第17話

---北門


100を超える盗賊達が一斉にカインズの三人に襲いかかってきている。


「雑兵は私に任せて、あなた達はリーダー格を倒しに行って!」


「百百分身(ドドブンシン)」


アブの周囲に続々とアブの分身が現れていき、最終的に盗賊達と同等の数まで増えていく。アブの分身達は向かってくる盗賊達に迎えうつために走って突撃する。


「サンキュー!行くぞウェン」


アブの分身が盗賊達を抑えている間にオーラとウェンは盗賊達の間を走り抜ける。


「二人こっちまでくるわね。イーツ!分かれて戦うよ」


ポインは隣に立つふくよかな体型のイーツという女性に一声かけると、二人は左右の反対方向に歩いていく。


「サシでやろうって事か。俺は紫髪の方に行くからウェンは大きい方に行ってくれ!」


後ろの方で待機していたポインとイーツが分かれていくのを見てオーラ達も分かれて対峙しようとする。


「は〜、オーラを前に出して僕が後ろからちまちまと攻撃していく安全戦法で戦うつもりだったのに台無しじゃないか〜」


ウェンは悲しそうな表情をしながらイーツに向かって走っていく。


「アンタを倒してさっさと姐さんのところに向かわせてもらうよ!」


イーツは大きい体を揺らしながらウェンに指をさす。


「さっさと終わらせて家に帰らせてもらうよ」


「水槍(スイソウ)」


ウェンは周囲に水でできた槍を四つ生み出すとイーツに向けて発射する。


「大喰(オオグライ)」


イーツが口を大きく開けると水の槍はイーツの口の中に吸い込まれて消えていく。


「お返しだよ!」


イーツの口から消えていった水の槍が再度現れてウェンに向けて放たれる。


「な!水玉(ミズタマ)」


ウェンは自分の技が跳ね返されたことに驚きながら、自身の体を覆う水の球体を生み出す。向かってくる水の槍は水の球体に当たると弾けて消えていく。


「私の技はどんなものでも飲み込み、そして吐き出す。私にはどんな攻撃も効かないのさ」


イーツは地面に顔を向けると地面の砂や石を口の中に吸い込む。


「砂土出吸(サドンデス)」


吸い込んだ石や砂をウェンに向けて勢いよく発射する。


「水壁(スイヘキ)」


ウェンは目の前に水の壁を作りイーツからの攻撃を防ぐ。


「こっちからの攻撃は全部吸い込まれて逆に利用されちゃうのか〜。めんどくさいな〜」


ウェンは軽くイーツを睨みながらどうすれば攻撃を通すことができるのかを考え始める。


-


「あっちも盛り上がってるみたいだし俺らも始めるか」


オーラは目の前に立つポインに話しかけるとオレンジのモヤを体から出す。


「アンタは私を昔いじめてたやつに顔が似てるからとことん痛めつけてやるよ」


ポインは狂気的な笑みをこぼすと右手を足下に向ける。


「毒煙(ポイズンスモッグ)」


ポインの足元を中心に紫色の煙が広がっていく。


「毒使いか。吸い込んだらヤバそうだな」


オーラは広がっていく毒の煙を見ると、大きく息を吸い込んで煙の中に突っ込んでいく。


「バカめ、この煙は口からだけでなく体の皮膚からも吸い込まれていくんだよ」


ポインは突っ込んでくるオーラを見て嘲笑する。


しかし、オーラは毒煙の中に入るが足を止めることなく中心にいるポインの元に走っていく。


「なっ!何で毒が効いてないの?この毒は数秒で体の自由を奪うはずなのに」


毒の効いていないオーラの姿を見てポインは動揺しているようだ。


「煙がダメならこれでどうだい!毒流犬(ポイズンドッグ)」


毒の液体で形作られた犬がポインの足下に生まれるとそのまま犬がオーラに向かって襲いかかる。


オーラは息を止めたまま犬に拳を叩きつけると犬は液体となり散らばる。毒の液体は散らばった勢いでオーラにもかかっており、オレンジのモヤに当たると白い煙を出して消えていく。


オーラは息が持たないのか苦しそうな表情をすると、煙の外に出て深呼吸をする。


「流石に息が続かねーな。しかもあの液体の毒を受け続けると俺の能力が削られていってるから長くは持たなそーだぞ」


オーラは深呼吸をしながら垂れている冷や汗を手で拭う。


-


オーラとウェンの後ろでは盗賊達とアブの分身達が戦いを繰り広げている。


盗賊達とアブの分身の数は同数ほどなので本来能力を使う盗賊達の方が有利であるはずなのだが、すでに半数の盗賊が地面に倒れていた。


だがアブの分身も半数が消えており、戦闘している両方の人数に差は無い状況だ。


「分身相手に何を手こずっているんだ!」


盗賊達の中でも比較的大柄な男が叫びながら手に持つ大斧でアブの分身を消していく。


「アンタは私が直々に相手をしてあげるわ」


大柄な男の前で戦闘を行っていたアブが盗賊の顔に蹴りを入れて倒すと大柄な男に話しかける。


「あん、お前は分身じゃねーのか?」


男は大斧をアブに向けて振り下ろすとアブは軽やかなステップで横に避けると同時に男の腹に蹴りを入れる。


「はん、そんなしょぼい蹴り効かねーな!」


男の腹は鉄のように硬く、蹴りを入れたアブの足の方が逆にダメージを負ってしまう結果になった。


蹴りを弾いて隙が生まれたアブに対し男は大斧を横に振り回すとアブは避けることができず体が二つに切り裂かれてしまう。


しかし、裂かれたアブの体は瞬時に消え去ってしまう。


「こいつも分身じゃねーか!」


男は目の前に居たのが分身だったことに怒りを見せる。


すると男の背後にアブが走り込んでおり軽やかに跳ねると勢いをつけて男の首に蹴りを入れる。


「かっ、」


今度は男の首は先ほどの腹の硬さはなく、弾かれることなく首に蹴りを入れることが出来たようだ。


「不意をつけばアンタの能力は関係無いようだね!」


背後から首を蹴られて倒れる男の前にいつの間にかアブが現れており倒れ込む男の顔に強烈な蹴りを入れる。


男は首と顔に強烈な一撃を入れられて仰向けに倒れ込み動かなくなった。


「あともうちょっとでこっちは終わりそうね!」


男の首に蹴りを入れたアブが周りを見渡すと盗賊達の数が着実に減っている事を確認する。


オーラとウェンの戦闘に目を向けると二人が苦戦しているようだ。


「あいつらはまだまだかかりそうね。さっさと終わらせて加勢しにいってあげよ!」


アブは残っている盗賊との戦闘を再開する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る