第20話 続・怪談話

 私は1度全員の顔を見渡し。

「良しわかった。ではもっとわかり易い例え話をしてやろう。都よ昨日の夜は何を食べた?」

 私の質問に都は小首を捻り。

「ん? 昨日の夜か? 昨日の夜は鉄板焼きざるそばだが?」

「うむ。良い答えだ」

 と私はアゴを撫でながらしみじみと頷き。

「では都。同じ質問を私にしてみろ」

「同じ質問? つまり昨日の夜何を食べたかという事か?」

「そうだ」

「何を食べたのだ?」

「うむ。私の実家には父と母と祖父と祖母と謎のブラジル人カルロスが暮らしているのだが、昨日は晴れていたので中学の時に同じ部活で知り合った友人の元カレ……つまり端的に言うと14歳まで厨二病だった私の幼馴染なのだが、そいつと一緒にウーバーイーツで鉄板焼きカキ氷を鉄板大盛りで頼んだのを食した」

「情報多っ!!」

「いくらなんでも盛り過ぎだろう? 昨日の夜何を食べたか訊かれているだけなのだからウーバーで鉄板焼きカキ氷を鉄板大盛りで頼んだ……くらいの情報で十分だろうに?」

 リキと都が順番にほざくが私は一つ頷き。

「その通り。そして私の期待通りの良い答えだ。これでわかっただろう? 普通、人間は体験談を話す時は要点だけを纏めて簡素に話すものだ。さっきの都の鉄板焼きざるそばのように答えるだけで不必要な情報は語らない。だが怪談話は違う。怪談話は体験談であっても私の鉄板焼きカキ氷のように関係のないカルロスや天気や過去話やカルロスと――とにかく盛りに盛って話すものなのだ。特にプロの怪談師などはな」

 ――という私のここまでの話で納得したか、シコナが頻りに頷き。

「なるほど。だからダイコン殿は先程の話で不必要な天気の話だけで1日目を終わらせる――言うなれば不必要な前日譚を盛った……語ったという訳ですな?」

「ああ。その通りだシコナ」

 と。ここまで言った時にフト頭に過った事がある。


 ――ん?


 そういえば――プロの怪談師か……。

「時に貴様等。今私が言ったプロの怪談師。そのプロの怪談師の口から語られる怪談話は聴いた事はあるか? 貴様等は聞き手としての経験が少ない。私の話を聞くよりも先にプロの怪談師の怪談を1度は聴いておくのも良いかもしれんな?」

 するとこれが意外と好感触だったか都。

「なるほど。君の語り手としてのレベルも大事だが、リアクション動画という面も考えれば我々の反応も大事となってくるのは確かだ。となれば、君の言う通りで本番までに1度は聴いておくべきかもしれん。なので――誰かお薦めの怪談師がいるなら名を訊いておきたい」

 お薦めか……とアゴを一撫でし。

「そうだな。ならば肉体派怪談師として名を馳せている『なかやまヒレに君』なんかはどうだ?」

『なかやまヒレに君?』

 彼女達の声が揃う。

「ああ、プロの怪談師の中でもトップクラスの肉体派でフィジカルモンスターのヒレに君のフィジカルごり押し怪談は1度は聴いておくべきだ。但し1度聴けば十分だがな」

「い、1度で十分なのか……いやそれより怪談話でフィジカルごり押しとはどういう状況なのだ?」

 と首を捻る都だが。

「決まっているだろう。肉体派のヒレに君は当然ながらメンタルが豆腐だ。それこそ自分の怪談話でビビるくらいの豆腐さ加減なのでフィジカルで押し切るしか方法がない……それがフィジカル怪談だ」

「そんなヤツは辞めてしまえプロの怪談師など! 何故豆腐メンタルなのが当然なのだっ!」

 むっ? 言われてみれば確かに……フィジカルモンスターならば幽霊も物理パワァーでなんとか出来るだろうからメンタルがやられる訳などない……か? いや、今大事なのはそこではない。

「まあ待て。先程も言ったがなかやまヒレに君は1度聴けば十分だ。お薦めの怪談師は他にもいるから考慮してみてくれ」

 という事で私は他の怪談師も紹介する事にした。


「そうだな。他には聴いておいた方が良い、優先度の高い怪談師は元アイドルという異色の経歴を持つイケメン怪談師。怪談王子の異名を持つ『なかやまバラに君』だ。こいつは若い女性を中心に人気が高く、怪談話をする前から女性はキャアキャア悲鳴を上げている事が多い」

「いや、恐らくだがそれは悲鳴というより黄色い声援だと思うぞ?」

 という懐疑的な視線を私に向けてくる都だが私は無視して続ける。

「あとは天才怪談師と言われていたがとある事故で死んでしまった……自分自身が怪談になってしまった怪談師の幽霊『なかやまあぶりに君』辺りも押さえておきたいな……?」

「怪談師自身が幽霊ならもう怪談話も心霊動画もいらんだろうに?」

「そして最後に究極的な怪談師。奴の話す怪談話を聴くと必ず死ぬという呪いの怪談師『なかやま肉離れ君』。無論、自分自身も話している時に話を聴いているのでこいつは既に死んでいるがな……」

「よ……4人怪談師を紹介しておいて内2人が死んでるって大丈夫なのか怪談業界は? というか、なかやまあぶりに君が死んだのはなかやま肉離れ君の怪談話を聴いたからじゃないのかそれは?」

 さすがは都だ。この少ないヒントで瞬時にそれに気付くとは……。


 ……という事で。本日のサンプリングはここまでとし、都達は先にプロの怪談師の怪談動画を視聴する事となり――怪談話の動画はその後に撮影する事となった。

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