第二章

第1話

「──お前が御堂伊織か。私はお前のクラス2年E組を受け持つ円堂まどかだ。宜しくな」 


 飾り気のない臙脂色のジャージ姿の女性が、やんわりと告げた。


 伊織は学生課での編入手続き後、寮に荷物を置いたその足で職員室を訪れたのだ。そこで伊織を迎えたのが、この女性と言う訳だ。


 女性──円堂は小顔で凛として、目元は柔らかい。若々しさと大人っぽさを兼ね備え、気さくフランクな口調も相まって親しみやすい印象だ。


「こちらこそよろしくお願いします」 


 伊織は戸惑いつつも、ぎこちなく頭を下げた。円堂は片手をひらひらと振る。礼はいいと言わんばかりだ。空いてる手で机に空のカップを置いた後、椅子から立ち上がった。


「早速だが、そろそろ一限目だ。行こうか」


 顎をしゃくりながら伊織を促し、歩き出す。慌てて伊織も続いた。


 円堂は職員室のスライド式扉いわゆる引き戸をガラガラと開け、廊下へ出る。黒い出席簿を小脇に、廊下を悠然と歩き出した。ちゃんとついてきてるか確認するように、ちらっと後ろを見ながら、


「つうか。保護観察とはいえ、こんな時期に編入とは大変だなあ。まぁ、よくあることっちゃあ、よくあることなんだが」


 ざっくばらんに話しかけた。


「なんかすいません」


 伊織はついつい謝ってしまう。


「真面目かっ!」


 円堂はさも楽しげに言葉を返しながら、笑い飛ばした。


「つうか。お前、真面目っつうか、まともっつうか」


 感心したように、物珍しげな視線で続ける。「つうか」が口癖なのだろうか。


「まとも?」


 鸚鵡のように、伊織は反芻した。


「いや、うちの二年E組にはまともな奴が、一人もいないつうか」


 思わず円堂は愚痴めいた発言を零した。どうやら少しばかり口を滑らせたようだ。


 この学園はAを筆頭には成績順に組が分けられる。高い災能力パンドラを持ちながら、精神、肉体に靈念障害いわゆる靈障を抱える2E(二重に例外)、要は力をもった問題児は漏れなくE組に集められるのだ。 


「えっ?そんなヤバいんですが?その2年E組って」

    

「なにせ2E・・だからなっ。まあ、気にするな。戯言だ」


 円堂は何かを含む口調で、伊織の不安げな声を聞き流した。


「えっ気になりますよ。そんなヤバいんですが?」


 必死の形相で言い募る伊織へ背を向けたまま、


「まぁ、入りゃてみりゃ分かるさ」


 投げやりに返事を寄越した。ちょうど予鈴が鳴り響き、伊織の追及の声を遮る。話してる暇はないと言わんばかりに、円堂は突き当りの階段に足をかけた。


 無言で一段一段、階段を螺旋状に登る。二階に上がり、長い廊下を進んだ。


 ずんずんと進むと2年E組と書かれた学級表札プレートでピタリと止まる。伊織に「少しここで待ってろ」と告げた後、ガラガラと引き戸を開け、中へ消えた。

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