第17話 次の相談相手は白石で
叔父の家に帰ると、案の定詰め寄られた。
おせち料理に舌鼓を打ちつつも、質問対応を考えなければならなかった。
「今年は、恋人百人できるかチャレンジだな」
「友だちの要領で彼女を増やさないで」
「ゼロから一は難しい。一から百はまだ楽なんだぞ?」
「酔いすぎなんで休んでもらって……」
ちょっかいをかけたがる叔父の性格を、酒が助長していた。叔父はどちらかというと下戸で、すぐに酒が回る。
顔が真っ赤で、他の親戚にも面倒な絡み方をしていた。渋い顔をされてはいるが、親戚とはうまくやっている。不思議なものだ。
いろいろ文句はあるとはいえ、親戚では叔父が一番親しい。他の人とは、ジローさんに比べれば、積極的には話せていない。
食事が終わると、いったん僕は追い出された。
ヘマをしたわけではない。
お年玉である。
「誠一郎、今年は弾んでおいたぞ!」
次々と渡されるなか、ジローさんの袋だけ、異様に膨らんでいた。
あとで見てみると、ジローさんからのお年玉だけ、去年の倍以上は入っていた。酒で気分が上がりすぎだ。
ここから、九条や雫との付き合いで出費が嵩むはず。臨時収入、非常にありがたい。
我が家の元旦は、基本的に家でダラダラするに終始する。食事、寝る、テレビのどれかで、大変堕落している。
暇なときにメッセージでも眺めていると、あけおめのメッセージが溜まっていた。
それぞれ返信していく。
『九条:あけましておめでとう。初詣で会えたこと、とってもうれしかった。冬休みもこれからも、誠一郎くんと会える日々を楽しみにしているね。大好きです♡』
実にストレートである。
もはや駆け引きもなにもないんじゃないかと思うが、これも九条の戦略であると納得する。
『雫:あけおめ! 今年はまだ会っていないが、これからは毎日会おう。ユーリア様のアニメを百周することが今年の抱負。せいくんの健闘を祈る』
別の世界線からの雫だろうか。会った記憶がない、そんなはずないのだから。
相変わらず、スピーディーで切れ目のいい文章だ。
「次は……」
これまでの、そして現状の相談相手にメッセージを返していく。
『白石:あけましておめでとうございます。去年は、私の悩みに相談してくださり、とっても助かりました。すこしはあの人も落ち着きましたが、早く直に相談をしたく思います。三が日は二日以降フリーなので、よければ検討してみてください。今年もよろしくお願いします』
メールを思わせる丁寧ぶりと長文だった。
感謝と、今後の相談予定について。
三が日は正直暇だ。時間を作ろうと思えば、作れる。
「あけましておめでとう。相談なら、あしたの午後が空いているかな。場所は――と、こんな風かな」
高校に集合とした。
部活動の大会に向けた練習のため、特例で高校が開いている。
それを狙うのだ。
「まさか三が日に相談が来るとはね」
当然、初めての経験だ。特別感に満ち溢れている。
しっかりと対応したいものだ。もう一度、白石について洗い出してみるとしよう。
白石の友好関係は、さして広いものではない。やや内気な性格から、周りに流され、損な立ち回りをすることさえある。
かわいらしい顔立ちと性格ゆえ、九条の元カレ・笹本にいい寄られたのだろう。白石は、恋愛経験がほとんどないという。彼氏がいたのもほんの一時期だったというから。
むろん、本人の弁であり、どこまで事実を話しているかわかりかねるが。
「やることは、目の前の相談相手を満足させる。それだけだ」
自分にいい聞かせ、あしたに向けての心の準備をする。
昼飯も夕飯も豪華なものだった。寿司にカツ。一年のうまい食事を一日で食らい尽くす勢いだ。
睡眠はしっかり取っておく。正月特番を早々に切り上げて、親戚一同におやすみを伝える。
去年の疲れも出たのか、久々にゆっくり眠れた。
二日目のお雑煮をいただき、早々に学校に行く準備をする。
出発。
学校に着くと、体育館がやけに騒がしいと気づいた。大会に向けて、最後の練習だ。気合いが違う。
正月がきのうということもあって、天気は快晴。正月にだいたい晴れるのは、偶然なのか必然なのか。
ベンチで待ち合わせということで、自販機で買ったコーヒーで暖を取っていると。
「お待たせしました」
白石さんは、すこし肩が上がっているようだった。
「あけましておめでとう。今年も、というより、きょうもよろしく」
「は、はい!」
いつも通り、自信と覇気がない。
「年末年始は楽しめた?」
「人並みですけど、それなりに。好きなアイドルも芸人もいっぱい見れて、十分かなって」
うんうん、と相槌を打つ。
「好きなアイドルって――」
これまでにも何回か話してくれた。アイドルも芸人も、おおよそわかっている。
詳しい話をしていくと、白石さんもリラックスしていった。
「……という感じで、かなり熱いんです! って、話しすぎちゃいまいたっ……」
「きょうは白石さんが主役なんだよ。謝ることもない」
「ありがとうございます」
趣味のときだけでも、楽しそうに話してくれてよかった。
「さっそくだけど、きょうの相談に移っていいかな」
「お願いします」
「それじゃあ、話していいよ」
「はい」
すこし口をもごもごさせてから、白石さんは口を開いた。
「笹本くん対策で、ひとつ提案があるんです」
「ほぅ」
「安田さんに、偽彼氏を演じてほしいんです!」
「え、マジすか」
心の声が、ダダ漏れだった。
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