第14話Invader
◆
廃れた家々が連なる村。
いくつかのそれらを経由して、騎馬を駆る隊は早々と進軍する。
白の鎧を基調とした聖騎士達が、隊を束ねる自国の王を追い掛ける様に疾走して。
目指すはルベール城。
そんな中でアーシェが束ねていた聖騎士隊の副隊長である『シン・フローウィング』が王へと声を掛ける。
「カレン様!間もなく王都圏内です!」
はっきりとした口調の彼は、どこか幼げな容姿をしている。
実際まだ若く、短目の茶髪がそれを引き立てていた。
「ええ」
王を象徴する格式高い鞍の馬上で、長くウェーブの掛かった色素の薄い茶色の髪を風に靡かせながら。
王は淡白な返事をするのみで、視線も意識もずっと前方を向いたままであった。
そんな彼女に心なしか不安を感じたシンは、勇気を振り絞って心の内に秘めていた想いを吐露する。
「あ、あの、カレン様!……俺は、アーシェ隊長を尊敬してました。失礼な言い方かもしれないっすけど、歳は俺の方が一つ上なんですよね!だから、そんな隊長に甘えてた自分が情けないです。……悔しいです!」
言いながらシンは、不安なのは自分ではないかと自嘲気味に思った。
そんなシンの言葉を好意と受け取ったカレンが、やんわりと声を掛ける。
「シン。あなたはアーシェの誇りなの。あなたの事を話す時のあの子は、とても生き生きとしていたわ。だから、ごめんなさい。この戦いにあなたを巻き込むべきではなかったわね」
「な、何言ってるんですか!?俺だって隊長の仇を討ちたいに決まって──」
そこでカレンは優しく遮る。
「だからなのよ、シン。憎しみは人を、堕落させてしまうから」
振り返る度にいつも浮かぶのは、愛して止まなかったヒイロの姿。
けれど今は憎む事しか出来ない。
父の命を奪われ、戦争を引き起こし、それが起因となって終には最愛の妹の様な存在であったアーシェまでもを失った。
(アーシェ。ごめんなさい、ごめんなさい……)
守れなかった。
いつだって自分を守ってくれていたのに。
もう二度と逢えないという心の苦しみ、悲しみ。
でもそれ以上に、アーシェが感じたであろう痛みの方が断然痛い。
あの子は最期に何を思ったのだろうか。
(憎まれたとしても、仕方ないわね)
内心で嘆くカレン。
でも本当は分かっている。
アーシェは自分をそんな風に想ってはくれない。
(いっそ憎んで貰いたい。呪って貰いたい。何でもいいから、責めて貰いたい)
溢れそうな筈なのに、涙は一滴足りとも流れてはくれなかった。
少しでも泣けたなら、少しは楽になったかもしれない。
だからこれは罰なのだ。
人々を断罪し続けた自分が、一番罪を背負っているのだという証――。
これから戦争をしに向かっていると言うのに、陰鬱とした空気に包まれてしまっていた。
けれどそんなカレンは、違和感に気づき始める。
「……おかしいわね。この国がこんなにも手薄だなんて——」
「ん?何、おわっ!皆、止まれっ!!」
聖騎士達がシンの号令により、急遽スピードを落とした。
それは目の前の道が、人の群れで塞がれていたからだった。
その群れの中から一人の少年がこちらに語り掛けてくる。
「あー、えっと何やっけ。あ、そや。えー、コホン。ここから先は通さんぞー。われわれの指示にしたがってもらおー」
黒髪が伸びきった少年の言動は、これでもかと言うくらい気だるげで棒読みだった。
それにイラッときたシンが口を出す。
「はぁ!?何だお前は!いいからさっさと道を開けろ!」
「それはできないなー。なぜなら、えっと、何やっけ」
忘れてしまったセリフを教える様にして、周りの仲間であろう人物から耳打ちされる少年。
思い出したと言わんばかりの態度を見せ、そのままセリフを読み上げる。
「なぜなら、おまえたちに勝ち目はないからだー。さあ、おとなしくこの“大陸”をあけわたせー」
(大陸?……まさか)
カレンが考えるのも束の間、男達が武器を取り出した。
それに対してこちらも素早く構える。
「カレン様、どうします?こんな連中に構ってる場合じゃないんですけどね」
「……シン、聖騎士隊はあなたに任せます。彼らを足止めして」
「えっ!?カレン様はどうするんですか!?」
シンの問いに、王は悠然と答える。
「私は、ルベール城へ向かいます」
そう告げたカレンは方向転換させた騎馬を単騎で走らせる。
「ちょっ!って、ええ!?カレン様ー!!単独行動は怒られますよー!!」
シンの声が響き、カレンの耳へと届くが振り返らない。
(ほんと、その通りね。叱って欲しいくらいだわ)
国を治める立場の人間が取る行動ではない。
そもそも自分勝手な事しかして来なかった自らの行いに対しても。
望んでこの立場にいるのではないという言い訳は通らない事だって、百も承知なのだ。
けれどカレンは思う。
どう足掻いたところで、人間は愚かだと。
(そう。あなたを想わないでいられるなんて、……ムリよ)
それはアーシェだけに向けられた言葉ではないのだが。
今はただあの子を傷付けた者の罪に、罰を降す為に駆けるのであった──。
◆
ルベール城内部にて。
少なからず残っていた衛兵を一頻り黙らせたカレンは、敵国の王が居るであろう場所を目指す。
ギィイ、と軋む音を立てて開いた大扉の先に、豪華な装飾が施された寝具の上で横たわる女の姿を捕捉する。
ゆっくりと近づきながらカレンは女の名前を呼び、語り始める。
「エリカ・ルベール国王陛下。此度は我が国の者が粗相を働いてしまった事、深くお詫び申し上げます。ですがどうやら其方にも問題があった様ですね。故に私、カレン・ローライトがその責を取り、公平な処罰と致しましょう」
右手に青い光が帯びる。
と、その時。
王の間にて声が響いた。
「──何が公平な処罰よ。貴女の家臣の命と、王であるわたくしの危篤状態で、もう既に痛み分けじゃない」
そう言ってエリカは上体を起こし、フラフラとした足取りで立ち上がった。
「まったく、とんだ厄日だったわ。まだ身体中が痛いのよ。ついさっき、動ける様にはなったのだけれどね」
そんな満身創痍のエリカに対し、カレンは余裕たっぷりの悠々自適な発言をする。
「ねえ、この部屋に椅子は無いのかしら?急いで来たものだから、少し疲れてしまったの」
「はあ?」
呆気に取られるエリカ。
こいつは来て早々何を言ってるのかといった顔つきで、続きに耳を傾ける。
「あと喉も乾いたわ。お茶を頂きたいのだけれど」
「だから何で客人面なのよ?王の間に堂々と、不法侵入で死罪でもおかしくはないでしょう?」
苛立ちを覚えるエリカ。
本来であるなら招待もなく入れば当然そうなるだろう。
けれどカレンは別に挑発をしている訳ではない。
こちらの言葉に耳を傾けさせることが目的だ。
そしてカレンは無表情のまま淡々と告げる。
「気付いているかしら?今この国に、“ 外の大陸”から来た者達がいる。これがどういう意味か、あなたならわかるでしょう?」
一瞬の静寂。
思案顔になったエリカに対し、カレンは続ける。
「私にはあなたを許す気はない。殺すつもりでここに来た。けれど事態が事態なの。今ここで手を打たなければ、この地で暮らして行けなくなるわ」
この世界において大陸は幾つか存在している。
けれどこの地の者は隣の大陸しか知っておらず、そしてそこには何も無かったというのが各国での常識である。
しかし実は王族、或いはごく少数の階級の者たちは知っていた。
かつて隣の大陸にはここと同じように人々が暮らしていたこと。
更にはその先にも海を越えて様々な陸地が存在していることも。
そして先ほどの少年の発言は、侵略を目的にやってきたということであった。
ならば最早三つ巴の争いなどしている場合ではないと判断した。
それがカレンなりに出したケジメと覚悟であった。
「で?わたくしにどうしろと?」
「この国を今すぐに放棄して。これを以て公平な処罰とします」
「……はあ?」
カレンの提案があまりにも突拍子のないものに聞こえたエリカ。
けれどその意図に気付けない程、この王も無能ではない。
「今アーシェの鍛え上げた聖騎士隊が足止めをしてくれている。だから今の内に、国民へ避難勧告を出して──」
「ロレイヌに逃がせ、と?」
言葉の先を言ったエリカにカレンは頷く。
けれどエリカには直ぐに疑問が生じた。
「でもそれってどうなの?そっちが絶対に安全だなんて事はないでしょう?貴女の狙いは、戦力の集約なのだろうけど。それにクリムはどうするの?」
「……それは──」
「それは問題ない。今頃、騎士団長が戻ってる頃だ」
突然現れた人物に、二人は絶句した。
「悪いが説明は動きながらする。ルベール王は直ぐに国の者達に指示を。カレン、お前は一度聖騎士隊と合流しろ。言っとくが外の奴らは強い。ここではまだない教訓を得てるからな」
「「……。」」
目を丸くしてこちらを伺う彼女達は、未だに絶句状態だ。
どうやら口を動かす事を忘れてしまったらしい。
「あー。わかった、こうしよう。お前達は今から俺の下僕だ。飲み物、と言ったら持ってこい。肩を揉め、と言ったら精一杯揉め」
「……いや、何でそんなに偉そうなのよ?」
「まったくね……。でも、おかげで思い出せたわ。喋れるのだったわね」
いきなりの介入に戸惑いを見せるも、何とか立て直した二人の国王。
そんな彼女らを確認したヒイロは、着実に手を伸ばし始める。
番狂わせを狙う為の、“未来の仲間達”へと──。
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