壱①
先帝から玉座を継いだ若き皇帝の
「……って、
そんな都の
両側にはどこまでも続く
「なんっでこんな大物の
叫びながらチラリと後ろに視線を投げれば、牛の頭に
──都のただ中でこんな目に
新人退魔師であることを示す黒い
──それだけ今の都の陰の気が
先の
そういった場には陰の気も人々の負の感情も
「いやでもこれは無理っ! 俺みたいなペーペーの二年次新人じゃ無理ぃぃぃっ!!」
今日の任務は、泉仙省の下っ
──いやいやいやいや! 『浄祓
元々新人の中でも落ちこぼれ気味である黄季に回されてくる仕事などたかが知れている。最悪の場合、浄祓呪を唱える口さえ動けば、
だというのに、なぜ今自分はその現場に
──何か対策を取らないと! いつまでも追い
それにこんなことをしていたらいつ
──いや、俺自身だって死にたいわけじゃないんだけども!
そんなことを思う黄季の視界の先に、運がいいのか悪いのか道のどん
路地の突き当たりにあったのは、いかにも
ここまで一本道だったことから考えると、もしかしてこの道は両側に広がっている
「……って! そんなこと考えてる場合でもないっ……よなっ!」
良くも悪くも腹を
──今、この状況で使えそうな
奥歯を
──これで!
その
──
「っ、『
その瞬間、背中にあったはずである門扉の
代わりに、トプンッと
──え?
まるで、何か
だがその変化に驚いていられたのもまた、ほんの一瞬だけだった。門扉と何かをすり抜けた黄季の体は、そのまま無防備に背後へ
「へぁっ!?」
「ふぉっ!?」
完全に体を支えきれなくなった黄季は、
「バッ!? ゲホッ……ゲホゲホッ!!」
幸いなことに、池の水深はそこまで深くなかった。必死に池底を
「ゴホッ……ゲホッ、コホッ……」
──……ここは?
呼吸が整ってきた黄季は、周囲に視線を
黄季が落ちたのは、広大な庭の中にしつらえられた池のようだった。どこまでも果てなく続く庭は美しく手入れがされていて、
妖怪の姿もなければ、黄季が背中を預けた門扉もなかった。それどころか、あんなに厳めしくそびえ立っていた門も、その左右を固めていた
外と内、という
──さっきの感触からして、術か何かで飛ばされたのか? いや、それよりも、あの感じから考えるに、多分結界か何かで……
「
そんな景色の中に、不意に声が響いた。
人の気配などなかった場所からいきなり飛んできた声に、黄季は池の中に立ったまま身構え、声の方を
そしてそのまま、大きく目を
「私の庭に無断で立ち入った、お前は誰だ?」
人が、いた。
男だ。長く
庭に向かって
そうでありながら、黄季を見やった
──この人……
『
無理やり言葉に表すならば、
だが貴仙の方は、そんな黄季の心境を理解してくれなかったらしい。
「語る気がないならば、
「……へ?」
その一瞬でまた、黄季の視界に映る景色は変わっていた。
耳に
それもそのはずで、黄季が立っていたのは都最大の市が立つ
「……俺、夢でも見てた?」
だが夢と言うには
──これは確実に飛ばされたなぁ。
──……まぁ、治安的にも気の巡り的にも絶対安全な場所を選んで、かつ人目につきにくいように飛ばしてくれてたんだとしたら、……まだ親切な方、だよ、な……?
考え込んでいたって仕方がない。
あの妖怪がどうなったのかという点だけは気がかりだが、正直あの場で黄季が対処を続けていたとしても返り
そう考えた黄季は、術で簡単に衣服の水を
……その時は、それでこの不思議な
その時は。
「……」
「えっと」
「…………」
「あの」
「………………」
「
「……それは昨日も聞いた」
──デスヨネッ!?
ついに五日連続で池に落ちることになった黄季は、
──っていうか、五日目にしてようやく成立した初回の会話がこれって……
「あの……ほんと連日すみません。俺も、池に
黄季はおずおずと両手を胸の高さまで上げると説明を試みた。
三日目までは初日同様に問答無用で庭から
「えっと……
初めて遭遇した時と同じように、庭よりも数段高い場所にある露台に置かれた寝椅子に体を預けたまま黄季の言葉を聞いていた男は、無言のまま不審そうに
──いや、でもだってさ、本当にそういう風にしか言えないし……
万年人手不足である泉仙省では、下っ
毎回現れる妖怪の姿は
ならば腕の立つ
──それができたらそもそも困ってないっつの!
「……心当たりはないのか」
「こうなるようになったきっかけに覚えはないのか、と
男は人形じみた顔に
間違いなく男から発せられている言葉に、黄季は思わず首を
──今まで完全に
一体どんな心変わりなのだろうか、と黄季は思わず問いに答えることも忘れて男のことを見つめた。そんな黄季の様子に男はわずかに目をすがめると言葉を足す。
「
「あ、そーゆーこと……」
「何かをもらった。どこかへ行った。いつもと違う行動をした。……何か思い当たることはないのか」
「何かって言われても……」
黄季だって退魔師の
──というか、この人、考え方がすごく退魔師っぽいな……
考えを
──こんな場所にいるくらいだし、ヒトじゃないか、同業者かなとは思ってたけど……
なんてことをひっそりと考えていたら、男の
──これはマズい。
「こ、ここ最近はずっと現場・職場と職場・家との往復ばっかだったし、
その一心から黄季は
「そもそも自分の
「呪具?」
そんな黄季の言葉に男が反応を示した。
「呪具と言えばお前、その
だが言葉は
男がハッと顔を上げる。この
貴仙のごとき顔に浮かんだ感情は『
その表情の意味に、黄季は数秒
「なっ……!?」
ゾクリと背筋を
反射的に黄季は池の外に飛び出ながら
その視線の先で、空が割れていた。
「っ!?」
大きく割り
その光景にサァッと黄季の血の気が引いた。
──まさか、俺が連れてきちゃったのか……!?
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