第19話 怪談話

 今。会議室には私、都、リキ、シコナ、ヨネの5人が揃っていた。そして全員を揃えておいて何をするのかと言えば、今回は企画の立案ではなく企画の内容を煮詰めようというものである。本来これらの仕事は主に私と都の仕事なのだが、今回は少々のサンプリングが欲しかったのでリキ達実動部隊も呼び寄せたのである。


 ――で。


 実際のところ何をするのかと言えば、今回の企画は季節もので夏用の企画――怪談話である。つまり怪談話が得意中の得意である私が怪談話をして、撮影前にサンプリングとしてみなの反応を見てみようという訳である。


 なので早速――私は蝋燭の灯りしかない薄暗い会議室でゆっくりと口を開いた。


「あれは数年前――。行けばほぼ間違いなく幽霊が見れると言われている心霊スポットに私が500人の仲間と行った時の話だ……」

「いや、ちょっと待ってくれダイコンよ」

 私が気持ち良く語り出した途端に待ったをかける都。に対し――

「なんだ?」

 と私が返せば。

「いくらなんでも肝試しに500人は多過ぎだろう?」

「馬鹿を言え、私を含めて501人だ」

「細かっ! いや誤差の範囲っ!」

 とリキが小声で何か言っているがシカトしていると都。

「いや、リキの言う通りだ。なんにせよその人数ではいくら幽霊がほぼ間違いなく見れる心霊スポットでも全く怖くないだろうに?」

 この言葉に私はヤレヤレと首を左右に振り。

「これだから素人は困る。良いか? そもそもとして肝試しに人数制限などない。そして我々プロの怪談好きは少人数の肝試しの話など飽きるほど聞いていてなんの面白味もない。だがこの話は冒頭から501人という――全国の怪談愛好家達がこの出だしだけでも生ツバを飲み込む展開なのだぞ?」

「あ……あぁ。そ、そうなのか。だがすまないが我々は素人なのでな。出来ればそのぅ――玄人向けではなく素人向けの話をしてくれないか?」

「む? 言われてみれば確かに……ならばわかり易く。見たら『7日後に死ぬ呪いのビデオ』という話はどうだ?」

 っと提案してみるが今度はリキが。

「いやそれ大丈夫なんですか? 『リング』って直接言ってないだけでホラー映画のリングまんまですよね?」

「駄目か? ならば『100日後に死ぬワニ』はどうだ?」

「もっとダメですよっ! ホラーですらなくなってますしっ!」


 っという指摘を受けた私は「ふぅ」と溜息を吐き。

「全く……あれもダメこれもダメ。貴様等は我儘だな。ならばやはり私の実体験でいこう。これは私が4人の仲間と偽造パスポートの写真を偽造しに行った時の話だ。わかり易く先に仲間の事を説明しておくと――


 若い女性のA

 若くない女性のA

 若い男性ではないA

 若くも男性でもないA


 ――の4人と偽造パスポートの偽造写真を偽造しに行った時の話だ」

「ややこしいっ! 女性A・B・C・Dで良いだろうっ! 何故わざわざ全員Aで統一するのだっ!?」

 とがなる都だが私はすぐにがなり返し。

「仕方がないだろうっ! 全員本名なのだからっ!」

「本名なのっ!」

 リキが目を丸くして驚いているが、都は落ち着いたもので。

「本名ならば仕方がない……」

「そこ納得しちゃうんですか都さん!」

 っという2人のやりとりを横目にシコナ。

「ダイコン殿。その登場人物だと些か怪談に集中出来ないと思われるので出来れば他の話にして頂けないだろうか?」

「またか……」

 と漏らす私だが、確かにシコナの言う事にも一理ある……か。


 と考えた私は別の話を用意する。

「良し。ではとっておきの話をしてやろう。これは――


 何もせずに外で立っているだけでも勝手に汗が噴き出す程の外気。夏真っ盛りを彷彿とさせるような――。9月も中旬に差し掛かっているというのに厳しい残暑。そんな中で汗を片手で拭いながら空を見上げれば、太陽は最も高い位置でこれでもかと日差しを肌へと突き刺してくる。これでは堪らないと思い避難出来る日陰を探し、地に視線を落とした時にフト思う。せめてこのアスファルトが濡れていれば少しはこの暑さも緩和されるのだが……と。しかし泣き言を言っていても始まらないので汗を滴らせながらも日陰を探し両の脚を突き動かすのであった。


 ――で。次の日。


「待て待て天気の話だけで1日目が終わってるじゃないか!」

 これは都。

「本当にこの部分必要だったんですか?」

 そしてこれはリキ。

「必要か不必要かで問われれば不必要だな」

 これは無論私だ。

「では何故わざわざ不必要な天気の話を?」

 これはシコナ。


 ――というところで私は「フッ」と鼻を鳴らし。

「貴様等は本当に何もわかっていないな? 良いか怪談話において関係のない天気の話や、物語に弟しか出てこないのに何故か自分の家族構成が、祖父、祖母、父、母、姉、自分、弟、妹の8人家族だと説明したり、友人Aと一緒に幽霊を見たという話なのに何故かその友人Aと初めて出会った時の――物語にはなんの関係もない過去話を入れたりと……怪談話には不必要な部分が盛りに盛られている事が多い……いや、寧ろ5割くらい盛って初めて怪談話と言えるのだっ!」

 と私が両の拳を固く握って力説していると。

「えっと……5割盛るってそれもう作り話って言っていいレベルじゃないですかね?」

 とリキが何か呟いているがとりあえず無視しておこう。

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