エリム・ノイヌーヴの甘い囁き♡

囁き・53

　なんだか店内が騒がしいわね。なにかあったのかしら……。

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　どうやら、年配の男性客が店員さんに文句を言っているようね。みんなでショッピングを楽しんで、甘いものを買って拠点で女子会をしようと立ち寄ったお店で異様な光景に遭遇してしまったわ……。

　なんとも不条理な文句と要求をしているみたいね……店内の雰囲気が最悪だわ。それにしても、このオシャレな店にそぐわない男性ね。白髪でメガネをかけて……６０代くらいの風貌かしら……この国のいかにも典型的な一般男性のスタイルね。

　最近この国で流行りのこういった現象を、カスタマーハラスメント、通称カスハラと言うらしいわね……まったくおかしな行為ね。

　もちろん、私達の世界でこんな滑稽な振る舞いをするなんて事は、誰もしないし、私達の世界では存在し得ない概念と行為だわ。

　そんなに怒って、怒鳴り散らして自分の要求が通るとでも思っているのかしら……隣で申し訳なさそうに俯（うつむ）いている奥様らしき女性がかわいそうね。

　なにか聞こえてきたわ……自分は国家公務員だ……最近定年退職した元エリートだ？　俺の言う事が正しい……俺の要求は正当性のあるものだ……

　この世界、この国では国家公務員という職業はそんなに偉い職種なのかしら？

　偉いからといって、理不尽な要求をするなんて正当性はないはずなのだけれど……。

　しかも定年退職して、国家公務員ではないのでしょう……それとも天下りでどこかの財団の役員とかになって、たいした仕事もなく、一日中新聞を読む事が仕事の毎日なのかしら？

　偉かったのはあなたではなくて、あなたの役職の肩書きじゃぁないかしら。

　そこにみんなが頭を下げていたという現実を知らないままに過ごしてきたのね。

　部下や仕事で関わった人達からの人望も、この様子だとなかったみたいね。本人はその事を気づかないまま、今に至っているのね。

　奥さんもかわいそうだわ……家庭でもきっと虐（しいた）げられてきたのかしら……独立した息子や娘さん達も、この父親じゃ、孫の顔を見せに行かないわよね。

　こういう家庭に限って先に奥さんが逝ってしまうのよね……残された当人は、自分のパンツがどこにあるのかもわからず、あたふたして、料理もまともにした事がない、全てを奥さん任せにしている典型的な古い人種なのでしょう……。

　そこで奮起して、自らを変革できるならいいのだけれど、未（いま）だに怒鳴り散らしているあの人は……まぁ無理な話ね……待ち受けているのは、悲惨な末路だわ。

　ところで、いったい何に文句を言っているのかしら？……えっ……買って家で箱を開けてみたら、ショートケーキのイチゴがホームページに載っているものと大きさが違う？　ですって？

　見ただけじゃ判別のつかないわずかな事象によくもそんなに怒れるわね……こんな差なんて誰も気にしないのではないかしら？

　それを、同じ大きさのイチゴが載っているショートケーキと交換しろ！　だの、店長を呼べ！　だの、あげく交換したケーキの代金は払わないだの、ここまでの交通費を払えだの、さらに怒りに任せて全く関係のない事まで店員さんに怒号を浴びせて、かなり理不尽な要求をしているわね。

　周りのお客さんも引いているわ……丁寧に謝りながら、理不尽な要求をやんわりと拒否している店員さんがかわいそうだわ。

　あらっ……あの人さらに激怒して店員さんのネームプレートをスマホで撮影し始めたわ……おそらくこのお店と撮影した店員さんのネームプレートをＳＮＳに投稿するつもりね……もしかしたらこの人、いろんなお店でこういうカスハラをしているかもしれないわね。

　別にネームプレートの名前なんて本名でなくてもいいのよね……最近では、ニックネームやイニシャルを採用している企業もあると聞くわ……そしてコールセンターなどで長時間、理不尽な要求や誹謗中傷を繰り返し、業務に支障をきたす人への対応を拒否して、電話を切るという事を推奨する企業もあるらしいわね。

　これからは、従業員を守る企業が生き残る時代になってきたわ……従業員を大事にしない、たいしてお客も来ない、店の電気代だけ無駄に消費するお正月に営業している企業は、これからの時代は淘汰されてゆくわね。

　たとえ今が絶好調な企業でも……

　さすがに店内の雰囲気が超最悪ね……見かねて帰るお客さんも出始めたわ……。

　あら、エルフさん、どうしたの……なんか腹立った……あの人にゾルトラークをおみまいしようかな？　破壊力が尋常じゃないからやめてね……お弟子さんも、そんな蔑（さげす）んだ目で杖を構えないで、しまってね。

　薬屋さんも、定番の黒い液体が入ったペットボトルはしまってね……毒なのでしょう……それ？　撒（ま）いたら店内が地獄絵図になるからやめてね……。

　これでは収拾がつかないわ……私がこの世界では想像もつかない技術でなんとかするしかないかしら……あらっエカテリアーナさん、いったいなにをするの……ほ〜っ、ほっほっ……わたくしにお任せくださいですって？

　あら……あの人のところに行ってしまったわ……どうするのかしら……。

　なんだかあの人に耳打ちして、彼女のスマホの画面を見せているわね……なにをしているのかしら……。

　あらっ……さっきまで怒鳴り散らしていたのが嘘のようにシュンとおとなしくなったわね。

　顔も青ざめて、店員さんに深く一礼して奥さんと店を出て行ってしまったわ……。

　いったいなにを言って、なにを見せていたのかしら？

　誰にも言えない弱みでもあったのかしらね……それにつけこむエカテリアーナさんもエグいわ……こんな短い時間で彼の個人情報を特定して、どんな恫喝をしたのかしら？

　まったく恐ろしいわ。

　それに、居合わせたお客さん達になんでも好きなものを選ばせて、自分が奢（おご）るなんて言い出しているわ……このお店の商品を買い占めるみたいね。

　彼女の財力からすれば、このお店の全商品を買い占めても、たいした金額ではないのでしょう……。

　なんだか妙な場面に出くわしてしまったわね……私達も甘いものを選んで拠点に帰る事にするわ……。

　それと……公務員を定年退職した夫を持つ奥様の皆様……一般人より潤沢な退職金を期待しているようだけれど、気をつけて。

　急に自分の好きな事をやりたい……なんて言い出して、ついてきてくれるよな……みたいな台詞をあなたに言ってくるかもしれないわ。

　蕎麦とか……ラーメンとかね。

　退職金全額使い果たして、誰も来ないようなすざまじい田舎に店を構えるのよね。

　その時に夫にカスハラしても遅いわよ……資産管理は慎重にね……。

　それにしても……カスハラって、低俗な振る舞いと遅れた事象だわ……。

　えっ……２ヵ月も更新が……

　ちょっとなに言っているのかわからないわ。

　カスハラかしら？

　あなたのところにエカテリアーナさんが行ってもいいのかしらね……？

　さぁこの次も、この世界のダメなところ

　あなたのそばで……

　囁いて……ア・ゲ・ル♡

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「イリア……この時期は男と女が、いかがわしい宿泊施設でまぐわう性夜ってイベントが開催されるんだって！」

「違うわよリリア……本来はもっと神聖な行事って聞いているわ……それに字が異なっているわ……各方面からカスハラに遭うわよ……」