一④
「ああ、
「相変わらずの
こうして宮中を歩いているだけでそんな声が耳に届くので、
第一、同じ男の微笑みなど
「憂炎」
廊下を急ぎ足で進んでいた憂炎は顔を上げ、前方の人物の姿を認めて一礼する。
隆英と憂炎はともに二十二歳で、五つの
だが、今や
ほかの大臣と打ち合わせるためにやって来た憂炎は地味な黒い
「本日もご
「おまえも元気そうで何よりだ」
対する隆英が身につけている黄色の絹の長袍は、
一針一針心を込めた細かな
彼の後ろからは宦官がつき従い、
「どうなさいましたか、陛下」
「
「そろそろ宮女たちがやってくる季節ですので、いろいろと手配に追われています」
「宮女?」
憂炎の言葉に、隆英は
「あれは
「今年はいつもよりも宮女のなり手が少ないらしく、問題になっているのです。それで、どうにかならぬものかと財部のものと話しておりました」
財部とは国の財政を
頭を下げたまま憂炎が言うと、隆英は「顔を上げよ」と
「なぜだ? 働き手が余っているわけではないだろうが……」
この
宮女たちは王の
彼女たちは掃除や
しかし、
宮女から後宮に取り立てられる機会はほとんどないし、掃除と刺繍に明け暮れていては貴族に
特に地方の有力者にとっては、娘を宮女にするよりはほかの家に
宮女に旨みがないと正直に述べるのは、さすがに
「なるほど、孝行者揃いなのだな」
少しばかり
「そなたの言うとおりだ。あえて宮女となったものたちには手当てを
「給金は限度がありますが、先ほど申しあげたとおり
「うむ」
それくらいはかまわないだろうと、憂炎は軽く頭を下げた。
「それから、お妃選びの件もお忘れなく」
「また、それか。余には
隆英の正妻は
「それでは足りません。王族の力を
「……わかっている」
隆英の足許が盤石といえないのは、父の代で政争の末に相次いで兄弟が世を去ったためだ。その
子孫は多いほうがいい。
彼らが相争う可能性はあるものの、暘に危機が起きれば助け合うこともあろう。
貴族の史家、
「しかし妃が増えれば争いも増す。余は、それが
「それでも、です」
どうあっても争いを生まない
「面倒ではあるが、善処しよう」
隆英はどこか
「それにしても、おまえだって妻を娶っていないだろう。そのおまえに説かれるのはな」
「陛下に
自分に付き従うのではなく、ともに歩む女性と
「……なるほど」
「とにかく、今年の宮女が働きものであることを望みましょう」
「そうだな」
隆英には言っていないのだが、今年は宮女の数を例年より少しばかり減らしている。どのみち妃嬪が少ないのであれば、少々宮女が不足していても何とかやりくりはできる。それで経費を
いずれにしても、宮廷からこの国を変える。それが憂炎の目下の目的だった。
偽りの華は宮廷に咲く 和泉 桂/角川ビーンズ文庫 @beans
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