第16話 新年早々、九条VS雫
並んで、おみくじを引く。
僕は大吉で、九条も大吉だ。
幸運が舞い込む前兆と捉えていいのか。
「……で、どうして手の中に恋愛成就のお守りが三つも」
「効果倍増しそうじゃない?」
「神様に罰当たりな」
覚醒した九条がいる以上、苦労も舞い込みそうだ。
「おみくじの恋愛のところに、『チャンスをものにしろ』ってあるから」
「僕の様子を見て、空回りだと気づいてほしかった」
「お守りの目的は、ひとつとは限らないんだよ?」
九条が目線を逸らした。
腕を組んでピリピリ状態の雫に、目線が向いていた。
「せいくん、あけましておめでとう」
「おめでとう。めでたくなさげな表情だね」
「紗夜さんとのイチャイチャを間近で見て、無関心でいられるとでもお思いか!?」
嫉妬である。
こうなることを、九条は完全にわかってやっているのだろう。恐ろしいものだ。
「野上さん、そう怒らないで」
「別に怒っていない。紗夜さんがなにを考えているのか、不思議なだけ」
「素直じゃないのね。誠一郎くんの幼馴染なんだし、もっと余裕にしていればいいのに」
雫が九条、そして僕を睨みつける。猫の威嚇のようだ。
「……取り乱して申し訳ない。しかし! ひと言だけ最後にいわせてほしい」
「どうぞ」
にこやかな表情を崩さない九条。これまでの経験で培ったであろう、強者の余裕が垣間見られる。
「距離の詰め方を間違えると、逆効果。これ、私の失敗経験」
「貴重なお言葉ありがとう」
「ここからが始まりだから」
距離の詰め方。
雫がうまくいかないと、よく苦言を呈している、
いまの九条は、信号が変わった瞬間にアクセル全開、って感じだ。見ていてヒヤヒヤするところがある。
むろん雫も同じだ。ギラギラしすぎている。
ふたりのアプローチが、嫌とまではいわない。
ただ、エスカレートしていくのは考えたくない、という話だ。
「それぞれ、思うところがあるんだね」
「当然だっ!」
「野上さんほどではないけれど、それなりに」
「肝に銘じておくよ」
それから、ふたりの衝突は表面上落ち着いた。
少々無理をして、冷静を保っているようだった。形はどうであれ、ふたりが衝突しなければいい。
「せいくんたち、おみくじどうだった?」
雫が振った話題は、それだった。
「僕も九条も大吉だよ」
「ふふん。なかなかいいみたいだね」
「まだまだ、みたいな口ぶりね」
「なにせわたくし野上雫、大大吉をいただいたのですよ」
「SSランクみたいな結果だね」
「ほら、見てみて」
おみくには、確かに大大吉とある。
「初めてみたな、こんな結果」
「最近のおみくじは、ひと味違うのね」
「私の恋愛運は最強らしい。もちろん他も最強なのだ。ハハハ!」
「よかったね。去年は凶だったもんな」
去年、雫は凶を引いた。
信じられない、という様子だった。ショックを引きずって、一月の間は暗かった。
「人生、幸と不幸は同じだけ。今年のおみくじで、去年の不幸分は捲れた」
「賭博かな」
「勝負に出ることが人生」
大大吉の効果を実感しているかは、いささか怪しいところではあるが。
「私だって、一歩リードしたい。必然だから」
雫が宣言したあたりで、叔父さんが戻ってきた。
「おお、誠一郎。別の子もいるじゃないか。立派なことだ」
「もう一方の子は雫。野上雫だ。中学からの付き合いだ」
「あぁ、前に話に聞いたことがあるような」
若干怪しい反応だったが、スルーしておこう、
「ともあれだ。高校生から二股をかけるとは、誠一郎も肝っ玉が据わっているなぁ」
「一股でも二股でもない。ふたりは女友達なんだ」
「誠一郎はそういっても、お二方の目が真実を語っているよ」
僕の方を、うっとりとした目つきで見つめている。
「私とは、恋人らしいことふたつもしているのに、つれないね」
「付き合いは四年目、私とて、恋人未満ぐらいのつもりではいるのだが……」
叔父さんがニヤニヤしながら俺を見つめてくる。誤魔化しは通用しなさそうだ。
「若いな、誠一郎。お幸せにな。ハハハ」
「笑い飛ばされても困ります」
「もっと堂々としなさい。ビッグになる才能があるぞ」
適当なことをいわれても困る。話半分で聞き流した。
「そういえば叔父さん、お名前を伺っていませんでしたね」
九条が話題を切り替えた。
「ああ。ジローだ」
「いいお名前ですね」
「だろう? イチローとジローで兄弟みたいだ」
「じゃあ私との子はサブローですかね」
「気が早いね、九条のお姉ちゃんは」
「おい」
張り合うのはやめる、といっていたはずだが。
嘘だったのか。
「甘いよ、紗夜さん。私なら、せいくんと十一郎だから」
「人数の度がすぎるよ」
「いいね、いいねぇ。負けず嫌いな子達は最高だよ。帰ったら、ちゃんと話を聞かせておくれよな、誠一郎」
「みんな、僕をもう許してほしい」
叔父さんは、九条と雫を気に入ったらしい。
結局、自分がいかに愛されるかアピールをするに至った。ルールは破られるためにあるらしい。
初詣から、ふたりのヒートアップを目の当たりにした。
今年は、相談役としての苦労が尽きなさそうである。
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