第62話 灰色のローブの男
炎上する町の道端にイザークの首が打ち捨てられていた。その開かれた両の目に一人の男が映る。灰色のローブを頭からかぶっているその男は、上から見下すように、イザークの顔をギロリと睨んだ。
「いつまでそうしているつもりだ?」
男が低い声でいうと、イザークの首がククク、アハハハと笑い出した。
「なにが可笑しい?」
「いやいや、愉快愉快。まさかこの地にあなたがやってくるとはと思いましてね」
すると、首を失ったイザークの胴体がすくっと起き上がり、首の元にやってくると、両手で慎重に拾い上げ、首を元ある場所に戻した。骨と骨、血管と血管、肉と肉——いったん離れたそれらは互いを求めるように結びつき、最後に皮膚と皮膚がつながると、まったく何事もなかったかのように、元に戻ってしまった。
イザークは服のほこりを払った。
「この有り様はなんだ?」
「余興ですよ。ですが、フィナーレを迎える前に首を斬られてしまいまして……」
「仕損じたのか?」
「ええ。機転のきく男で……ただまあ、助けがなければ首が落ちていたのは向こうでしょう」
「見苦しい言い訳だ」
「ですね」
イザークは自嘲するようにフフッと笑った。
「ですが、私が敗れるなどいつぶりでしょうか。なんだかまだ高揚しております。ああ、ああ、あれぞ本当の殺し合い。しばらく忘れていた戦いの興奮……だから、すごく今気分がいいのです! ああ、次は私が彼を殺して差し上げたい」
イザークは興奮して早口にいったが、そのあとふと冷静な口調になった。
「しかし……人間の身でありながら、あそこまでの身のこなしと肉体の強靭さ……やはりあの女が関係しているのでしょうか?」
「…………」
灰色のローブの男は顎に手を置いた。
「そうやもしれぬ。すでにどこかで帰依したのであれば、あるいは……」
「あの男が『騎士』ですか? 卑怯で薄汚い暗殺者が、これはこれは……ククク、アハハハㇵッ!」
イザークが高笑いするも、灰色のローブの男はじっとなにかを考えていた。
「女の力が強まっているということか」
「ええ、おそらくは」
「ならば復活は近い……猶予はないやもしれぬ」
灰色のローブの男はそう言うと踵を返した。
「どちらに行かれるのです?」
「一度戻る——イザーク、くれぐれもやりすぎるな」
「承知」
「貴様はこれからどうする?」
「もう少し、残り火と朝日を楽しんでから次の任務へ向かいます」
「……悪趣味め」
「はい。それも重々承知しております」
灰色のローブの男はシュッと消えた。
イザークはニコリと笑って、昼日中の公園を散歩するように、燃える町をゆっくりと歩み出した。
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