序
大国の
今も、あの高峰には龍が住むそうだ。
時には一つの国を焼き
雪は花を
「はあ……」
今や分厚い氷がかなり
春になれば、父が帰ってくる。
ここ、牟礼の村は暘の国でも辺境に位置している。
暘では複数の集落を束ねた一群が村と呼ばれ、村の集合が郡、そして郡をまとめたものは県となる。この牟礼は
彼は
得た金を自分のためだけでなく、自分がいないあいだに村の仕事をあれこれやってくれる
永雪にとって、懐宝は
一度家に水を置いた永雪は、村の大門へ向けて歩きだす。
日暮れが近いし、早くしなければ間に合わない。
「懐宝のお
「今日じゃまだ早えんじゃねえのかねえ」
あたりを行き
上は
「そうだな、迎えにいっておやり」
「はーい」
牟礼は小さな村で、
「今日もまだかなあ……」
そうしているうちにぐんぐん
そろそろ帰ろうと考えたき、道の奥に、黒っぽい
「父さーん!」
声を上げながら大きく手を
やはり、あれが懐宝だった。がっしりとした体格の懐宝は、
「ただいま、
身を
「お帰りなさい!」
「元気にしてたか? ほら、お
「なあに?」
手早く父が出した茶色い
「
「わあ! 高いんでしょう?」
「そりゃ高いけど、一人息子への大事なお土産だ。それに、父さんの囲碁の腕はこの国一番だからな」
懐宝は胸を張る。
「ねえ、俺にも碁を教えてよ」
「どうしてだ?」
「父さんみたいに、お金を稼ぎたいんだ。そうしたら、こんなところでしけた暮らしをしなくていいし」
「……阿雪」
懐宝は不意に真顔になって、永雪の両目を
「そんなことを言っちゃいけないよ」
「どうして?」
「碁打ちの中には、命を
「そっかあ……」
よくわからないまでも、確かに勝負ごとは苦手なので、
「そのうえおまえは顔が
「でも俺、父さんみたいに宇宙を手に入れたいよ」
「ああ……そうだな。
そう言ってから、懐宝は声を立てて笑った。
「ま、おまえの身の振り方は、そのうち、
「うん!」
呉師父は変わりものの老人で、こんな
「それに、この村は薬草が採れる。何かあったら、おまえは
「……そうだよね」
牟礼は北の土地なので、作付けできる作物が限られている。そのため、近くの高山に生える珍しい薬草を配合し、薬を作る技術を持ち合わせていた。
それらのおかげで、村人は厳しい
「よーし、帰ろう」
「はーい!」
父と連れ立って家路を
ささやかだが、これが自分の思い
永雪はそんな日々が、永遠に続くと思っていたのだ。
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