第一章 天才薬師のヴァイオレット③
一生分に感じるほど
そのため、ヴァイオレットは何度も何度も「つま?」「つ、ま?」「妻?」と同じ言葉を
「ふっ……ヴァイオレット嬢、大丈夫か? 突然のことで
シュヴァリエから求婚されて、
いつの間にか立ち上がり、こちらを優しげな
「本当にすまないな、突然。しかも、こんなに大勢の人前で……婚約解消の話をしていた直後に、求婚だなんて」
「あの、その……失礼なのですが、
「悪いが
「……っ、ほ、本気で……妻に……」
シュヴァリエは再びヴァイオレットの手を取ると、ギュッと
「……そう。俺は本気だ。どうか、俺の求婚を受け入れてくれないだろうか」
「で、ですが、私はダッサム殿下から婚約
シュヴァリエの求婚には、確かに驚いた。
けれど、ダッサムとは
能力を認めてくれたり、褒めてくれたりしたことも嬉しかった。ダッサムと婚約を解消してもいずれ
(けれど……こんなに大勢の前で婚約破棄と言われてしまった私は、社交界で傷物
だから、ヴァイオレットは本心を
「シュヴァリエ皇帝陛下! ご無事でなによりでした! いやー! 良かった! しかし、こんな女に求婚などと、まだ体調は
マナカの
「……っ、ダッサム殿下! 私のことはなんと
「
「……っ、ですから! それではいけないのです……!」
ダッサムの暴走をマナカは止める気はないのか、ダッサムを
ダッサムとマナカでこの国の未来は
「本当に申し訳ございません……! シュヴァリエ皇帝陛下、
「……いや、ヴァイオレット
地を
なにも
「……俺は
「!? シュヴァリエ皇帝陛下! それはやめていただけませんか!? あっ、そうだ! 魔力酔い? については謝罪しますから、どうか今日のことは私の両親には内密に……!」
ヘコヘコと謝り出したダッサムに、シュヴァリエは大きな
「……ハァ。こんなに大勢の前で起きたことを、なにをどう内密にするか逆に教えてほしいくらいだが、まあそれは良い。それに、どうせ謝るのならばヴァイオレット嬢に諌められた時に
「と、言いますと……?」
ヴァイオレットも疑問に思いシュヴァリエに視線を寄せれば、彼はヴァイオレットに
「ヴァイオレット嬢を大勢の前で
怒りを
ヴァイオレットはシュヴァリエの気遣いが嬉しくて、一瞬鼻の奥がツンとした。けれど、この場では
「そ、それは……! ヴァイオレットが悪くて、それに、マナカは
「ヴァイオレット嬢の婚約者だったはずの貴殿は、一体彼女のなにを見てきたのだか。国のため、民のため、身を粉にしてきた彼女が、国の発展や平和に
「……っ、そ、そんなっ!!」
「ダッサ……」
皇帝として声を
それからダッサムは、すっかり大人しくなり、マナカに支えられながら、
よほどシュヴァリエが怖かったのだろうか。それとも、両親──現国王と
(まあ、最後の最後に私を
どうせこのパーティーで起こったことは、全てヴァイオレットが悪いのだと思っているに違いない。
ヴァイオレットが婚約破棄された事実を悲しみ、ダッサムに
長年ダッサムの婚約者だったヴァイオレットには、彼の考えが手に取るように分かった。
(これを機に少しはご自身の
ダッサムが出て行った
そしてヴァイオレットは、その声の主に再び頭を下げた。
「シュヴァリエ皇帝陛下。改めて、この度は危険な目に
「……何度も言うが、
「……っ! み、未来……っ」
(って、待って? ダッサム
シュヴァリエの
「その、
それからヴァイオレットは
自身の感情はどうあれ、婚約破棄された自分が皇帝の妻になるのはシュヴァリエにとって良くないだろうと、再び断ろうとした、その時だった。
シュヴァリエはヴァイオレットの耳元に顔を寄せて、囁いた。
「どうか断らないでくれ。貴女を妻にしたいのには、もう一つ大きな理由──事情があってな」
「事情……?」
やや
「ああ。実は我がリーガル
「……! 決まりですか?」
そのとある決まりとやらがあるから、もしかしたらシュヴァリエは今まで
「実は、皇帝は
「……!? それって、つまり──」
「ヴァイオレット嬢が俺の妻になってくれないと、俺は一生独身だということだ。……皇帝という立場である以上、死ぬまで独身というのはさすがにな。ということで、ヴァイオレット嬢」
(ああ、なるほど。そういうことだったのね)
ヴァイオレットは、この段階で全てを理解した。
おそらく自身はシュヴァリエに人として
けれど、シュヴァリエが求婚してきた本当の理由は、皇帝の配偶者選びの決まりがあるからなのだと。
このことを耳打ちで打ち明けて、
皇帝という立場の事情、自身への
「──改めて、俺の妻になってくれないだろうか」
耳元から
ヴァイオレットは口の
「……はい、もちろんでございます。シュヴァリエ皇帝陛下」
そして、ヴァイオレットは様々な感情を胸の奥にしまい込み、その求婚を受け入れた。
「ありがとう! ヴァイオレット嬢! 絶対に幸せにするから」
まるで、長年の
──ヴァイオレットはこの時、確かにシュヴァリエに
だから、シュヴァリエの求婚の意図が心から愛したからではなく、独特な配偶者の選定法のためだったとしても、受け入れることができた。
もちろん、求婚に事情があったということには、少なからず傷付いた。
けれど、自身が傷物
「絶対、絶対に幸せにするからな、ヴァイオレット嬢」
──だが、満面に笑みを浮かべ、幸せにすると
次いで、心に花が
(そう、よね。こんなに喜んでくださっているんだもの、理由はどうあれ、彼の妻として
シュヴァリエとの結婚や、これからの未来に不安がないわけではなかったけれど、きっと彼とならば
「はい……! これからよろしくお願い
そう感じたヴァイオレットは、シュヴァリエの節ばった大きな手をギュッと握り返した。
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