第6話 彼女が不機嫌になった理由

 村長との話が終わって、エクトルは複雑な面持ちで家から出てきた。ただ、先刻の話はすっかりなかったことにしておいて、ミリーナには気取られない心づもりでいた。

 そうして、エクトルがミリーナに近づくと、そばにいた蝶たちが散り散りにどこかへと飛んでいった。ミリーナの目がエクトルに向いた。


「村長さんは、なんて?」

「仕事を紹介してくれるってさ。それと、ロイドさんのところに行けば住むところも世話をしてくれるそうだ」


 エクトルがそれだけいうと、ミリーナの眉根が寄った。


「ふぅん……それだけ?」

「……どうして不機嫌になったんだい?」

「嘘。私のことを話してたでしょ?」


 と、ミリーナは面白くなさそうにいった。

 エクトルは苦笑いを浮かべ、やれやれと腰に手を当てる。


「まいったな……どうしてわかるのさ?」

「窓から私を見ていた。眉をひそめていた。それだけでわかるもの」

「どうしてさ?」

「目よ」

「目……?」

「あなただけが村長に挨拶にくるわけじゃないもの。わかるでしょ? 何度か経験があるの。誰かを連れてきてここで待っていると、村長さんと話し終わったあとに、私を見るときの目の変わる」


 エクトルは、なるほどと納得した。


「俺の目つきが変わって、拗ねているのかい?」

「べつに……でも、面白くはないわ」

「そうだね……でも、目には種類がある。俺は君に対して恐怖や偏見を持った目を向けていないよ」

「じゃあ、その目はなに?」

「興味だよ。ないふりをしようとしたけれど、やっぱり興味があってね」


 そう言うと、エクトルは手を差し伸べて、ミリーナを引っ張って立たせた。ミリーナはスカートの土を払うと、じっとエクトルの目を見た。


「魔法に興味がおありなの? 旅の剣士、エクトル殿……」


 からかうわけでもなく、残念そうにそう言うと、ミリーナはツンとした態度でそっぽを向く。エクトルは苦笑いで鼻から息を吐いた。


「君は……ミリーナには、精霊の声が聞こえるのかい?」

「……本当に、興味あるの?」

「ああ。君から話を聞くことができれば、物書きの役に立つかと思ってね」

「つくり話なんかじゃない」

「わかってる。君を馬鹿にするつもりはないよ。よかったら聞かせてもらえないか? 精霊の声の話」


 ミリーナは警戒するようにエクトルを見たあと、再び顔を近づけてエクトルの両の目を見つめた。彼女のガラス細工のようなエメラルドの目に、エクトルの戸惑う顔が映る。こうも目を見つめてくるのは気まずいのもあるが、目線を外すことはしなかった。

 そうして、ようやく警戒が解けたのか、ミリーナはクスッと笑った。


「あなたって変わってるわね?」

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