第7話Last friend

少年には幼い頃から親友がいた。

常に正しく。

けれど時に理解が追い付かないほどの達観した考えを持つ親友が。

少年はこれからもこの親友と共にしていくのだろうと、そう信じていた。

けれど親友はどう思っているのか、何を考えているのか。

きっとこの問いかけがすべての始まりだったのだろうと少年は思った。


『君は知っているかい?この世界には、——が存在することを』




「ん……。そうか、眠ってたのか」

気を失っていた緋色。

目覚めて早々、先ほどまでのやり取りを思い出す。

これが夢であったならば、どんなに安堵できるだろうか。

けれどもうそんな希望的感覚も持ち合わせてはいない。

「これから、どうするか」

行く宛もなく、帰る場所もない。

そもそもこの時代に来た時から、既にそんな場所など在りはしなかったのだと今更ながらに思う。

何がどうしてこうなったのか。

順を追って考えたところで最早、大した意味もないのだろう。

そんな考えをしていた緋色に更なる人物が迫る。

「──君。どうしたんだい?」

一瞬、ビクッと身震いをして振り向く。

現れたのは、少し長めで色素の薄い茶色の髪をした、どこか儚げな印象を受ける男であった。

見たところ、自分と同い年ぐらいだろうか。

「……あんたは?」

もう怯えるのにも疲れた。

そんな訝しげに返す緋色に対し、男は顔色一つ変えずに続けた。

「僕はヨハン。この辺りの村で暮らしていてね。山菜を取りに回っていたら、偶然君を見つけたのさ」

当たり前のような初対面の挨拶が、逆に居心地を悪くさせる。

まともな会話が出来たのは精々ユリィくらいであり、けれどそれもまた恐ろしいまでの憎悪を垣間見てしまった。

そもそもこのヨハンと名乗った男は山菜らしき物など持っていないし、もう誰を信じていいのかも分からない。

疑ったところで答えは出ないしキリがない。

それにもう振り回されるのはウンザリだと、内心で思いながら言葉を発した。

「なるほど。それで?どっかの王様にでも報告するのか?」

けれどこの男の反応は意外なものであった。

「僕が、君を?どうしてだい?」

疑問を抱くのは当然だと言わんばかりの男に、こっちこそ疑問を抱きたいと思う。

「いや、どうしてって……。俺だって、わかんないっていうか」

自分でも何をどう説明すれば良いのか分からない。

そんな心境を察し、男は自身の置かれた現状を語り始めた。

「君がヒイロだって事は知っている。けれど国王に差し出す様な真似はしない」

「そう、なのか?」

疑問だらけの表情を見て取ったヨハンは、飄々とした素振りで続ける。

「神に誓って。何故なら僕は反抗組織の人間だからね。ああ、山菜取りは嘘だけど」

「反抗組織?」

それが何なのか。

だが言葉のニュアンスからして今までとは違う、全く別の集団なのかもしれない。

緋色の胸中で少しだけ火が灯ったような気がした。

「そう。僕らの組織はどこの国にも属さない。まあ言ってしまえば、三つの国すべてを敵視している集まりさ」

「……そんなのもあるのか」

「……どうやら何か事情がありそうだね。僕が聞いた噂では、ヒイロと言う一人の人間が悪事を尽くし、世界に争乱をもたらした。と言う内容だったけれど、とてもそんな風には見えない」

緋色は思案する。

ヨハンと名乗る男の言葉を果たして信じて良いのだろうかと。

けれど実際、頼れる人間が他にいない。

「見たところ行く宛もないのだろう?良ければ僕らのアジトに案内するよ」

期待と不安を半々に思いながらも緋色は頷く。

どうせここで野垂れ死ぬか、誰かに捕まって殺されるしかないのなら。

少しでも希望を持てる者に着いていく方がよっぽどマシだと。

そう選択した緋色を待つのは、より一層歪んだ陰謀の渦中であった──。


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