第3話 私達って実は……何?
レッドがメンバー募集をかけてから2週間。
――誰も応募してこない。
私は動揺を隠すためストローでアイスコーヒーをチュルチュル啜る。
ま、まぁよくよく考えると命懸けで悪の怪人と戦うアルバイトなんて誰もやりたがらないよね……。そりゃ私はレッドとブルーの尋常じゃない強さを目の当たりにしているせいで命を懸けているって感覚が麻痺してるけど――。一般の人はそんな細かい事は良くわからないだろうし……。
それにそんな都合よくすぐに応募がくるなんて思ってなかったのも事実だけど、さすがに2週間もこないとなるとこれはもう応募がないと判断した方がいい。
なのでまた緊急ミーティングである。
んでミーティングは別にいいんだけどレッドとブルー……あんた達さぁ、イエローとグリーンが殉食したのに良く平気な顔してカレーをパクパク食べられるわね? しかもおかわりしてるし……。まあ、そんな事言ってたら一生カレー食べられなくなるから食うなとは言わないけど、せめてミーティングの時はやめとこーよ……。
と。勝手に踏ん切りをつけたところで。
「でさぁレッド。求人出してから誰も応募してこないんだけど――どんな内容ってか、どんな条件で求人だしたの?」
確かにさっきの理由から誰も応募してこない説はある。けど、それだけじゃなくてこっちが出してる条件が悪かったり厳しい可能性を私は考慮していなかったのでレッドに訊ねてみたワケなんだけど……とゆーかもっと早くこれは確認しておくべきだった。
んでレッドの返答だけど。
「口で説明するより見た方が早いだろう。ちょっと待ってろ」
とレッドがズボンのポケットからスマホを取り出すと何やら弄りだし――
「あったコレだ」
言って私に向けてスマホをテーブルへと置いた。途端に覗き込む私とブルーだけど。
「――!」
私は目を丸くした。
ちょ、ちょっと待った。そりゃーこりゃ誰も応募してこないわな……一言で言っちゃえば不明瞭過ぎる。だけど今一番問題なのはそんな事じゃない! 求人は後でかけ直すとして、真っ先に解決しなきゃいけない事案が発生した。なんで今までコレに気が付かなかったんだろう?
という疑問を私は率直にレッドとブルーにぶつけてみた。
「ね、ねぇ。あのさ私達のコンセプトってかモチーフってなんなの?」
「コンセプト?」
「モチーフ?」
レッドとブルーが順々に頭に疑問符を浮かべるなか私は続ける。
「うん、そう。普通さ戦隊ヒーローってモチーフになってる物があるじゃない? 例えば忍者とか恐竜、あとは乗り物とか動物とか。で、それに基づいて何々戦隊何々ジャーとかって名前になるじゃん?」
――そう。私達には戦隊名がない。そしてモチーフとなる物もない。だからレッドの求人を見た時に当然それらが載っていなく、今更ながら戦隊名がない事に私は気が付いた。だから質問してみたんだけど――レッド達の答えは?
レッドとブルーは互いに顔を見合わせると、揃って私へと向き直り――レッドの方が口を開く。
「俺達のモチーフって……そりゃ食べ物だろ?」
「食べ物っ!?」
――あっ!
私はハッとするもすぐに顔の前で片手を振り。
「いやいやいやいや。確かにイエローとグリーンはカレーだったけど私達関係ないじゃん。てかアイツらの場合モチーフどころか食べ物その物だったじゃん」
と言ってみたところ、傍からブルーが非常に申し訳なさそうに。
「いや、待たれよピンク殿。言っていませんでしたが実は――私の本名は『ビーフ・ストロガノフ』というのです」
ビ、ビーフ・ストロガノフ! た、確かに食べ物だしちょっと魔王っポイけども……と考えていると。
「レッド殿。レッド殿の本名は何と言うので?」
「ん? 俺か? 俺は『梅干し』だ』
うめぼしっ! よりにもよって勇者ウメボシだとっ!?
驚愕の本名に目をひん剥く私だけど、何とか気持ちを落ち着かせ次の言葉を絞り出す。
「じゃ、じゃあ何? 私達って『美食戦隊グルメンジャー』とかなの?」
するとレッドはキョトンとした表情で。
「いや、そこは普通に『炊きたて戦隊炊飯ジャー』でいいだろ?」
普通っ? フツーってなにっ? てかそれただのダジャレじゃん!
と、声に出してやろうかと思ったけどそれより先に。
「いやレッド殿。その前に確認するべき事があるのでは?」
とブルー。この期に及んでなんの確認が必要なのかと思っているとレッドも同じ心境だったのか。
「なんだブルー? なんの確認だ?」
とレッドがブルーに問い返す。するとブルーは徐に口を開き。
「それは勿論、我々はまだピンク殿の本名を伺っていないという事です」
『あっ!』
私とレッドの声が重なった。
くっそ〜この流れで本名を教えたくはなかった。別に名前を教える事自体はいいんだけど、今言ったら決定的になってしまう……。でも、教えない訳にもいかないし……。
「それでどうなんだピンク? お前の本名はなんて言うんだ?」
レッドの質問に私は俯き加減で零す。
「私の名前は……よ」
『ん?』
ごにょる私に聴こえなかったか、レッドとブルーが片耳に手を当て身を乗り出してくる。なので私は意を決して。
「私の名前は『
――途端。レッドとブルーがソファーの背もたれに倒れ込んだ。
「……あ〜残念!」
「食べ物じゃなかったか……」
な ん で よ !
「メチャメチャ食べ物じゃん! おいしーでしょーが鰯のつみれっ!」
と。叫んでから気が付いた。食べ物じゃないフリしとけばよかったと。そうすれば『炊き立て戦隊炊飯ジャー』は100%避けられた……ホントなんなのコイツ等。会話すんの疲れるわ……。
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