第5話 で? 君の二つ名は?
「まあまあ落ち着けピンク。とりあえずお前の二つ名は『おふくろの味』でいいか?」
両手を広げて私を宥めようとするレッドだけど。
「いや、なんで私だけ色も地域も関係なく決まっちゃってるの? まぁ確かに鰯のつみれっておふくろの味っぽいけどさ……。ってか私もちゃんと決めさせてよ」
私が当然の権利を主張していると、レッドの隣でブルーがアゴを撫でながら首を捻る。
「う~む。しかし『畑の肉』も『便所飯』もダメとなると何が良いですかなピンク殿? もし色を直接使う、地域を使う以外にも妙案があれば賜りたいのですが?」
色と地域以外……ね?
「ん〜なら漢字だけで構成するとか? 特に私達の場合、色をイメージ出来る漢字で構成したりしたらいいんじゃない?」
「漢字だけ? 色をイメージ出来るとは――具体的にはどの様な感じで?」
「えっと、わかり易くレッドでいうと火とか炎を使う感じ? だから二つ名的には『火炎闘士』とか『気炎闘士』とかそれっぽくない?」
「おぉ。なるほど! では私の場合は青をイメージ出来る物……パッと浮かぶのはガリガリ君のソーダ味とか硫酸銅でしょうか?」
「フリ幅凄いな同じ青なのに……」
てか硫酸銅はともかくガリガリ君ソーダ味はどうやって漢字で表現するんだそれ。……と私が内心でツッコミを入れていると。
「しかしガリガリ君を漢字で表わすのは難しいですな? ではいっその事、私の二つ名は『ガリガリ君 硫酸銅味』というのは如何でしょうか?」
「りゅ、硫酸銅って毒性高くなかったっけ? 私の『おふくろの味』とは程遠い位置に居るな。いや私もおふくろの味に決まったワケじゃないけど」
と呟いたところで私はフト考える。
おふくろの味の異名を持つ鰯のつみれ。
ガリガリ君硫酸銅味の異名を持つビーフストロガノフ。
アホか。
「おい待ってくれ。俺も混ぜてくれ! 火や炎は安易だから俺ももう少し捻りを入れたい!」
と疎外感を覚えたのかレッドが急に存在感を主張し始める。別に蔑ろにするつもりはなかったので。
「別にいいけど……。じゃあ他に赤がイメージ出来そうな漢字って何かある?」
「いや、少し考えたんだがパッとは思い浮かばなかった。なので俺も一先ず赤をイメージ出来る物を考えてみたんだが――鼻血の時に鼻に詰めたティッシュ。と返り血を浴びたサンタクロース辺りが定番だと思ったのだが?」
いやいやいや、サンタクロースって返り血浴びてなくても赤くない? てかどんな惨劇があったのよそのサンタクロースは? と考えつつ。
「それどっちも普通に『血』でよくない? なんでそんな具体的で限定的な状況の血なのよ……。でもまあとりあえず漢字としては血もアリなんじゃない? 熱血とかって赤っぽいイメージあるし」
私としては結構まともな意見を言ったつもりだったけど、どうもレッドは不服だったらしく両腕を組んで眉間にシワを寄せる。
「う~ん。しかし『熱血』だと結局のところ『気炎』と殆ど同じ意味になってしまうからなぁ……それなら気炎で良くないか?」
えぇ~? こいつこんな冷静な判断出来たんかい……。ならいっつもそれで居てくれ。
と思っていると冷静なレッドはまだ続く。
「というかピンク。お前ならその漢字だけの二つ名を自分にどう付けるんだ?」
「確かに。それは非常に参考になりますな?」
とブルーがレッドを後押し。なので答えざるを得ない私は少しだけ考え。
「ん〜私なら『
『――なっ!』
レッドとブルーが見事にハモる。
「お前ズルイぞっ! 地味なくせに自分だけそんなカッコイイ二つ名を考えているなんてっ!」
「地味言うなっ!」
とレッドに物申せば。
「レッド殿の言う通り。地味なら地味らしく『おふくろは地味』くらいの二つ名で十分なはずっ!」
「それはもう私じゃなくて母さんへの悪口なのよブルーッ!」
――と。
鰯野つみれ『おふくろは地味』。
演歌かっ! どんな二つ名だよ! 羞恥的かつ嫌がらせ染みた二つ名付けようとしてっ! もういい……こいつらには絶対カッコイイ二つ名なんて考えてやんない!
――ん?
「――あっ!」
「なんだ? 急にどうした?」
ある事に気が付いた私が頭に感嘆符を浮かべていると、それに驚いたかレッドが怪訝そうな顔で私を覗き込んでくる。
私はコメカミに汗を垂らしつつ。
「い、今更なんだけど……よく考えたら二つ名って自分達で付ける物じゃなくて人に勝手に呼ばれて付く物じゃない?」
「お……おう」
「う……うむ」
レッドとブルーも珍しく頬に特大の汗を垂らしていた。
――結局。最終的に私のこの言葉が決め手となり……この日私達に二つ名が付く事はなかった。
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