第18話

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「避けているだけじゃ私に勝てないわよ!」


イーツはひたすら地面の土と砂を吸い込んでウェンに向けて発射している。ウェンは水を使ってひたすら防御をしており反撃することができずにいるようだ。


ウェンに向けて発射されている土と砂は水の壁を貫通して少しずつウェンに傷をつけている。


「は〜。そろそろ疲れてきたから終わらせるよ」


ウェンは怠そうな表情を見せながら出していた水の壁を消す。


「笑わせてくれるね!私に攻撃が通らないのに勝てるつもりでいるのかい?」


イーツはウェンの言葉が苦し紛れの言い訳に聞こえたようだ。


「うるさいな〜。さっさと黙ってもらうよ」


「雨降(レインシャワー)」


ウェンが水の塊を上空に放つと塊は破裂し細かい雨が周囲にに降り注ぐ。


「これが秘策かい?何にも痛く無いよ!」


イーツは降っている雨には目もくれずに地面の土と砂を吸い込んで発射する。


ウェンは再び水の壁を作り塞いだ後に水の槍をイーツに向けて放つ。


「何回やっても無駄だってことが分かんないのかい?」


イーツは前方から迫ってくる水の槍を吸い込んで消滅させる。


しかし、いつの間にかイーツの腹には水の槍が背中から貫いていた。


「なっ、なんで!」


イーツは痛みから膝をついて倒れてしまう。


「君の能力は前の方向からの攻撃しか吸収できないでしょ?そりゃ口は前にしか付いてないから当たり前だよね。だから僕は背後からの奇襲を仕掛けることにしたんだ」


ウェンは倒れているイーツに近づきながら説明をしていく。


「さっきの雨は君の背後に水を作るための技だったんだ。最後に君に前方からの攻撃を吸収させれば背後からの攻撃は当たるって事。簡単でしょ〜?」


ウェンはイーツに近づくとイーツを水で包み込む。


「この水は拘束するためのもので窒息はしないから安心して。出てきたら傷が広がるからやめといた方が良いよ〜」


イーツは水の中で暴れる意志を見せていたがウェンの説明を聞き大人しくなった。


「は〜、疲れたよ。少し休憩させてもらうよ」


ウェンは自分自身も水で覆うと身体中の出血を止め、そのまま眠りについてしまった。


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ポインと戦うオーラだが、オーラの体を覆っているオレンジのモヤはかなり薄くなっていた。


「毒が効かないのは驚いたけど、あなたの能力も削られているみたいね」


ポインの周囲には毒で作られた犬が5匹待機している。


「はぁはぁ、流石に疲れてきたぞ」


オーラは肩で荒く息をしながら呼吸を整えていく。


「あはは!いい気味だわ。もうすぐ苦痛に満ちた表情に変えてあげるわ!」


ポインは五匹の毒犬にオーラを襲わせる。


「橙拳爆散(トウケンバクサン)」


オーラは最初に襲いかかってきた毒犬に拳を当てると後ろへと吹き飛ばして他の毒犬達にぶつける。ぶつかった瞬間にオーラが拳を当てた毒犬が爆発すると他の4匹も連鎖して爆発する。


オーラは毒犬を吹き飛ばした後に素早い動きでポインに近づき殴り飛ばす。


「ぐぁ!」


ポインは殴られる直前に自身の体を毒液で覆った後に固めることで殴られる威力を減らしたようだ。


しかし、吹き飛ばされた後にポインの体に再度衝撃が走るとポインの口元から血を少し吐き出してしまう。


「よっ、よくも私に傷をつけてくれたわね!私はもう傷つけられる立場じゃないの!」


「毒流狼(ポイズンウルフ)」


ポインは自身が傷つけられたことに叫び声をあげると巨大な毒でできた狼を出すとオーラに襲わせる。


「橙拳爆散」


オーラは目の前の地面に拳を叩きつけると地面が爆発して毒狼に衝撃を与える。衝撃を受けて毒狼は少し勢いを弱まったが、そのままオーラに噛みつきにいく。


オーラは噛みつかれる直前に両腕にオレンジのモヤを集中させて牙を防ぐ。


「ぐぅぅ!」


毒狼がオーラに噛み付くとオレンジのモヤに塞がれるも牙がモヤを貫通していき皮膚に届く勢いである。


「おらぁぁ!」


オーラはオレンジのモヤを前方に勢いよく伸ばすと狼は後方に飛ばされる。


「私はアンタみたいにキラキラしてるやつが嫌いなのよ!周りの人に恵まれて親からも愛をたくさん注いでもらったような甘ちゃんは私の前からいなくなってよ!」


毒狼は再度オーラに飛び掛かると大きな爪でオーラを切り裂こうとする。


「過去にどんなことがあったのかは知らねーが、その怒りを関係のないやつにぶつけるのはちげーだろ!」


オーラは自分に向かってくる爪に対してオレンジのモヤを纏った拳で殴る。


爪と拳の両方がぶつかると衝撃でオーラと毒狼が衝撃でお互い吹き飛ぶ。


毒狼の片腕は無くなり、オーラはオレンジのモヤを拳に集中させてたことにより、吹き飛んで地面に衝突するダメージを防ぐことができずに体のあちこちに切り傷ができてしまう。


「うるさい!私に近寄ると毒が感染すると言われ避けられ、遠くから石を投げられた時の気持ちがアンタに分かるの!?親にも避けられて生きてきた苦しみが分かるの!?」


ポインは取り乱しながら毒狼に手を向けると毒狼の無くなった腕が元に戻る。


「確かに人は自分が傷つけられる事は嫌がるくせに、人を傷つけることに抵抗がないやつが多い。だが、そこでお前が傷つける側に回ったらしょうがねーだろ!」


オーラが叫ぶと消えかかっていたオレンジのモヤの量が僅かに多くなる。


「あいつらは一度痛い目に合わないと考えが変わらないのよ!能力を制御できるようになってから全員に復讐してやったわ。復讐していくうちに同じ境遇の人達が集まってきたから、復讐を手伝ってあげた。そうしていくうちに私には沢山の仲間ができたの」


ポインは毒狼に手を向けると毒狼は猛スピードでオーラに突進しにいく。


「お前が過去にたくさん傷ついてきたのは分かったよ。この国を恨む理由もな。ただお前が傷つけようとしている人達は俺が守りたい人達なんだ!お前のことをここで止めさせてもらうぞ!」


オーラは向かってくる毒狼に対して、足元にオレンジのモヤを集中させた後に上空に飛び上がるとオーラがいた場所を毒狼は通り過ぎる。


飛んだ勢いのままオーラはポインに向かって近づいていく。


「私は仲間達の話を聞いて確信したの。こんなに多くの人達を苦しませるこの国は間違ってる。だから私はこの国を滅ぼすの!」


ポインは向かってくるオーラに対して拳ほどの大きさの毒の弾を5個発射する。


「苦しんでる人を救いたいなら、こんな方法じゃダメだろ!それにお前が過去に望んでいたことは本当に復讐だったのか?」


オーラは毒弾を両腕に集中させたオレンジのモヤで防ぐとポインとの距離が1メートル程の位置に着地する。


「そうよ、他に何を望んでいたというの!?」


ポインは拳に毒を纏わせてオーラに殴りにいく。


「お前が本当に望んでいたのは、自分の事を分かってくれる理解者と自分を守ってくれる仲間が欲しかったんだろ?」


ポインはオーラの言葉を聞いて一瞬拳が止まる。その瞬間を見過ごさずにオーラはポインの拳を懐に入り込んで避ける。


ポインはオーラに殴られると思い目を閉じて身構えるが、突如手に何か暖かいものが覆われていた。


ポインが目を開けるとポインの手を覆っていたのがオーラの手であり、オーラの手にはオレンジのモヤが無く毒に侵されてしまっている。


「なっ、何をしているの!?」


ポインはビックリしてオーラの手を解こうとするがオーラはしっかりとポインの手を握って離さない。


「俺にはお前のような苦しみを抱えている人達の事を完全に理解してやることができないんだと思う。ただ俺は苦しんでる奴を見過ごしたくなんかねーんだ。お前ならあの盗賊達みてーに苦しんでる奴の心を救うことができるだろ!こんな暴力的なやり方じゃなくてもな!」


オーラが話している最中も手の毒は進行しており毒は右肩まで進行している。


「アンタ、その毒は感染したら激痛で動けなくなるほどなのに何で離さないの?」


ポインは初めて人と手を繋いだ感動と自分の毒を受けても話を続けるオーラを見て涙を流し始める。


「俺がお前の仲間になってやる!だからここで止まってくれ」


オーラはポインに向けて満面の笑顔を見せながら話すとポインは空いている手で流している涙を拭う。


「何よ、、私は沢山の罪を犯したのよ。どうせ一生牢屋の中で過ごすことになるんでしょ」


「お前は本来心の優しい奴なんだろ。自分と同じ境遇の奴を助けてたんだからな。その優しさを正しい方向に使ってくれるなら俺が掛け合ってお前の罪を軽くしてみせるよ」


オーラの真っ直ぐな瞳を見てポインは初めて優しい表情になる。


「解毒」


紫色に変色していたオーラの手が徐々に元の色に戻っていき、肩まで進行していた毒も綺麗に消えていく。


「アンタが私のそばにいてくれたら私も一緒に国を守る立場にいたかもね」


ポインの瞳から涙は消え、満面の笑みをオーラに向ける。


「ありがとう」


オーラも笑顔をポインに向けるとポインに向かって倒れる。


「あっ、ちょっと」


ポインは倒れてきたオーラを抱えると優しく地面に置く。


「毒が回ってるのに無茶するからよ」


ポインは地面に横たわるオーラの手を握ると優しい口調で一言つぶやく。


-


北門の前では盗賊達が全員倒れており、立ち上がっているのはアブ一人だけである。


「オーラは相変わらずの人たらしだね。まさか盗賊の頭を懐柔しちゃうなんて」


アブはオーラの戦いを見守っていたようで、無事に戦闘が終わり安堵したようだ。


「ん、ちょっと待って」


アブが周りを見渡すとあることに気づく。


「ウェンは水の中で閉じこもってて、オーラも倒れちゃった。つまり今動けるのは私だけ?この人数の盗賊達を本部に私一人で運べっていうこと〜!?」


アブは気づいた事実に頭を抱えて発狂してしまった。

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