第一章
第1話
ようやく足が地に付いた。生活などが落ち着くという意味ではない。文字通りの意味だ。
只の島ではない。雪の結晶〈✻〉のように、中央の正六角形を中心に、それぞれ六方向に突き出した
伊織はどんよりと曇った梅雨空の下、潮風を浴びながら、ふらふらと船を降りた。そして足を地──コンクリートの桟橋──につけたという訳だ。
船酔い気味というのもあるだろう。足が地につくという気分には程遠い。なにせ、新生活が待っているのだ。これから向かう場所を思えば、むしろ不安しかない。
伊織はやや青ざめた顔で、周りを見渡した。だだっ広い殺風景な港だ。今にも降り出しそうな梅雨空の下、皆、ぞろぞろと歩いて行く。大きな黒いボストンバッグを背負い直すと、子牛が無理やり売られるように、伊織も続いた。しばらく行くと、バスの停留所が見えて来る。
バスの停留所で列に並びながら、しばらく手持ち無沙汰になった。
今まで
人為災害監視保護制度に基づき、
つらつらと詮無きことを考えていると、バスがやって来た。整理券を取りながら、乗り込む。しばらくするとバスが動き出した。
揺られること三十分程。
「──次は
ウトウトと船を漕いでいた所、バスのアナウンスが鳴り響いた。降車ボタンのブザー音がすぐ近くで鳴る。はっと顔を上げると、バスのドアが開くところだった。
伊織は「降ります、降ります!」と言いながら、予め用意した小銭と整理券を運賃箱に入れる。バスのステップを降りると、目の前には大きな建物群が広がっていた。
能力開発特別支援学校「
能力開発訓練による矯正教育、社会復帰支援を掲げ、靈念障害(不要な
その敷地は莫大な面積を誇り、
全国の能力開発特別支援学校の中でも、徹底した能力主義で有名で、生徒は皆、顕在能力(具体的な課題遂行能力)のみならず、潜在能力、災能力取扱資格検定の知識、実地訓練、生活態度などにより査定され、
それが
「……はぁ」
その広さに驚きを通り越して溜め息をつく。格式が高そうな門は見るものを威圧し、伊織の漠然とした不安が形を成したようだ。
想いとは対照的に門の向こう側には、緑がそこかしこにあった。銅像が置かれた噴水では、水飛沫が上がり、梅雨空にも関わらず、どこか牧歌的な風景を象っている。風景に溶け込むように、中世を思わせるレトロな雰囲気の煉瓦造の校舎が佇んでいた。
気圧されたように、伊織は足を止める。その側を学園生が通り越していった。伊織も深呼吸した後、眦を決し歩き出そうとする。
「ちょっとそこの貴方」
その瞬間を見計らったように声が掛かった。
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