第29話 グレー
おかずファイブを倒し、バックであるごはんですよが出てくるまで粛々と日本の小物ヒーロー達を狩って過ごしている我々だが――。今日はそれとは別の仕事で都に呼び出されていた。久々にバイトの面接である。
今、私と都の前にはアルバイト希望者がイスに腰掛けているのだが……
「とんでもない大物が来たな……」
と呟いたのは都だった。
「そうなのか?」
いや、正直に言えば只者ではないのは私でもわかる。全身黒タイツに黒い目出し帽、両腕には包帯を巻いている女性。こんな格好をするのは悪の組織の雑魚戦闘員、もしくは銀行強盗のコスプレをしている銀行強盗くらいだ。なので今の言葉が出たのだが――都の答えは。
「君は知らないのか? 彼女は明らかにおかず戦隊ごはんですよのファーストシーズンの敵。悪の組織『パンツ1枚』略して『パンイチ』の、その雑魚戦闘員の格好をしている」
この言葉を聞いて私はアゴを一撫でする。
確か――ごはんですよのファーストシーズンのラスボスはふんどし姿のスク水で現パンストだがその正体はブルマだったはず。そしてそいつが作った組織がパンツ1枚でそこの戦闘員はタイツと……。
――と。私が話を整理していると都は続ける。
「それに格好だけじゃない。見てわかるように彼女はエルフ」
わかるか。
「内に秘めている魔力は人間の比ではないぞ? もしかしたら幹部候補の人材だったのかもしれない……」
と言うが――なるほど。確かにスーパー戦隊ヒーローの雑魚戦闘員ともなればウチのアルバイトとしては大物……しかも幹部候補ともなればかなりのエリートだ。
「あの〜ちょっといいですか?」
と私の思考に突然割り込んできたのは、申し訳なさそうに片手を上げた雑魚戦闘員の彼女自身だった。
「私、幹部候補じゃなくて幹部そのもの……戦闘だけならラスボスよりも強い大幹部だったんですけど?」
『なんだとっ!?』
私と都の声が揃った。
「じゃ、じゃあもしかして君はあの有名な『戦闘員A』なのか?」
と付け加えたのは都だった。
「はい。そうです!」
と明るく返事をする彼女だが――
「ラスボスより強い戦闘員A……つまりスク水より強いタイツという事か」
私が呟いていると隣で都。
「これは本当に驚いたな……ダイコン。彼女がもし本当にパンツ1枚の元戦闘員Aだったとしたら、今現在はおかず戦隊ごはんですよのグレーという事になるぞ」
「なにっ? そうなのか?」
「うむ。元々ごはんですよは5人組の戦隊だったのだが、途中でイエローとグリーンが死んでしまって3人になり、そこへバイトとして入ったのがグレーなのだ」
そうなのか……という事は仮に彼女が本物だった場合、ごはんですよが我々にスパイを送り込んできたという事。つまりおかずファイブを倒してごはんですよを引っ張り出す事に成功したと言えるのだが――
「貴様。本当にごはんですよのグレーなのか?」
私は元戦闘員Aにどストレートの質問をぶつけてみる。すると。
「はい。この度は忍転道にアルバイトの掛け持ちといっておいてスパイするためにやってきました」
「ほぅ? ここまでハッキリというからには本物か……」
「だな? おかずファイブを倒した甲斐があったというものだ」
やはり都も同じ考えか。となると――
「となると……だ。あ、いや待て。そういえばまだ名を訊いていなかったな? 貴様グレーではなく本名はなんという?」
「豚足です」
私の質問に即答する豚足。
「豚足か……如何にもエルフっぽい名だ。まあそれは置いておくとして豚足よ、貴様はスパイとして我々の会社にバイトしにきた訳だが我々の情報を盗む以外に何が出来る?」
という私の問いに。
「いや待て」
待ったをかけたのは都だった。
「面接らしく何が出来るかだけではなく短所も訊いておこう。なので豚足の長所と短所を教えてくれ」
その言い方だと豚足の長所と短所を訊いているようにしか聞こえないのだが……いや、まあ豚足だから間違いではないのか……。
……という私の心配を余所に豚足が都に答える。
「長所と短所ですか? そうですねー。長所はコラーゲンがたっぷりなところで、短所は食べられるところが少ないのと見た目がグロテスクなとこですかね?」
「いやそれは豚足の話であって、私は君の長所と短所を訊いているのだが?」
「え? だから私の話をしていたんですけど?」
貴様の話だったのか!
「あ〜言われてみれば確かにエルフはコラーゲンは多いが食べられる部分は少なく、見た目もグロテスクと良く言われているな?」
そうなのか……それは初耳だ。
「ついでに言うと野菜と一緒に味噌で煮込んだ汁物とも言われている」
それは豚足ではなく豚汁だろう? というかエルフの話じゃなかったのか? あ、いや違った……厳密にはエルフの話でもなく豚足の話か……。
そして結局――。豚足の長所は役に立たないが、短所も邪魔にならない。そして我々の情報は盗むがごはんですよの情報も提供する(相手のレッドの了承は得ているとの事)というので我々はこの金髪豚野郎エルフをアルバイトとして雇う事にした。
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