第2話

「そこに突っ立っていると通学の邪魔になるのですが。それとも貴方、案山子か何かなのですか?頭に藁か何か詰まっているのですか?」


「!?」


 唐突に辛辣な毒舌を浴びせられ、伊織は思わず振り返った。


「え?お前は……」


「ん?貴方は……」


 驚き冷めやらぬ内に、更なる驚きが伊織を襲う。そこにはいたのは──あの災能力取扱官ハンドラだった。雪女を想起させる美しくも冷たいショートボブカットの美少女。自分を逮捕した人間だ。間違えようがない。


(確か……柊望美ひいらぎのぞみだっけ。でもなんでこいつがここに?)


 視線を空中に向け、想起しながら、その脳裏を疑問が掠めた。


「……誰ですか?いきなり人をお前呼ばわりするなんて」


「覚えてねえのかよ!?」


「あのこれ新手のナンパですか?やめて下さい。むしろ死んで下さい」


「ナンパじゃねえから!俺だよ俺!覚えてるだろ?お前が逮捕した御堂伊織みどういおりだよ」


「……オレオレ詐欺でですよね?」


「違うわ!」


 打てば響く言葉の応酬に、何やら人が集まって来た。正門の前で騒いでるせいだろう。伊織の顔がやや紅潮する。


「ごめんなさい。ナンパはお断りします。生理的に無理なんで。では」


 柊もはたと気づくと、おざなりに会話を切った。臆面もなく、踵を返す。


「ちょっ!ナンパじゃねえから!ナンパじゃねえから!」


 思わず異を唱える。このまま逃げようなんてそうは問屋が卸さない。


 躍起になって、伊織は柊を追いかけた。周囲特に女生徒の生暖かい視線と「あの柊さんをナンパだって」というどこか感心したような囁き声に居た堪れなくなったのだろう。


 捕まえて文句の一つも言ってやりたいのは山々だが、伊織には大事な用事があるようだ。途中で足を止め、顔に苦渋を滲ませながら、昇降口へと吸い込まれる柊を見送る。


 気持ちを切り替えるように、溜め息をついた後、伊織は校門から一つめの道を左に曲がった。一旦立ち止まり、《腕環アクセス》を起動。見取り図が、立体影像ホロウグラムとして空中へ投射される。


 どうやらここがお目当て──学生課の受付がある棟のようだ。無機質なコンクリートのエントランスに吸い込まれ、伊織の姿は見えなくなった。

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