第8話Rebellion

「ようこそ。ここが僕ら反抗組織『リベリオン』のアジトだよ」

「……思ってたのと違うなぁ」

辺りを見渡す。

見るからに貧しい集落、といった様相の建物が建ち並ぶ。

しっかりとした石や煉瓦の積み重なる家々。

けれどお世辞にも立派とは言えない程、割れたり欠けたりしてどこもボロボロだった。

三国を敵視しているというぐらいだから、緋色はもっとそれなりに強大な組織をイメージしていた。

なので少しだけ拍子抜けをするのは、これから先生き抜けるかまで考えてしまうからだ。

「ああ、これはカモフラージュ。と言いたいところだけど、何せ出来たばかりの組織だからね。廃村を見繕うので精一杯なのさ」

やれやれといった仕草をしながらヨハンが目的地へと促す。

「今から君には僕らのリーダーに会ってもらう。君の事情はそれから聞かせて貰いたい」

「あ、ああ……」

一抹の不安。

自分はどの様な扱いを受けるのか。

ヨハンと言う男がよほどの演技力に長けていない限り、死活問題からようやく解放されるのだろう。

だがもし万が一騙されていたならば。

何にしろ進まなければ死ぬだけだ。


この村では一番大きな建物、その内部の扉前にて。

ヨハンはノックも早々に、中へと声を掛ける。

「ライル、お客さんを連れて来た。入ってもいいかい?」

「──ああ」

奥から発せられた人物の声は、少し低めの男性のものだった。

ギィ、と錆びた金具の様な音を立てて開かれた扉。

数名の戦闘員が待機する中で、ふてぶてしく椅子に腰掛けるリーダーらしき男がとても鋭い目付きでこちらを見た。

ライル・テイラーと言う名の、組織のトップである。

「……なるほど。ヨハン、そいつは本当に客か?」

「ああ、もちろんだよ。見ての通り彼は有名人だ。けれどどうやら訳ありみたいでね」

ヨハンとライルのやり取りを聞きながら、心拍数が上がっていく。

やはり例の犯罪者と間違えられていた。

「ふむ。では話を聞こう、ヒイロ」

恐らくここで理解を得られなければ、もう誰も頼れる者はいないのだろう。

だが緋色はまず意を決して、率直な問い掛けをする。

「……その前に聞きたい。どうしてあんた達は他の奴らと違うんだ?さんざん目の敵にされてきたから不思議なんだが」

多分な疑念が見て取れたのだろうライルは、皮肉を混じえて返してくる。

「愚問だな。俺たちは貴様に用があって集った訳ではない。貴様が存在しようがしまいが、組織の目的は変わらん」

ヒイロに対して興味もない。

ならば自分は何故ここに呼ばれたのか。

「じゃあ何で俺の話を?」

「それも愚問だな。情報は多い方が有利だ。ましてや貴様のような大罪人のものなら尚更だ」

大罪人。

そのワードがどういう意味を持つのか、どれくらいの重みがあるのか。

何も理解していない緋色ではあるが、これまでの人たちとのやり取りを思い返せばいい加減理解できる事がある。

「……やっぱりこの時代のヒイロって奴は、相当悪い事をしたみたいだな」

「この時代、とは?」

自然と漏らした言葉を空かさず拾ったライルに、緋色はゆっくりと語り出す。

「実は──」


「……とても信じられんな」

一頻り自分がここにいる経緯を話終えた緋色は、固唾を飲んでライルの反応を伺っていた。

するとヨハンが横やりを入れて緋色を庇う。

「けれどライル。今この場にいる彼が噂のヒイロだとはとても思えないんじゃないかい?」

腕を組んで考え込むも、ライルの出した結論は意外なものだった。

「ふむ。ならば一度、試してみるか。ヒイロもまた能力保持者だったと聞く。貴様は能力が使えるのか?」

「能力?」

それは何なのか。

疑問一色の顔になるのも無理はないだろう。

何せ緋色は知らないし使えないのだから。

いや、知らないから使えないと言うべきだろうか。

「……その反応をどう捉えるべきか。試しに誰かこいつと模擬戦を──」

「ラ、ライルさん!不味いです、“死にたがり”が!ルベール王が現れたようです!」

部屋へ飛び込んで来るなり、部下が必死の形相で知らせてきた。

ライルの表情が一瞬で緊迫感を表した。

「ちっ!この場所が割れたか!?」

「わかりませんが、どうやら交戦中みたいでして……」

「交戦中?誰だその無謀な奴は」

ルベール王と一戦交えようなど、通常であれば気が狂った者だ。

それくらいにエリカと言う人物は、何処においても常軌を逸した力の持ち主で知られている。

そこから付けられた異名が“死にたがり”であった。

本人がそうなのではなく、エリカと事を構える者は皆「殺してくれ」と懇願する羽目になる為、等しく死にたがらせてしまうと言う畏怖が込められた異名だ。

それに対し、部下が情報を付け足す。

「それが恐らくは、ロレイヌのアーシェ・クロードかと」

「くくっ。ルベールのトップとロレイヌのNo.2が、わざわざクリムの近くで喧嘩かい?」

「……はぁ。笑い事じゃないぞ」

ヨハンが面白いと言った反応を示し、ライルがそれを制した。

けれど実際この辺りで交戦されては、ここが見つかってしまうのも時間の問題かもしれない。

反抗組織リベリオンも今はまだ力を蓄えている段階であり、国と直接事を構えては太刀打ちなど出来ない状況であった。

「仕方ない。見回りは最小限にして、残りの奴は屋内で待機だ。なるべく顔を晒すなよ」

「わかりました!」

直ぐ様立ち去り、部下は村全体へ指示を飛ばした。

そんな中で緋色は先程の二人であろう事に気づいた。

(さっき助けてくれた女の子だ。と言う事はあの女の方、王様だったのか)

苦悶の表情を浮かべる緋色。

自分を救ってくれた少女を見捨てても良いのだろうか、と。

良い訳はないのだが、今の自分にはどうする事も出来ない。

それにここにいる者にとっては敵視している対象なのだから、助けに行く筈もない。

罪悪感が胸に蔓延る。

けれど自分が行ったところで足手まといになるだけだ。

(そうだ、せっかく逃がしてもらったんだ。戻ったら逆に、あの子の好意を無駄にしてしまう)

緋色はそう割りきる事にした。

それに負けが決まった訳ではないだろう、と。

この時代での戦闘などわからないし、能力という物も謎でしかない。

でも。

「……俺、行くよ」

「何処にだ?」

緋色の漏らした呟きにライルがいち早く反応した。

そのまま緋色は続ける。

「あんたらに迷惑はかけない。方角を変えて回り込む。だから──」

「馬鹿が。行かせる訳がないだろう。誰か、こいつを牢に入れておけ」

そう言い放ったライルの指示を聞いた男たちにより、緋色は拘束される。

「おい、離せ!お前らには関係ない──っ!」

「連れて行け」

気絶した緋色は部屋から引きづられて行き。

そんなやり取りを眺めていた一人の男は、ただ薄い笑みを浮かべていた──。


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