一③
あっさりと否定されてしまい、永雪は首を
「え? だって、師父は宦官でしょう」
「宦官になるためには、去勢して自分の
言われてみれば、一時の激情だけで宦官の道を選ぶのは得策ではなさそうだ。
「それじゃ、どうやって」
「宮女になれ」
「……は? 俺が!?」
宮女とは、宮廷で働く女性を指している。
「女装しろってことですか?」
「うむ。おまえは見目がよいから、成長して男らしくなるまでは宮女もできるだろう。そのあいだに父親の死の真相を
果たしてそんな真似が、可能なのか。
「確かに、
「昨日まで、わしが遠出していたのは知っているだろう?
「でも、宮女って後宮に入るんですよね? すぐにばれちゃいます」
さすがの永雪でも、後宮が存在する理由は学んでいる。しかし、師父は
「安心せよ、さすがに教養のない村の
「どっちにしたって、無理ですよ!」
「そこをどうにかするのがおまえの才覚じゃ」
そんな無責任な。
「いずれにせよ、わしに手伝えるのはそこまでだ」
「…………」
「宮廷は危険なところだ。けれども、おそらくこれ以外に懐宝の一件について知る手段はあるまい。どうする?」
無茶だ。あまりにも無謀すぎる。それじゃ、この村で
どう考えても、無茶な計画だった。
とはいえ、いくら何でも犯罪者の子どもが宮廷に
──勝算は、ないとはいえない。いや、あるのではないか。
「わかりました。だったら行きます。師父、どうか俺を手伝ってください」
「よかろう。だが、さっき言ったとおりに刻限を念頭に置くのだ」
「え?」
「おまえは春で十五になる。声変わりはするし、
「はい」
師父の言うことはもっともで、仕方なく永雪は頷いた。
「それから……名前も変えねばならぬな。雪中松柏にちなんで私がつけたが、永雪では
「…………」
永雪が目を瞠ったのは、その名前に覚えがあるからだった。
「母さんの、名前……」
「そうだ。そしてこの名は伝統があり、おまえにはふさわしい」
「師父がそうおっしゃるのなら」
厳しい雪の中であっても色を変えない松や柏のように、己の志を貫けという意の名を永雪は気に入っていた。
「花を憐れむのは人の行い。己の意味を決めるのは、己の行いじゃ」
「では、出かけるぞ。夜明け前に出なくては、追っ手に
「はい」
「よいか。生きていればどんなこともできる。それを忘れるな」
もしかしたら、呉師父に会うのは今日が最後かもしれない。
「ありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」
たとえもう二度と会えなかったとしても、教わったことは消えない。
それこそが、師の教えだ。
芽生えた小さな志は、これから自分の心に、脳に、
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