第14話 マスコット

 グリーンとイエローが殉食して結構経つけど、私達はようやく戦隊ヒーローとして5人組に復活する事が出来た。


 ――まあ。レッド、ブルー、ピンク、グレー、小豆色っていう微妙なラインナップなのはご愛嬌って事で……。


 そして天才エンジニアの小豆ちゃんのおかげで巨大合体ロボットも完成し、実際のところ私達は今初めてスーパー戦隊ヒーローとしてスタートラインに立てたのかもしれない。


 ――で。そんな感じで5人揃っての初のミーティングだけど。


「祝! 実写化!」

 何が?

「どうも。世界初のハリウッドでの実写化が決まったバーチャル・ユーチューバーのレッドです」

 あーそーなの。オメデトウ。

 と私が投げ遣りな祝辞を心の中で述べていると、それとは対照的なブルー。

「おお! さすがはレッド殿。本場ハリウッドで実写化とは……いや、本場ハリウッドでなければレッド殿のヌルヌルヌメヌメ生臭さは実写化出来ないでしょうな?」

 え? ハリウッドってヌルヌルヌメヌメ生臭さの本場だったの?

「ああ、その通りだな。俺も日本三大ヌルヌルの名に恥ずかしくない実写化を目指すつもりだ」

 やめろ。もっと慎ましくしろ日本三大恥部。


 ……というようないつものやり取りがありつつ今日もミーティングは本題へと入っていく。


 まずはレッドが私達全員を一望してから口を開く。

「みんな聞いてくれ。俺達はようやくメンバーも5人に復帰し巨大ロボも手に入った。なのでこれからいよいよ本格的な活動を始めようと思うのだが――」

 うん。やっぱり今までは片手間で活動してたんだ。

「やはり本格的活動の初手として、俺達がまずやるべき事はマスコットを決める事だと思う!」

『確かに!』

 ええっ! 私以外満場一致? そ、それが1番初めにやる事なの?

 という私の戸惑いは無視され話は進む。

「良し。では早速マスコットを決めていきたいのだが……その前に博士っ!」

 とここでレッドが小豆ちゃんへと視線を送る。

「なんだろうか?」

「念のため確認するが……マスコットを決めた場合。それをそのまま具現化する事は可能か?」

 すると小豆ちゃんは口の端を釣り上げると目礼をし。

「無論だ。……と言っても見た目や手触りは限りなく生物に似せるが中身は当然ロボットになる。但し最新鋭のAIと最新鋭の小さいおっさんを搭載するので自分で考え行動し会話も可能なマスコットとなる」

 それAIだけで良くない? てかその最新鋭の小さいおっさんをマスコットにした方が早くない? 個人的にはちょっと嫌だけど。


 しかしレッドは満足そうに頻りに頷き。

「うむ。それで十分だ。ではどんなマスコットにしたいかみんな意見をくれ」

 レッドが問いかければ早速グレーちゃん。

「やっぱりマスコットと言えばリスみたいな小動物ですかね? 主人公の肩とかに乗っているってイメージないですか?」

「ほう? 確かにそのイメージはあるな? 他には何かあるか?」

 と今度は小豆ちゃん。

「うむ。妖精などの類で主人公の周り、空を飛んでいる者もいたりすると思うが?」

「ああ。それもいるな」

「あとは主人公の周りを飛びながらカレーを食べているインド人のおっさんとかでしょうか?」

 急に入ってくんなブルー。そんなマスコット見た事ないぞ。


 この流れが続くとマズイと思った私は流れを変えるために誰よりも早く口を開く。

「あとは猫とかどう? 使い魔的なポジションとかでよくいない? それで喋ると語尾に『ニャー』が付くみたいな?」

「おぉ! 確かにいますな? あとは喋ると語尾に『ニャー』が付くカレーを食べているインド人のおっさんとか?」

 クッソ。流れ変える気ねーなブルーめ。

 ……としているところにレッド。

「しかしピンク。猫やカレーを食べているインド人のおっさんなら語尾にニャーを付けるのもいいが、それ以外の容姿になった時の語尾も考えておいた方がいいんじゃないか?」

「え? 別に猫じゃなかった時に、無理に語尾になんかつける必要なくない? まあ犬とかだったら『ワン』とかでいいだろうけど」

「そうか? しかしマスコットと言えばカワイイの代名詞。語尾に『リン』とか『ポン』とか『便所サンダルン』とか付けた方が可愛いさが引き立つんじゃないか?」

 途中までは良かった。途中までは認めよう。しかし最後の便所サンダルンってなんだ?

 私はレッドを指差し。

「あんたさぁ、最後に『ン』つけりゃなんでも可愛くなると思ってない?」

「違うのか便所スリッパン?」

「違うわっ! ムカつくなっ!」


 語尾に「便所サンダル」や「便所スリッパ」を付けるとムカつくというのが証明された瞬間だった。


「とゆーか私としては語尾なんかより性格の方が大事だと思うんだけど? それによって喋り方って決まってこない?」

 私はレッドに言ったつもりだったけど、これに呟くように答えたのは小豆ちゃん。

「性格か……性格はAIの気まぐれと操縦する小さいおっさんの気分で決まるな?」

 だからそれAIだけでよくない? じゃないと結局小さいおっさんの性格になるって事じゃないの?

「しかしまあ、つみれの言う通りだ。語尾や喋り方は見た目が決まってからの方がいいだろう。性格もある程度なら初期段階でAIに学習させてコントロールも出来るだろうしな」

 この小豆ちゃんの助言にレッドは珍しく素直に従い。

「なるほどいいだろう。ではまず見た目から決めてしまおう」

 私達も全員が首を縦に振った。

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