい。しかしながら、自分から切り出すことは不可能ゥ……!
であれば、せいくんから誘導尋問するしかあるまい。そして、自然な流れで、新たなキスの感触を思い出させるしかないのだ。
唇を、最新バージョンの野上雫でアップデートさせる。それこそ、私の打つべき新たな手というべきじゃないのか。
そうして私は、珍しくデートプランなんかを考えることにした。厨二病ノートという名の雑記帳は、まだまだ現役で稼働しそうな予感がする。
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