第34話 F・インパクト

 ――巨大冷凍マグロが地球に激突するまで約10分。


「しかし何故クソの役にも立たない国のお偉いさん方はマグロがこんなに接近するまで気が付かなかったのだ?」

 私が素朴な疑問を口にしてみると、答えたのは宙をフヨフヨと漂う例のマスコットで。

「いや、気付いてはいたみたいだよ? でも隕石じゃなくてマグロだからいいやって放っておいたみたい」

「何をノン気なっ!」

 っとピンクが言っているがそこへレッド。

「大方、大気圏でマグロが解凍されてネギトロ巻きのネギにでもなると思っていたんだろう」

「どぉーゆぅー事ぉ? 百歩譲ってマグロがトロになるならギリギリ許せないけど、ネギになるのは絶対に許せない! だってそれネギトロ巻きじゃなくてネギネギ巻きじゃん!!」

 いや、そこはただのネギ巻きで良いだろう? というより何故巻き寿司になるのが前提となっている?


 しかしそんな事はレッドには関係なかったか、レッドは我々とごはんですよの全員を一望し。

「よし。もうあまり時間がないから俺の考えた作戦を手短に話す。といっても作戦は単純だ。あのマグロが地球に激突する寸前に俺がこの時のために開発した新必殺技『ファイナル・デッド・マギカ・インパクト・オーバーヒート・ジ・エンド』を放つ。すると地球は真っ二つに割れるので、あのマグロは真ん中を通り抜け無事スルーする事が出来るという訳だ」

「ほほぅ? 流石はレッド殿。地球に巨大冷凍マグロが激突するのを予見して地球を真っ二つに出来る必殺技を開発していたとは感服ですな?」

 これはブルー。

「なるほど。確かにマグロに因っての地球消滅は綺麗に回避出来るな?」

 これを言ったのは私だが――


 ――ただ、そんな必殺技を前回私に試し撃ちしようとしていたのが恐ろしい。まともに喰らっていたら地球ではなく私の部屋の風呂場と脱衣所が真っ二つに分かれ数キロは離れてしまっていただろう。そうなると私は風呂に入る時に脱衣所と風呂場の間を素っ裸で往復しなければいけなくなる……考えただけでも恐ろしい。


 ……恐ろしいのだが都。

「確かにそうだな。だがしかしそれだとマグロは回避出来ても結局レッドに地球が消滅させられるだけで、それはそれで私は困る。なのでマグロが通過した後に地球はちゃんと魔法か何かでセロハンテープを使ってくっ付けてくれないか?」

「そういう問題じゃなくないっ? それなら最初から素直にマグロの方を殴ればいいと思うんですけど? てゆーか魔法でくっ付ければいいのになんでセロハンテープっていう一手間挟むかな?」

 と、これはピンク。


 ――という訳で結局ピンクの助言を聞き入れ、レッドの作戦としては最初にレッドがマグロに必殺技をブチかますという事になった。レッドの作戦としては……


 ――で。レッド。

「うむ。では初っ端に俺がんでマグロをブン殴るのは良いとして。問題はその後だ……マグロは最低でも真っ二つか、ある程度は細かく砕けるかもしれないが、それらの破片がそのまま地球に降り注げば被害は甚大だ……」

「なるほど。確かにそのままだと生臭なまぐさくてかなわんな?」

においの問題じゃなくないっ!? その大きさだとまだ地球滅びるんですけどっ!!」

 いちいちうるさいピンクだな。……と私が眉間にシワを寄せているとブルー。

「ふむ。そのままだとにおいが気になるというのであれば、サバの味噌煮にしてしまえば良いのでは? そうすれば味噌の良い香りになるかと?」

「なるほど。妙案だな?」

「マグロだって言ってんでしょ! なんでマグロがサバの味噌煮になるのよっ!」

 本当にいちいちうるさいピンクだな。

「別にゾーンに入ればマグロがサバになる事もあるだろう?」

「ゾ……ゾーンッ!? なんでゾーンに入ったらマグロがサバになるのよっ! ただのキレッキレのマグロになるだけでしょっ!」

「左様ですぞダイコン殿。マグロがゾーンに入ってもキレッキレのしめサバになるだけかと?」

「〆サバッ! だからなんで必ずサバになるのよっ! 味噌で煮ようが酢で〆ようがマグロはマグロでしょ!」

 本当に何から何まで突っ込まんと気が済まないのかこのピンクは? せめて突っ込むなら我々がボケた時だけにしろ。


 ……と私が考えていると見兼ねたか都。

「まあ兎も角だ。そのために我々が団結し、地球の被害が最小限になるよう全員でマグロの欠片を迎撃すれば良いのだろう? 幸い、今ここに居るのは地球上でもトップクラス――そばよりケーキを作る方が得意なそば職人の中でもトップクラスの戦闘力を有している者達ばかりだからな?」

 しかしこれにすぐに苦言を呈したのはごはんですよの博士と呼ばれている小豆色だった。

「いや、だが私の目算だとマグロがどう砕けようが、これだけのうどんよりプリンを作る方が上手いピザ職人が居ても現状圧倒的に人手が足りていない」

「だろうな……」

 とレッドが呟いた時だった。


「――ならばオレも手を貸そう」


 声は急に届いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る